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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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空流が異常に気がついたのは次の日。
真志の様子がおかしい。しかも、圭介はやれやれと言った顔でため息をつくだけで、真志に対して何も言わず、空流に対しても気にしないほうがいいの一言。
見かねて空流が真志にどうしたのか聞いてみると・・・
「空流、放課後って時間ある?」
「うん?あるよ」
「ちょっと話があるんだけど」
「いいよ」
何か悩みごとでもあるのかと思って明るく請け負うと、それにも真志は微妙な顔。
その様子を見ていた圭介は、ここ数日で何度目かわからないため息をついた。
だから余計なことはしないほうがいいって言ったのに、と思う。

来たる放課後、教室には人影があるからあまり人がいないところで話そうと外へ出た。行き着いた先は、グラウンドの向こう側にある駐車場。遠くから部活をする人たちの声が聞こえてきて、日陰の涼しさが丁度いい。
「真志、話って何?」
車をとめるための段差に座って、真志が誰もいないことを確かめた。
空流は暢気に、そんなに人に聞かれたくない話なのかな、と思う。
しかし、真志の一言で空流の表情は凍りついた。
「空流、俺さ・・・緑丘高校に友だちがいて、そいつに昨日会ったんだ」
真志は昨日、学校から帰った後、空流の悪い噂を晴らそうという善意で緑丘高校の友人と会う約束を取り付けた。サッカークラブで知り合った友達だから、同じ中学校ではない。
寺山空流という生徒がいたかを彼に聞いてみた。クラス数も多いようだから知らないかもしれないけれど、念のためという期待をこめて。
『寺山空流?ああ、名前は知ってる』
『なんで学校辞めたのか知ってるか?』
『知らないよ。名前は知ってるってだけ。ていうか顔知ってる奴は誰もいないよ。だって寺山空流って一回も学校来てないし。入学式の日から欠席で、連絡もとれないみたいだったし。ああ、でも、2学期に入ってからあいつの席なくなったから、欠席がかさんで留年決定して辞めたんかな』
彼の言葉が信じられない真志は、もう一度はっきりその友人に同じことを言ってもらった。
決して自分の聞き間違いではないことを確認するために。
・・・信じられない。
友人に礼を言うのもそこそこに、頭を混乱させながら家にたどり着いた。
空流本人に言うべきかどうか、さんざん迷って、結局本人から心配される始末。
秘密ごとが性に合わない真志は空流に聞いてみることに決めた。圭介にはあきれた顔をされたけれど。

「なあ、空流。1学期の間は緑丘に行ってた・・よな?」
昨日の友人の話は何かの間違いで、迷いなく頷いて欲しいという真志の願いは、空流の沈黙で破られた。
「なんで、何も言わないんだよ。お前、前の学校で問題起こして退学になって、ここには理事長のコネで、寄付金積んで編入したっていう噂流されてるんだぞ」
その言葉に空流がはっと顔を上げた。
否定の言葉を期待した真志は、顔をあげても何も言わない空流に苛立つ。
「違うって言えよ」
真志が必死にそう言うのを聞きながら、空流は唇をかんだ。
そんな噂が流れたのは、きっとこの前の実力テストの順位がよくなかったことが関係しているのだろうと思う。そして、その程度の学力しかない自分に、噂を否定する権利はない。
そして、空流にも思い当たる節があった。
たった一人だけの編入試験。
出来た気がしない編入テスト。なのに一瞬で決まった合格。
誠司と理事長の力がなければ、入ることができなかったに違いない。
寄付金のことについても、誠司なら空流に何も言わず、そのくらいのことはしそうだった。
「その噂・・・間違ってない、かも」
「なんだよ、それ!どういうことだよ。前の学校のことはともかく、空流がここにコネで入る人脈なんてないはずだろ」
何も言えない空流に真志の苛々は募る一方のよう。
空流のことを『自分と同じ者』として感じてくれている真志に、今の境遇を話すのはためらわれた。それを話して、距離を置かれるのが怖かった。
「何とか言えよ・・・」
それを言ったきり、真志は何も言わなくなった。
「ごめん・・・。今お世話になってる人がここの理事長とつながりがあるのは本当だし、編入試験もできた気がしないのに合格だったのも本当なんだ」
空流の次の言葉を待つ真志は何も言わない。けれど、空流もそれ以上は何も言えなかった。
「もういいよ」
真志が立ち上がった。
「空流も金とコネでなんとかするような人間になちまったってことだろ。知ってると思うけど、俺も昔の空流もそういう人間が大嫌いだ」
お互いの恵まれない境遇に負けず頑張っていこうと約束した友にそれを言われて、何も言い返す言葉がみつからなかった。
「ここ数週間、俺のこと相変わらず貧乏だなって思って嗤ってたのかよ?」
吐き捨てるようにそれだけ言って、真志が去った。
「違・・・」
否定する言葉はすでに届かない。


「空流?」
呼ばれて顔をあげると、なんと誠司の姿。
「どうしたんですか?こんなところで」
「・・・ちょっと色々あって・・」
明らかに元気のない空流がこんな所にいるのか気になる誠司だが、何があったのか話したくなさそうな様子に、とりあえず今は何もきかないことにする。
「誠司さんは、なんでここに?」
「理事長の上條先生は仕事相手ですから」
いつもならば、商談は鷹島のほうで行われるのだが、今回誠司がわざわざ赴いたのは空流の生活する場所がみてみたいというちょっとした下心。
「帰るところなら、一緒に帰りませんか?」
「もうお仕事はいいんですか?」
「たまには、早く切り上げても罰は当たりません」
自分がそれを言うと、元気がないながらも嬉しそうな顔をする。
「どこかで食事してから帰りたいところですが・・・まだ早いですね」
車の運転席と助手席に乗り込む二人。

そして、その車は誰がみてもわかるほど丁寧に磨き上げられている高級車。

車が去っていくのをじっと見つめる瞳があった。