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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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12

『鷹島の若社長と君の関係を知ってるよ』

その言葉が一日中、空流の頭のなかをぐるぐると回っていて授業どころではなかった。

何を、どこまで知っているんだろう・・・。いったいどうして・・・。

矢口のほうへ視線を向けると、それに気がついたのか目が合った。
笑顔で手まで振ってくる。
好意からの行動とは思えなくて、すぐに目をそらした。

「ちょっと、俺の話きいてよ」
彼が声をかけてきたのは、放課後になってから。圭介がいなくなったときを狙って話しかけてきた。真志は自分の机に一生懸命向かっていてこちらの様子に気付かない。
「朝の話の続きしようよ。もし嫌だって言われたら勝手にここでしゃべり始めちゃいたいくらい、君と話したいんだよね」
脅迫じみた言葉に従うほかなく、黙って立ち上がった。

矢口のあとをついて、教室を出る。
行き着いたのは、校舎裏。転校してきたばかりの空流はこの学校にこんな場所があることすら知らなかった。
1人分の幅しかない屋根とコンクリートの通路。
すぐ脇は一日中降り続いている雨とそのせいでぐちゃぐちゃにぬかるんでいる土。

「話って、何?」
「むしろ俺になんか言わなきゃいけないことがあるのは、君のほうなんじゃないの?」
その言葉に押し黙る。
「今から俺の言うこと、間違ってたら否定してよ」
ポケットから一枚の紙を取り出し、読み上げた。
「4月に母親をなくし、母親の親戚のいる一ノ宮家に引き取られるが出奔。この期間、入学予定だった緑丘高校には出席していない。その後、消息不明期間が続き、最近になって鷹島の若社長のマンションに一緒に住んでいることが発覚。調査の限り二人に血縁関係などはなく、愛人関係とみられる」
「え・・なんで・・」
言われたことの正誤はともかく、なぜここまで空流のことを知っているのか。
「この学校に編入生なんて変だなって思って調べさせたんだ。たしかに鷹島の若社長ならここの上條理事長とも繋がりがあるし納得って思ったよ」
あまりの常識外の出来事に空流が呆然としている間にも矢口は話を続ける。
「鷹島の若社長、ずいぶん君の事可愛がってるんだね。こんな学費のたかい高校にまで君の事いれてあげてさ。しかも1学期全部欠席って普通なら留年ものでしょう?破格の扱いだよね。どうやったらあんな堅物そうな人のこと、タラし込めるの?消息不明の期間中そういう修行でもしてたの?」
「違・・う」
「何が違う?」
「僕と誠司さんは、そんな関係じゃない」
「へえ。じゃあ、どういう関係?」
そう問われて、自分と誠司の関係を適切に言い表す言葉が見つからない。
しかも、言われたことのショックで頭が冷静に回らない。
「ほら、合ってるじゃないか」
ニヤリと笑って、空流のワイシャツに手をかけた。
そのまま力任せに左右へ引く。シャツのボタンが飛び散って、空流の肌が露わとなる。
「キスマーク、ついてるよ」
白い肌に数箇所、赤く吸われた痕が浮かんでいる。
「・・・っ・・」
「そんな純情そうな顔してても、やることやってるんだね」
何も言い返せなくて、目をそらした。
「でも君のこと、立派だとも思うよ。誰が見たって一ノ宮に比べれば鷹島のほうがずっといいもんね。自分の体売ってまで、いい暮らし買うっていうのもなかなか出来ることじゃない。4月までアパートの一室暮らしだったっていうのに大出世だね」
「・・違う・・ってば・・・」
「そんな痕までつけられて、まだ言うの?何が違うのか言ってみなよ」
「・・・誠司さんとは、そんな関係じゃない」
「『誠司さん』ねえ。じゃあ、このキスマークは誰の?」
それが誠司がつけたものであることだけは事実で、何も言えない。
うつむく空流の顔を覗き込んで、矢口が笑う。
「そんな深刻そうな顔しないでよ。俺はこのこと誰にいうつもりもないんだからさ」
「え・・・?」
「こんな話、吹聴するようなえげつないことしないよ。でもさ、もし君が俺の言うこと聞いてくれなかったりしたら口が滑っちゃうかも」
空流の両肩に手をおいて、にこにこしているが、その目は笑っていない。
「俺の家の会社、今ちょっと苦しいんだよね。鷹島グループにちょっと援助してもらえれば、すっごく助かるんだけどよなあ。だからさ、若社長のかわいい愛人である君が、友だちの会社が苦しいみたいって可愛く言ってくれるだけで助かるんだけどなあ」
最初からそれが狙いかと空流の目つきが険しくなる。
「怖い顔しないでよ。俺の言ってることなんて難しいことじゃないでしょう?」
「・・・でも、仕事に口出すのは・・・」
「うるさいよ。ばらされたいの?」
「だから、僕は誠司さんとそんな関係じゃない・・って・・」
「別に事実なんてどうでもいいんだよ。皆がそう思えば、それが事実になるんだから。でもさ、僕は君をみんなの軽蔑の視線から守りたいんだよ。俺の言ってること、わかるだろ?」
「・・・・そんな・・」
「わかったよね?」
何も言わずにいると、肩にかかったままの手に力が込められる。
「痛っ・・」
「期限は3日だから。俺の言うことわかってくれて、嬉しいよ」
空流の肩をたたき、校舎裏から去っていった。

呆然とその背中を見送ることしかできずに、そこに佇むことしばらく。
雨の中へ落ちたシャツのボタンを拾い集めた。
雨粒が体を叩いて、シャツを濡らしていく。
濡れることなど構わずに、見つからないボタンを探した。

最後の一つが見つかって、校舎裏を出ようとすると、人影が目に入った。
誰だろうと思って顔を上げると、そこにいたのは二人の親友の姿。

「・・・ごめん、全部聞いちゃった」

二人の横を抜けて走り出した。
言うべき言葉が、見つからなかった。

絶対に、失望された。

世間からみたら、自分と誠司の関係はそうとしか見えないのかもしれない。
矢口の言っていることなんて、根も葉もないことだけれど・・・ある意味ではそれが正しいのかもしれない。

大分前に、誠司の秘書である喜多川が言っていたことを思い出す。

『あの少年は、絶対に将来、誠司さまの活躍の邪魔になります』

あれは、こういう意味だったのかもしれない。
世間からみれば、自分たちの関係は異様だろうから。
それを見越して、喜多川はああいっていたのか、と思う。

『みんながそう思えば、それが事実になるんだから』

その言葉も、もっともだと思った。

それでも、あんな言い方をされたことが悔しくて、やるせなくて・・・友だちにそんなふうに思われるのも嫌でたまらなかった。

雨に濡れながら歩いていると、いつのまにか反対側の校舎裏に出た。
こっちには屋根もコンクリートの通路もないせいで、誰もいない。
壁によりかかって、ずるずると座り込んだ。

もう、誰にも会いたくない・・・。

自分の膝に突っ伏すと、何も見えなくなって、雨の音だけが聞こえてきた。
早朝に誠司と一緒に聞いた雨の音より、ずっと冷たくて鋭い音。