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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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17

『これからは、大地の分も頑張りなさい。お前はああなるんじゃないよ』
誠司の周りの大人たちはそれしか言わなかった。

大地のことは鷹島の汚点として早々に禁句となり、何も聞くことができなかった。
そして、大地より仕事も何でもできるようになって、自分のことを見捨てた大地を見返してやろうとした。

幸か不幸か、誠司にはその才能があった。
大学へ通いながら父の仕事を手伝い、頭角をめきめきと現すと、財界ではすぐに有名人となり、父親も鼻が高かったよう。
仕事に没頭し、次々と色々なことができるようになってくるうちに、大地のことはいつのまにか忘れ、単純に仕事を楽しむようになっていた。

だから、本当に驚いた。
久しぶりにその名前をみたときは。

そして、その資料には大地が鷹島の家を出た後のことが書いてあった。
小さな町工場に勤めながら、七海と二人でアパートに住んでいたらしい。
七海も実家の寺山家から手を回されないために、家を出た。
大地も七海も家から何も持ち出すことなく、身一つでのスタート。 

大地は持ち前の穏やかさと優秀さで、職場でもすぐに一目おかれるようになっていった。
七海も働ける間はと思い、パートタイムに出た。

そして、二人で暮らし始めてから約半年後、新しい命が生まれた。
その子どもが、今誠司の目の前にいる。

「けれど・・・とても残念なことに大地さんはもういません」
「なんで、ですか?」
「あなたがまだ2歳のとき、事故にあったそうです。そのときの空流と同じくらいの子どもを助けようとして、トラックの前に飛び出したと。その子は助かったようですが・・・大地さんは助からなかった・・・」

この後の話は、誠司の家の恥をさらすようでできるだけ誰にもいいたくなかった。
けれど、ここまで話したら言わないわけにはいかないだろう。

事故後、残されたのは七海とまだ幼い空流。
何の後ろ盾もない母親と幼い子ども。育てていくには、不安が多すぎた。
七海がそれを思うタイミングを見計らったように、アパートに身なりのいい男性が尋ねてきた。
大地の遺骨を引き取りに来た、と高飛車な態度で告げたのは黒川の家の者。
七海と空流を敵のように睨みつけ、遺骨の権利は自分たちにあると主張したらしい。
いくら親族だろうと、こんな男に遺骨を渡すのは七海も嫌だったに違いない。
けれどその男は、大地の遺骨を私達の墓に納めることを認めれば、その子を育てていけるだけの金を援助しよう、と申し出た。

なんと言われようと拒否したかっただろう。大地の遺骨を金で買おうとするその男のことも許せなかったに違いない。でも、空流を育てていくためには必要だった。
そして大地が生きていたらきっと、空流のことを全てに優先させてやってくれ、と言うに違いなかった。

そうして、大地は黒川の家へと帰っていった。
残された七海は、一人で空流を育てることとなる。


「・・・これが、その資料に書いてあることと、私が知っていることの全てです」
空流からどんな糾弾も受ける覚悟があった。
彼の立場からしてみれば、鷹島や黒川の家は恨まれるようなことしかしていない。

「私たちの家がしたことを考えれば、許して欲しいなんていうのも図々しいでしょう・・・・。そして私は、この事実をあなたに話したくないばかりにいつも何かしら理由をつけて、話すのを後回しにしてきました」
このことも、空流にとっては許しがたいことだろう。
この事実をもっと早く知っていれば、こんなに思い悩むこともなかったのだろうから。

「ただでさえ色々悩んでいるのに、こんなに重い負担をさらにかけてしまいました」

誠司が空流の肩に回そうと手を出したが、すぐに引っ込めた。
今の自分にはもう空流に触れる資格などないというように。
しかし、完全にその手を引っ込めることはできなかった。自分よりも小さい手に、その手を掴まれたから。