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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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11

学校へ行くと、圭介も真志もまだ教室にいなかった。
雨でも朝練のある真志がいないのはいつものこととして、圭介はいつも早いのに。
隣の机をみると、鞄は置いてある。どこか出かけているようだった。

クラスメイトの視線がちらちらとこちらを向く。
空流についての心無い噂は、もう3組でも知らぬ者はいなくなっている様子。
居心地の悪さを感じながらも気付かないフリをして、1時間目のノートに目を落とした。
「寺山君」
空流の目の前に立ち、声をかけた相手は圭介でも真志でもない。
「矢口君・・・?」
「もう名前覚えてくれたんだ、嬉しいなあ。あ、でもこの学校に編入できるくらいだから、そのくらいは楽勝?」
この言葉が嫌味であることを顔が物語っていた。この前の実力テストの成績がよくなかったことも知ってるだろうに。
「何か、用かな?」
出来るだけ早く話すのを辞めたいと思いながら問いかける。
「うん、実はさあ、俺、君と仲良くしたいんだよね」
「え?」
「言葉の通り。守屋とか戸部なんかと仲良くするより、俺と仲良くしたほうが得だと思うけどなあ」
顔をしかめてしまう。
「嫌な顔しないでくれよ。俺のお父さんはこの学校の役員なんだ。だからさ、俺が君の編入が正当なものであることを証明してあげるよ」
それを言った後、さらに続けて皆には聞こえないようにひっそりと言った。
『たとえ正当じゃなくても、正当だって言ってあげるからさ』
その言葉にきっと顔を上げる。
しかし、同時に横で机がガタンと倒れる激しい音がした。自分たちだけでなく、クラス全員がそっちを向く。
「おい、ふざけんなよ、矢口」
机を蹴り倒して、据わった目で矢口のことを見るのは、真志。さらにその後ろには圭介の姿。
「聞いてりゃ、空流が不正編入したみたいな言い方しやがって」
クラス全員が真志に注目する。
みんなの前で引っ立てられる形となった矢口からは急に落ち着きがなくなった。
「だ、だって、異例じゃないか、こんな編入の仕方。しかも、うちの編入試験に合格できるほどの彼が優秀だとは思えない」
それは矢口だけでなく噂を聞いたものなら誰でも思うこと。
「じゃあ、お前。この前のテストの国語と数学は何点だったんだよ」
「なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
「言っとくけど、その2教科はお前よりも空流のほうが点数いいからな」
「じゃあ言わせてもらうけど、それならなんであんな順位だったんだよ」
「お前バカじゃないのか?ちょっと考えればわかるだろ。うちの学校では理科は生物、社会は世界史と政治経済をやってる。でも、どこの学校もそうとは限らないんだから、やってた教科が違えばブランクがあるのは当たり前だろうが」
1年の履修科目が地学だったり、日本史だったり政治経済だったりすれば、いきなり受けさせられたテストが不利なのは当たり前。
「で、でも、たとえそうだとしても異例の編入試験だったんだろ!?それだけで不正を疑うのは充分だよ」
「これもちょっと考えればわかるだろ。うちのクラスは今まで29人だった。でも他のクラスは30人いる。1人足りないから募集をしたんだ。今朝職員室で聞いてきたけど、何らかの理由でクラスが30人に満たない場合は学期ごとに編入試験を行うって葉山先生が言ってた」
あまり頭が強くないと思われているスポーツ推薦入学の真志に理路整然と言い含められて、矢口の表情に苦悶が浮かぶ。
「でも、公募はしてないだろ!?」
「電話で問い合わせがあれば、答えるそうだよ。ただあまりに実施実績が少ないせいで問い合わせ自体がほとんどないらしいけどね」
付け加えるように答えたのは圭介。
二人の説明を聞いて、矢口が悔しそうに唇をかむ。
意外な時に意外な人物たちから真相を聞かされたクラスメイトたちは、噂話はやっぱりただの嘘かと興味を失って各々の会話に戻っていったよう。
「真志、圭介・・・」
この二人が今朝、いなかったのはまさか・・・。
「僕は空流と真志がいつまでもくだらない噂に踊らされるなんて癪だから、今朝、思い切って職員室行って調べてきたんだ。朝練中だった真志のことも引っ張って行ってね」

今朝、圭介がサッカー部の朝練を覗くと、雨のせいで参加人数も少ない上、真志もどこか気が抜けている様子だった。
圭介の姿を見つけ真志が驚いている。真志が最後に圭介と話したのは、公園で酷い言葉を投げつけたときだとわかっていたからか、目を合わせることにためらう様子。けれど、圭介はどんどん真志に近づいていく。
「真志、僕たちまでくだらない噂に振り回されるのやめよう」
そう言って、朝練から真志を連れ出し事実を調べに行った。
調べている途中に真志が圭介へこの間の暴言を謝った。そして、色々調べるうちに、噂自体が根も葉もないことだという論拠が揃った。
「俺、空流にも、ちゃんと謝らなきゃな・・・」
「そうだね」
並んで廊下を歩きながらそんな話をしたのが、1時間目も始まる間際。
そして教室に戻ったら、矢口が空流に変なことを言っていたというわけだ。


「ふうん。正当な編入だってわかってよかったね」
態度を一変させて、矢口がにやりと笑む。
「でも、俺が寺山君と仲良くしたいと思ってるのは本当だよ。君と仲良くすると色々いいことがありそうだからね」
何か含みのある言い方。
「言いたいことがあるなら、はっきりいえよ」
真志が矢口を怒鳴りつける。
「大きい声だすなよ。野蛮だなあ」
彼は空流の耳元にそっと顔を近づけて、衝撃的な一言を言った。『俺は知ってるよ、鷹島の若社長と君の関係』
空流の目が見開かれる。
「俺たち、お互いに仲良くしたほうがいいでしょう?」
鷹島との関係をばらされたくなければ仲良くして欲しい、と。
もちろん、その『仲良く』とは単純な子ども同士の付き合いのことを指すわけではないだろう。
瞬時に何も言い返せない空流の横で、真志と圭介が一体何を言ったのかと矢口を睨む。
「気になるなら、本人に聞けば?」
空流はきっと二人に話すことは出来ないだろう、と矢口は笑う。

チャイムが鳴った。
先生が教室へ入ってきて、そこにいた4人は否応なく席へ戻ることとなった。