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律姫 -ritsuki-
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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第三部・30話〜35話


30

「清藍高校に、行きたいです」
もう一度はっきりとその意志を伝えた。
「そう言ってくれて、とても嬉しいです」
心から笑顔になって、空流を抱き寄せる。
けれども、はっと何かを思いついて手を離した。
「もしかして、俊弥の説得ですか?」
「いえ、俊弥さんじゃなくて・・・敦也さんのほうです」
その名前をきくと誠司は少なからず苦い顔。
「敦也君も一緒だったんですね・・・」
俊弥から大まかな事情をきいてはいるものの、大事な空流をあんな目にあわせたことを赦しきれたわけではない。
「今しかできないことをしたほうがいいっていわれました。敦也さんの事情を聞いてその通りかもしれないって・・・」
誠司もそれなりに敦也の事情は知っている。
今でこそ普通の大学生だが、彼が中高生のころは兄の俊弥が大分苦労していたことも。
「どんな理由にせよ、空流がそう思ってくれたなら私からはなにもいうことはありません。手続きをしておきます。といっても2学期まではあと2週間ほどですね」
期間の宣告には少したじろいだ。
きっと体中の勇気を振り絞らなければいけないときまであと2週間。
「おそらく形だけですがテストを受けてもらうと思います。中学校の全範囲と高校1年生の1学期の問題を英数国の3教科」
それを聞いて、顔が引きつる。
中学校の範囲は、おそらく少し復習すればなんとかなるだろう。
問題は、高校1学期の問題。
「あと2週間で・・・」
ちょっと無理そう・・・なんて思ってはいけない。
なんとしても誠司のためにそのテストでいい成績を収めなければいけないのだ。
とりあえず、もらっているお金で参考書と問題集をもうちょっと充実させて・・・。

そんな算段をめぐらせているときに、誠司の携帯電話が鳴った。
俊弥の名前が表示されていたから電話に出る。
『もしもし?誠司。空流くんとお話中だったと思うけどちょっと邪魔させてもらうよ。じつは大学生のボランティアの紹介がしたいんだけど』
「ボランティア?」
『家庭教師のご紹介。医大生で俺の弟。時間はそんなに自由にならないかもしれないけど、その代わり無償でいいって。いろんなお詫びもかねてだってさ』
「敦也くんが・・・」
事件が起こる前だったら二つ返事でお願いしたところだけれども、今は微妙な気持ちだ。
『外部からの変な人に任せるよりも敦也のほうが安心じゃない?だって誠司のいない家で二人っきりでお勉強だよ?』
そう言われてみればその通りで・・・。
誰もいない家で二人っきりで勉強。
しかもあの空流の無防備さときたら・・・。
微妙な気分でも外部の人間に頼むよりはよっぽど信頼できる。
『・・・わかった。敦也くんにお願いする』
「オッケー。じゃあ都合つくときに向かわせるけどいつがいいか空流くんにきいてみて」
この電話で起こっていることをすべて空流に説明して都合を聞く。
話の展開にたっぷりと恐縮しつつ、これから2週間は勉強しかしないからいつでもいいです、と空流がいった。向こうはいくつかの日付を提示してきたが誠司の休みでもある明日の夕方に一度話し合うこととなった。

「よかったです。正直に言うと、高校の教科書はわからないところがいっぱいあって・・・」
「もう教科書を読んでるんですね。向こうも空流が教育を受けられる環境になかったことは承知しています」
「なんとかなるといいんですけど・・」
「大丈夫。敦也くんも俊弥もみんなが協力しています。きっと空流には人に好かれる才能があるんでしょうね」
「そんなことないです。周りがみんないい人なだけで・・・」
「でも、その才能が私には少し恨めしい」
そう苦笑いをする誠司に見つめられて空流の頬が赤くなる。
「あ、あの・・・明日お休みなんですね」
真剣なまなざしに緊張してしまって関係のない話題を切り出した。
「はい。久しぶりに休みがとれました」
違う話を始めても誠司の視線は止まぬまま。
見つめられると緊張して何を言っていいのかわからなくなってしまう。
「なので今夜、私の部屋で一緒に休みませんか?」
耳元でささやかれた言葉。一文字づつ耳から脳へと伝わっていって、全部が脳へ伝わりきったところで意味の処理が始まる。
その言葉の意味がわかったところで顔がみるみる紅潮していくのがわかった。
「今は何もする気がないと言ったばかりなのに・・・嘘つきですね。でももちろん私を正直者のままにしておいてくれてもいいんですよ」
無理をされるほうが辛いから、といって空流に風呂をすすめた。
誠司は自分はもう風呂に入ったから部屋にいるとだけ告げた。
お互いに気が気ではないまま時間を過ごし、約30分後、シャワーが止まり、風呂場のドアが開く音がした。