君ト描ク青空ナ未来 --完結--
26
うっすらと目を開くと白い壁。
自分の部屋じゃないのはなんでか考えて、同級生を殴って学校を抜け出したことを思い出した。
「目が覚めた?」
傍らに座る兄の姿。
「・・・うん」
体を起こそうとしたけど止められた。
気持ち悪さは残っていなかったけれど吐いた後の気だるさが残っている。
「俺・・・」
「何も言わなくていいよ。俺に会いにこようとしてくれてたんだろ?気付いてやれなくてごめん」
「・・・なんで兄貴があやまるの・・・」
それだけ言って目を閉じると再び意識が遠くなった。
夜には退院して、家に帰ると珍しく家族が全員揃ってた。
テーブルに座って何があったのかと聞かれるけれど、絶対に答えなかった。
答えられなかった。
学校で上手くやれてないことなんて絶対両親に知られたくなかった。
医者としての素質がないと同級生に言われたことなんて、もっと両親には言えなかった。
ただ、思い出すと悔しくて仕方なくて、涙がこぼれた。
優しくなだめられても、厳しく諭されても、言葉は一切口から出さなかった。
いままで問題を起こしたことのない息子の問題行動。
さらなる強情な姿勢にとうとう両親も匙を投げた。
その匙を受け取ったのは俊弥。
それはありがたかったけど、こればっかりは俊弥にも話すことはできなかった。
ただ、あいつがすごく嫌なことをいったから殴ってしまった、と。
それだけは告げたけれども、他は何もいえなかった。
次の日は中学校を休んだ。
まだ体調が悪いからと嘘を言って。
1度嘘をつくと、2度目からの嘘はいきなり簡単になる。
結局3日、体調不良で学校を休んだ。
土日をはさんだ月曜日、この日ばかりは逃げられない。
朝の5時にはもう目が覚めた。
学校にいかなければならない緊張でちっとも眠れない。
いつもの起きる時間が近づくにつれて、嫌な気分は溜まる一方。
目覚ましがなる時間、体を起こすと突然あの電車のなかと同じ現象が起こった。
腹痛と頭痛。めまいも一緒に起こって吐き気がこみ上げてくる。
目覚まし時計が音を立て始める。
止めようと手を伸ばすのも無理。
「敦也さん、目覚ましなってま・・・」
と部屋をのぞきにきたのは家政婦さん。
近づいて背中をさすり始める。
それで少しだけ楽になって、再びベッドへ倒れこんだ。
「大丈夫ですか?今洗面器をもってきますから・・」
洗面器が部屋へ持ち込まれたけれど結局吐くことはなかった。
部屋に顔を見せたのは母親。
「敦也、お母さん仕事休めないけど西岡さんいてくれるから大丈夫よね?学校にはお休みの連絡しておいたから。午後は俊弥に帰ってくるように言っといたからもう一度病院にいってきなさい」
学校に行かなくていい・・・その言葉で気持ち悪さが突然ひいていった。
「わかった」
「じゃあ、お母さんもう行くからね」
「うん、いってらっしゃい」
それからもう一度眠りに落ちて、再び目が覚めたときには気持ち悪さは完全にひいていた。
午後、俊弥と病院にいったけれども特に悪いところは見当たらない。
ストレスを原因とする心因性嘔吐と診断されて帰ることとなった。
そしてその症状はそれから毎日止むことはなかった。
1週間、2週間と休み続けるうちに、心療内科へ通うことを勧められた。
通ったけれども症状はあまり改善しなかった。
自分自身がが『治したくない』と思ってる病気だから当たり前だと思う。
それからすぐに俊弥は一人暮らしの部屋を引き払って実家へと再び住まいを移した。
自分が原因であろうことはすぐにわかった。
けれどもこれ以外に俊弥が大きく道を転換したことなんてちっとも知らなかった。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-