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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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数学の宿題テストをなんとか無事に終えることができた月曜日。
その日の帰りのHRで、またもや空流にとって大問題が起こった。
「夏休み前にもいったからみんなわかってると思うけど、金曜日は実力テストだから忘れないように」
ところどころで、えー、という声があがるが、誰も驚いてはいないよう。
ちらりと隣をみると、当然、圭介は顔色一つかわってなかった。

「実力テストってなに?」
珍しく部活が休みなのか、真志が放課後教室に残っていたから聞いてみた。
「その名の通り実力を測るテスト。範囲はこれまでの全範囲ってやつ」
頭がくらくらしそうになった。いくら編入試験の勉強してたっていっても、あれは授業に合流するための最低レベルを図る試験であって・・・これまで清藍で授業を受け続けてきた人たちと互角に戦えるわけがない。
「空流には気の毒な話だよなー。でも、実力テストなんだから、そのために勉強する必要なんてないって。成績にも関係ないし。気楽にやれば?」
「うん・・そうだね」
「まあ、ビリは多分、俺らスポ薦組の誰かだろうしな」
「え、順位出るの?」
「おー。いまどき珍しく、クラスごとに順位表が張り出されるぞ」
「そっか。・・気が重いな」
「だよなあ。空流は中学じゃあいつも上位だったしな。誰かに勉強教わってる空流の姿なんて想像できなかったっつーか・・・」
「でも、ここにはそれぞれの中学から出来る人が集まってるんだから、しょうがないんだけどね」
「だよな。俺も頑張らないとな」
「そうだよ。いっつも圭介のノート写してばっかりじゃん」
「違う違う。勉強はもう諦めてるからいいの。サッカーのほう」
「そっか、真志は中学ではずっとエースだったよね」
「なんだけどなあ・・・」
「どうしたの?」
「スポーツ推薦でここに入れたことは嬉しいけど、出来る奴ばっかり集まってるから俺なんて石ころ同然だよ」
珍しく弱気にため息をついている。
「真志でも、そんなこと思うんだ」
「そりゃ俺も弱気にくらいなるって」
「そっか、真志でもそうなんだ・・」
「でも、お互いこれからじゃん?中学校のときみたいにさ、2年後には絶対俺はエースになってやるから、空流も学年トップを争うくらいになれよ」
ニッカリという言葉が似合いそうな笑みを作って、そう言ってくれる。例え弱気になっても、こうやっていつでも明るく未来を語れるところがすごいな、と改めて思った。
「うん、そうだね。頑張ろう」
思い出してみれば、3年前にもこうして話したことがあった。

『お互い家庭の問題で色々大変だよな。ま、でも、俺らがどうこうして変えられるもんじゃないし、ガッチリ受け止めて、他の奴より何倍もがんばろうぜ。いつか俺らのこと舐めてる奴らに、「片親がいないから何?お前らよりユーシューだよ?」って言ってやろうぜ』

そうやって、3年前に明るく笑いかけてくれたのもこの同級生だった。
そして3年前は、その言葉通りになった。真志はサッカー部のエースになり、空流は学年でトップを争う成績を残した。

「いま、真志がこの学校にいてくれて本当に良かったって思った」
「なんだよ、いきなり。まあ確かに空流ってちょっと人見知りだからな」
そういって快活に笑う。
人見知りのこともそうだけれど、それ以上にまた頑張ろうと思う気力を持つことができる。
「実力テスト、頑張ろうかな」
「おう、頑張れ。でも、マジで難易度高いから。先輩に聞いたけど、酷いときなんて平均点30点とかだってさ」
顔が引きつった。もちろん100点満点でのテストの話だろうから。
「すごいね、それ」
「ははは、俺もビックリしたー。ところでさ、空流もう帰るとこ?」
「うん」
「あのさ、一緒にマックいかね?」
「え、いいけど」
「よし、行こう」
向かったのは学校から駅3つ離れたところにある店舗。
学校の最寄のマックは嫌だと言うからわざわざこっちまで足を伸ばした。
中途半端な時間だからか、店はすいていて、すぐに注文して席に座ることが出来た。
向かいに座った真志のトレイを見ると、100円で買えるバーガーが3つに、水。
「いっただきまーす」
そう言ってバーガーを食べ始める。空流はドリンクで付き合っているだけ。
「よくそんなに食べられるね」
「俺、朝練もあるし、昼休みはぜんぶ昼練にいくから、毎日早弁。放課後になるとめちゃくちゃ腹減るんだよな」
「うわあ、大変だなあ・・・」
「まあ、それはもう慣れたからいいんだけどさ。問題は部活の後か今日みたいに部活のない日。こういう時って部活仲間とかと何か食って帰ろうみたいな話になるだろ?」
「うん」
「俺らの感覚だとそういう時って普通マックじゃん?でも、あいつらレストランやらカフェやらに普通に入るからな。コーヒー1杯でコレ5個食えるんだぜ?もったいねー」
それを言う瞳が真剣そのものでちょっと面白い。
「最初のうちは無理して付き合ってたけど、やっぱ俺は質より量!それに、たとえあいつらとマックきてもこんな注文の仕方できねぇしな。俺にも一応意地があるし」
あまり品のいい注文の仕方じゃないなってことをわかってはいる。真志がなんとなく意地をはってしまう気持ちは分かる気がした。
「だからさ、いいたいのは、俺も空流が転校してきてくれてすげー助かってるってこと」
「ありがと。好きなだけ100マック注文してきなよ」
「おう、サンキュー」
そう笑いあって、結局真志はもう一個ハンバーガーを注文しに行った。

帰り路、また電車に乗るわけだが・・・
「ところでさ、空流っていまどこに住んでるの?」
そういえば、真志にすら全くいきさつを話してなかった。
でも、まぶしいほどの明るさを持つ真志には、今まであったことを話したくないと思った。きっと暗い気持ちにさせてしまうから。だからとっさに嘘を言ってしまった。
「今は親戚の家に住んでるんだ」
「そっか。上手く行ってるのか?」
「うん、まあ」
「それならいいけど、家出したくなったらいつでも俺んちに泊めてやるからな」
「ありがと。もしものときは、頼りにしてる」
頼もしい友人にそう言って、反対方向の電車に乗った。

暗い気持ちにさせたくないから、これまであったことを話したくないというのは本当。
けれど、自分と感覚が合うことをあんなに喜んでくれている友人に、今の生活を話したくないというのも本音だった。