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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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空流に酷い言葉を吐き捨てて去った後、真志も自分の気持ちがどんどん沈んでいくのを感じていた。
あんなことを言いたいために、空流と話をしたのではなかったのに。

そう思いながら、グラウンドから駐車場のほうをみる。土地が傾斜しているのか、グラウンドは駐車場よりも高いところにあり、見下ろす形となった。

『一緒に帰りませんか?』

糊が利いたスーツに身を包んだ若い男が空流にそう話しかける。
そして空流もそれに答えて、車に乗って去っていった。

「・・・なんだ、あれ」
今まで憤りと消沈に占められていた心に今度は混乱が加わった。
一緒に帰ろうということは、一緒に住んでるということ。
空流は親戚の家にいると言っていたけれど、真志が見た光景はどう見ても親戚という感じはしなかった。
「何なんだよ・・・どうなってんだよ」
わけのわからない感情は再び怒りへと変わっていって、近くの小石を蹴った。
「・・・部活いくか」
結局気を紛らわせるにはサッカーをすることしか思いつかなかったのだが、そんな状態でいいプレーができるわけもなかった。


「真志」
気が抜けていると部活で怒られ、さんざんな一日だったと苛苛しながら、昇降口で靴を履き替えていると自分に呼びかける声。
「圭介!偶然・・・なわけないよな」
「うん。サッカー部終るの待ってたんだ」
そう言って微笑む友人は、自分のことなど全てお見通しなのではないかと思った。

学校の近くの公園で、二人でブランコに座って話している。
「空流、なんだって?」
圭介が聞くが、真志はそれに答えない。
「だから余計なことはしないほうがいいっていったのに」
苦言を呈する友人をつい睨み付けてしまう。
「どうせ真志のことだから、感情に任せて心にもないことまで言ったんでしょう?」
その言葉が当たってるだけに、何も言い返せなかった。
隣の友人はそう言ったきり真志の言葉を待って黙っている。
こうされると、素直に白状せざるを得ない。
「空流が、噂は本当かもって・・言ってた」
「なんの根拠があって?」
「今、あいつ親戚の人のところで世話になってるらしいんだけど、その人が理事長と知り合いみたいで。しかも、編入試験できた気がしなかったのに合格したって」
「それだけ?」
「そうだけど」
「そんなの、何の証拠にもならないよ」
「え?」
「だって理事長の知り合いの息子なんてうちの学校にどれだけいると思ってるの。まあ、みんな入学試験は合格してきてるわけだけど、空流だって編入試験に合格してる」
「でも、出来た気がしなかったのに合格したって・・」
「じゃあ、真志はここのスポ薦受けたとき、間違いなく『受かった』って思って帰ったの?」
「・・・んなことない・・・」
「空流だって、一緒だよ」
圭介に言いくるめられて真志は黙ってしまった。しばらくの沈黙が二人の間に流れる。
沈黙を破ったのは、圭介。
「真志はさ、空流と話して何ていいたかったの?」
「・・・それは・・・」
とても大事なことなのに、全く考えてなかった。
自分は空流に何を言うつもりだったのか、今更ながらに考えてみる。
・・・緑丘に1学期の間行ってないことを嘘だって言ってほしかった。
・・・噂なんて嘘だ、って言ってほしかった。
考えてみれば、空流に言ってほしかった言葉ばかりが思い浮かぶ。
でも、それを言ってほしかったのは・・・真志も用意している言葉があったから。
「俺は空流に、噂なんて全部嘘なんだから気にするなよって言ってやりたかった・・・」
「うん、多分そうだと思った」
「でも、空流が噂は本当かもとか言い出すし・・・しかも実は緑丘に行ってなかったこととか、あいつが今いる家のこととか、全然何も知らなくて、話してくれないのもなんか悔しかった」
言いながら、やっと自分の気持ちに気がつく。
再会できて仲良くなることが出来たのに、何も話してくれないことが辛かった。なんで何も話してくれないんだろうと今でも思う。
「それに、今日、見ちゃったんだよ。空流が、どう見ても親戚じゃなさそうな男の車に乗って一緒に帰ろうって言ってるの。なあ、圭介はどう思う?」
きっとこの時、真志は友人に『気のせいだよ、多分親戚の人だよ』と言ってもらいたかったのだ。知らず知らずのうちに、空流のときと同じことを繰り返していた。相手に言ってほしい言葉を期待してしまう。
「空流には、空流の事情があるんだよ。だから話してくれるまで待つしかないって思う」
思い通りの答えが返ってこないと、つい苛苛してしまう。
「真志だって余計なことはしないほうがいいって、今日でよくわかっただろ?」
その言葉が、収っていた憤りに再び火をつけた。
「圭介は、いつも余裕だよな」
「え?」
「圭介はさ、俺と違ってすげー頭いいし、多分俺よりいろんなことわかってるんだろうけどさ・・・。でも、自分だけが何でも分かってますみたいな顔されるのって、すげームカつく。残念なことに、俺は圭介みたいに、そんな余裕で構えてられるほど先も読めないし、心も広くないからな!」
一度火がついた憤りはなかなか冷めずに、言葉が止まらなかった。
「いつも先を考えないバカで悪かったな」
嫌味まで言って、走り出した。

何も考えずに走っていたら、もう隣駅の傍だった。
走るのをやめて、とぼとぼ駅へ向かって歩き出す。
カッとなると自分を抑えられない性格なのは、自分でもよくわかっている。
空流だけでなく、圭介にまで酷いことをいった。

真志だって、空流には空流の考えがあることも、圭介には圭介の考えがあることも頭では理解できている。
でも・・・、自分だって・・・いろいろ考えて、良かれと思って動いてるのに・・・。


次の日の朝鎌にも、当然身が入らなかった。
先輩に叱り飛ばされながらメニューをこなして、のろのろと着替える。
「真志、チャイム鳴るぜ?」
「1時間目、古典じゃん。急いで帰らないと守屋のノート写す時間ないんじゃないの?あと写し終わったらお前のノート俺にも見せて。今日当てられる日っぽくて」
真志はいつも予習が完璧な圭介のノートを写すのが日課。隣の席のこいつはよく当てられる直前に真志のノートを覗き込む。
「もうそれ期待しないほうがいいかも」
結局教室に入っても空流とも圭介とも目をあわさぬまま、自分の席に着いた。
当てられたところは、全て「分かりません」と答え、教師にも睨まれた。

昼休みも放課後もわき目も振らずに部活に行く。
結局意地を張って、一度も二人のほうには目を向けなかった。