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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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12

「誠司さま、夕食の用意ができました」
加川からそう声がかかったのは、午後7時ちょうど。
「空流を起こしてくる」
「はい、食堂でお待ちしております」
加川はそういって、反対の方向へ歩いた。
私室から二部屋離れたところにある部屋をノックする。
返事を待たずにドアを開けると、空流はもうベッドから起き上がっていた。
「起きたばかり・・・?」
『ですか』と続きそうになる仕事用の言葉を必死に飲み込む。
そう聞くと、首を振る。
「夕食の用意が・・・」
できたから、食堂へ来て欲しい、と。
その言葉を言うだけなのに、どういう言葉遣いをしていいかがわからない。
迷っている時間が長かったのか、空流が首をかしげた。
「いえ、すみません。夕食の用意ができたそうなので、食堂に行きますね?」
結局言葉遣いは変わわぬまま。
とりあえず、しばらくの間それは変えられそうになかった。

そんなことを考えながら空流を横抱きにして、食堂へ。
さすがに廊下を歩くとなると、恥ずかしそうなそぶりを見せる。
「私と加川以外は誰もいないので、安心してください」
そう言ったけれど、空流は少し俯き加減なままだった。

食堂の椅子へ、空流を落ち着ける。
用意されているのは、二人分の食事。
目の前の少年は手を合わせていただきます、と言って食事に手をつけた。
空流の食事は少なめ。
それでも、食事をはじめてからしばらく立つと、箸を動かすスピードは格段に遅くなっていた。
「空流、多いなら残しても良いんですよ」
そう言っても、空流は首を振って食事をつづけた。
それでも、だんだん、顔色が悪くなっていく。
とうとう見かねて、立ち上がって空流の後ろから箸を取り上げた。
「もう、やめてください。無理はしないで」
箸を持っていた右手で、口をおさえる。
限界量を無視して食べ続けた人間が次にしてしまう行動は、誰もが予測がつく。
椅子から降りようとしたのか、床に膝をついた。
そのまま床に座らせる。
「加川」
「はい」
それだけで、言いたいことは通じて、ビニール袋と紙袋が重なったものがすぐに用意される。
空流にそれが渡されると同時に嘔吐。
私は空流が落ち着くまでずっと背中をさすってた。


嘔吐の後を全て消し去った後、自分の部屋へと空流を運んだ。
ベッドへ座らせて、隣に座る。
両手で今にも泣き出しそうな顔で俯いてる空流の両手を包み込むように握る。

「空流」
名前を呼ぶと、ますます下を向いてしまった。
「顔を上げてください」
とてもゆっくりと、顔が上がった。
そしておそらく、ごめんなさい、と口が動いた。
そんな言葉以上に、申し訳ないと思ってる気持ちが、目から伝わってくる。
「私が怒っていることは一つだけです」
空流の体がこわばるのがわかった。
「どうして、そんな無理をしたんですか。」
無意識に、肩を抱いた。
「一つだけ、約束してくれませんか?」
肩を抱く腕に少しだけ力を込める。
「もうあんな無理は絶対にしないでください。つらかったり苦しい事があったらすぐに言うこと。あとやりたい事があるときも」
また空流が少し俯く。
「約束してください、お願いです」
ゆっくりと首が前に動いた。
抱き寄せて、体を包みこんだ。
「あなたに無理をされると、私も苦しいです。どうか、何でも話してくださいね」
腕の中で空流が頷いてるのを確認しながら、体を放した。

「それにしても、出されたものは残さず食べるのを徹底するなんて、お母様はとってもいい教育をなさったのでしょうね」
その話を出すと、とても嬉しそうに笑った後に少しだけ寂しそうな顔をした。

空流が嬉しそうに笑った顔。
心が晴天の空のように澄み渡らされるような、そんな気持ちにさせられる。
ずっとこの顔を見ていたいと思った。

あの雨の日の夜、街灯もろくにない小さな道路で空流を一目見たときには、自分はもうこの顔をしっていたかのような、そんな錯覚にまでとらわれる。

あながち錯覚なんかじゃないかもしれない。
もしかしたら、もうわかっていたのかもしれない。
そんな不思議な気持ちにさせられるような力が、確かにあった。

けれど、その瞳にはすぐに寂しそうな瞳が宿る。
「寂しいですか?」
『もう、慣れました』
私にわかるようにはっきりと口を動かして、そう言った。
「私を母親だと思ってくださっても結構ですよ?」
初めて空流に向かって言った冗談は、幸運な事に的を外していなかったらしく、また空流の笑う顔を見ることが出来た。

そのことが、どうしようもなく嬉しかった。