君ト描ク青空ナ未来 --完結--
21
翌日。
登校すると早速、問題の種が歩み寄ってきた。
「昨日はどうしたの?心配したよ」
馴れ馴れしい態度に、空流だけでなく隣の圭介も顔をしかめる。
「空流、熱下がってよかったね」
矢口のことを無視して、圭介が話しかけてきた。
「うん、お見舞いきてくれてありがとう」
圭介のように完全に矢口を無視することはできず、チラチラと矢口のほうを見ながら話してしまう。
「へえ、熱あったんだ。学校休んでも、期限が明日なことは変わらないから、そのこと忘れないでね」
手を振って自分の席に戻っていった。
それと同時に、バタバタと音がして運動部の人たちが教室へ入ってきた。
「おう、空流。おはよ」
真志がさっそく1時間目の英語のノートを持って、空流たちのほうへ近づいてくる。
「おはよう」
「おはよ。全く、ここ数日はらはらしてたよ」
圭介も1時間目のノートを真志へ差し出した。圭介のノートを写さない間は、教師の問いにすべてわかりませんと答えて喧嘩を売っているかのようだった。
「あはは、悪い悪い」
悪びれなく言う真志を二人で笑って、1時間目が始まるのを待った。
またこうやって3人でいつもどおりでいられる日常が戻っていて本当に良かった。
「え、親戚だったの!?」
その日の昼休み、昼練をさぼった真志と圭介と中庭で昼ごはんを食べつつ、空流が一昨日知ったばかりのことを話した。
案の定、驚きの声が返ってくる。
「僕も知ったばっかりで実感ないし、全然そんな気がしないんだけどね」
「まあ、そうだろうなあ。こんなこといきなり聞かされて実感わけっていうほうが無理だよな」
「親戚っていっても遠いし、そんなに気にすることでもないかなって思うんだけど」
「だよな。従兄弟の子供なんてほぼ他人だしな」
「でも、空流と鷹島さんが親戚だったっていうのは、よかったなって思う」
意味深なことを言う圭介に二人の視線が向く。
「だって、親戚ならいくら遠縁でも空流の面倒をみてくれてる表向きの理由ができるよ。この先また矢口みたいなのが現われないとも限らないから」
「確かに。表向きの理由って必要だもんな。でも、これで矢口のことはなんとかなるってことだし、まあ良かった、よな?」
「うん」
その後は、矢口が何かいってきたときにどう言うかの対策を考えて、昼休みが終わった。
翌日の放課後。
案の定、空流が矢口から呼び出された。場所はこの間と同じ校舎裏。
「寺山君、今日って約束の日だけど、どうなってるのかな?」
「約束って、なんのこと?」
相手は勝手に約束と言っているけれど、空流は矢口の要求に頷いたことはない。
「あれ、そんなこと言っちゃっていいわけ?君が今どこで暮らしてるのか皆に言っちゃうよ?」
「僕、今親戚のところで暮らしてるけど、なにか悪い?」
「そんな嘘とっくにばれてるんだからやめなよ。鷹島の若社長との関係ってばらされたらまずいんじゃないの?」
「誠司さんとは、親戚だけど?」
空流の切り札に矢口がたじろぐ。
「まさか、どういう親戚なんだよ」
「僕の父方の祖母が誠司さんの伯母なんだ。だから別にばらされてもまずいことなんか何もないよ」
「そ、そんな遠い親戚なんて」
「でも、親戚だから。二人でどう暮らしてるかまでは、首突っ込まれる筋合いないよね」
空流が強く言い切ると、唇を噛んだ矢口が去っていった。
なれない芝居をした空流はほっと胸をなでおろす。
強気の発言を繰り返したけれども、これは全て昨日3人で作戦を考えた結果のこと。
内心はずっとドキドキしっぱなしだった。
「やったじゃん、空流。みたかよ、あの矢口の悔しそうな顔」
「これでもう当分は大人しくしててくれるはずだね」
校舎の影から出てきた二人と拳をあわせる。
「二人のおかげだよ。ありがとう」
まだ大人しくならない鼓動を落ち着かせながら、二人に笑いかけた。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-