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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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13

戸部真志はその日のことを一生で一番頭を使った日だと思った。

まず、朝から圭介に捕まって図書館や職員室を周り、清藍への編入生についての調査をした。
それを使って、弁護士さながらにクラスの嫌味な奴と戦った。

そして、その後も一生懸命考えなければいけないことがあった。


俺まで空流のこと変なふうに見たりして、本当にごめん。
空流はそんな奴じゃないって思ってたのに、疑うようなこと言ったし、しかも酷いことも言ったよな・・・。俺、興奮すると心にないことまで言っちゃう癖があるんだ。


・・・最後のはちょっと言い訳っぽいよなぁ・・・。

授業中にも関わらず、空流になんといって謝るかを必死で考えていた。
言いたいことを整理していくが、なかなか上手い言い方が見つからない。

悶々としているうちに、すでに放課後。
雨で部活は中止になったから、急ぐことはないと思いつつ空流の姿を探す。

「あれ・・・?」
目に入ったのは、矢口について教室を出ようとする空流の姿。
その妙な雰囲気が気になって、気付かれないように追いかけた。
「真志?」
廊下を歩く途中、明らかに不審な真志の姿を見咎めたのは圭介。
「何やってんの?」
「しっ。あれ見ろよ」
真志が指差す先には、矢口と空流の姿。
「圭介も一緒に来いよ」
腕を引かれて、一緒に追いかけることとなった。
・・・盗み聞きしにいくってことだけど、いいのかなあ・・・。
圭介はそんなことを思いながらも、真志だけ行かせるのも不安でついていった。

着いた先は校舎裏。
中庭からの芝生もこっちには続いていなくて、人気はない。
一人分の幅しかない屋根と通路に二人で張り付きながら、聞こえてくる会話に耳を傾けた。

何度、飛び出していこうとしたかわからない。
そのたびに圭介に腕を引かれ、首を振られる。
けれど、途中からはそんなこともなくなった。
矢口のいっていることが、信じられなくて・・・
空流がはっきり否定しないのも信じられなくて・・・
動けなかった。

話が終わったようで、矢口が自分たちの前を通り過ぎる。
まるで、何も見なかったかのように。

「今、空流に見つかるのまずいよ」
圭介がそう言って腕を引いてきたけれど、動けなかった。
きっと彼の言葉に従っておいたほうがいいのだろう。
けれど真志には、今更何も聞かなかったかのように振舞うことは無理だった。

雨に濡れた空流が歩いてくる。
空流の肌に赤い痕が浮かんでいるのが、真志の目にもはっきりと見えた。

「・・・ごめん。聞いちゃった」

圭介がそう言うと空流は雨の中、走り去った。

「・・・空流」
かける言葉が見つからなくて、姿が見えなくなってから名前を呟いただけ。
「・・・何なんだよ」
壁に拳を叩きつける真志を、圭介が教室まで連れて帰った。

「なあ、知ってたのか?」
誰もいなくなった教室で、圭介の席に座った真志が問いかける。
「知らなかったよ」
「・・・だよな」
けれど、圭介は空流に何か複雑な事情があることはなんとなくわかっていた。だから、矢口の言うことが全て本当だとも思えないけれど、全て嘘だとも思えない。
「空流の事情については真志のほうが詳しいじゃないの?」
「・・・4月にお母さん亡くなって、親戚の家の人の家に引き取られたの知ってた。俺、その親戚のところからここに通ってるって思ってた」
「それが一ノ宮?」
「名前までは知らない・・・けど、あんまりいい人たちじゃなさそうって、あいつが住んでたアパートの大家さんが言ってて・・・そっから連絡もつかなくなったし・・・」
いつもの勢いはなく、ぽつぽつと知っていることを語りだす。
けれど、ほぼ中学校の卒業ぶりの真志の言葉からそれ以上の情報は得られなかった。

「ねえ、真志。もしもの話だけど、矢口の言ってることが全部本当だったら、どうする?」

「なんだよ・・・圭介まで、空流のことそんな風に言うのかよ。あんな奴の言うこと、本当なわけないだろ」
「だから、もしもの話だって・・・」
「もしもでも、嫌なんだよ。もし、矢口の言ってることが本当なら、今度こそもう空流はもう俺の知ってる空流じゃないってことだよ」
そう言い捨てて、鞄をもって教室を出た。

だって、空流は言ってたじゃないか。
マクドナルドからの帰り、今はどこに住んでいるのかと問いかけたときに親戚のところに住んでいる、と。

けれど、この数週間の間、空流はそういう話をするとなんとなく話をそらしてきた。

それに、矢口の言うことが嘘なら、なんで否定しなかった?
俺たちと顔を合わせたときも、あんなの全部嘘だからって言えばいいのに。

同時に、空流の肌に浮かんでいた赤い痕を思い出す。
そして、駐車場で話をした後に、空流と一緒に帰っていった男のことも。

嘘じゃないから・・・俺に何も言わなかったのか・・・?

「・・・何なんだよ・・・」

校舎を出ても傘を差す気にもならなくて、雨足を強めた鋭い雨に打たれながら駅までの道を歩いた。