君ト描ク青空ナ未来 --完結--
18
誠司の手を握ったまま、空流が話し出す。
「なんか、まだいっぱいいっぱいで、話してもらったこと全然消化しきれないです」
「それが当然です。いきなりこんな話を聞かされても戸惑うばかりでしょうから」
「でも・・・」
「でも?」
「誠司さんが悪いんじゃないってことだけは、わかります」
握る手に力を込めて言う。
「だって、誠司さんがやったことは一つもない・・から」
大地の婚約者を決めたのも、七海との結婚を認めなかったのも、遺骨を奪ったのも、誠司がやったことは一つもない。
「でも、私の家の者がやったことです」
「お家の人は、誠司さんとは別の人です。関係ないです」
きっぱりと言い切る空流に、誠司は何も言い返すことが出来なかった。
そんなことを言われたのは初めてで、なんと言っていいのかもわからなかった。
だって自分は鷹島を背負って立っているのだから、身内の責任は自分の責任も同然というのは当たり前だと思っていたから。
「誠司さん、調べてくれてありがとうございました。やっぱり、気になってましたから」
「本当に・・・ごめんなさい」
「だから、誠司さんが謝ることは何一つないです」
「家の者たちがしたことだけじゃありません。私も大地さんが出て行ったことを恨んだ罪があります。彼と共に出て行った女性を恨み、子どもが生まれてこなければと思ったりもしました」
「今も、そう思ってますか?」
「まさか。そんなわけがありません。あなたと出会えて、本当に良かったと思ってます」
「それなら、もういいじゃないですか」
自分も辛いだろうに、誠司に向かって笑ってそう言ってくれる。
「正直に言うと、全然、実感がわかないんです。話を聞かせてもらっても自分の中にあるのはやっぱり自分と一緒にいた母の記憶だけで・・・。だから、正直に言っちゃうと誠司さんとも親戚だったってことにビックリしてます」
空流自身、父親のことは覚えていなくとも、目の前にいる愛する人とほんの少しだけ血がつながっていたことに驚いた。
「ええ、私も知ったときは驚きました。だから空流が友達に『親戚のところにいる』と言ったのは嘘じゃないんです」
それは、話を聞いたときに自分も思ったこと。
親友の二人に告げたことが嘘ではないということがわかったけれども・・・思ったよりも心が軽くはならなかった。
二人へ言ったことが本当に嘘だったかどうかは関係ないのだとそこで気がつく。
自分がそれを言ったときに嘘だと思っていたら、それはもう嘘をついたことと同じだったのだ。
矢口に変なことを言われる前にあの二人に本当のことをいえていたらよかったのだけれど・・・。もう過ぎてしまったことは仕方がない。
これまではそのことに落ち込んで、呆然として、泣いてばかりだった。でも、今はそれを全部受け止めてもらった。
今度はどうすればいいのかを考える番だ。
「あの二人には本当のことを全部話そうと思います。今までのことも、僕がいまどうして清藍に通っているのかも、全部」
今、空流にできることはそれしかない。
圭介は空流が話してくれるのを待っていると言ってくれた。言葉はなくとも教室でずっと励ましてくれた。
真志には・・・もう嫌われてしまったかもしれないけれど、今の自分に出来ることはなんとか話を聞いてもらうだけだ。
二人とも失いたくない大切な親友だから・・・。
本当のことを聞いてもらって、自分がどういう気持ちでいるのかもわかってもらって、それでも、もう友だちでいることはできないというのなら、それは・・・仕方がないのかもしれない。
でも、まずは、やってみないと何も始まらない。
「二人に、全部話してもいいですか?」
誠司の家や誠司自身にも大きく関わる問題だから、誠司が是といわなければ話すことはできない。
「はい。空流がいいと思うのならば」
快く了承してくれた誠司に礼を言って、話が終った。
空流は、これまでのことを親友二人にどのように話すかを考える時間が必要だった。
そして、誠司は誠司で考えなければいけないことがあった。
交替で風呂を使って、今夜は別々の部屋で休む。
なんだかいつもより寒い気がするのは、気のせいだろうか。
誠司がいないせいかもしれない・・・。
と、思っていたが・・・。
感じた寒気は気のせいなどではなく、朝には熱が出ていた。
学校に欠席の連絡をしてもらい、仕事に行き渋る誠司のことを無理矢理送り出してから、眠り続けた。
あの二人に今日こそ本当のこと話そうと思ったのに・・・ダメになっちゃったな・・・。
あ、あと授業に遅れちゃうのも大変だ・・・。
意識に上るのは、そんなことばかりだった。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-