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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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25

「俺は、少し樹に似てるんだよ。違うのは兄弟との関係だけ・・・」

7歳違いの兄は優秀で何でも出来た。
小さい頃はそんな兄が誇らしくて好きだったけど・・学年が上がるにつれて比べられるようになっていった。
兄ほど優秀じゃない自分に気がついたのはいつのことだったか。

父親は院長。
母親は経営者。
いづれは兄弟それぞれが引き継ぐことを両親は夢見ていた。
兄は医学部へとストレート合格した年、小6の冬。

中学受験に失敗。

不合格の通知が届いたときの失望。
「俊弥は、余裕で合格したのにな」
父親の一言で、兄には敵わない自分が決定的になった。

「敦也は敦也の道をいけばいい。せっかく次男に生まれたんだから病院を継ぐ必要なんてないよ」
「俺には、継ぐ資格なんかないってことかよ」
俊弥の言葉が優しい言葉であることはわかるのに素直に受け止められなかった。
「継ぎたいなら一緒に継げばいいよ。幸いあの広い病院は医者はいくらいたってこまらなそうだし」
「父さんと母さんはぜったい兄貴についで欲しいって思ってる。兄貴は優秀で俺はダメだから・・・」
「ダメなんてことないよ。私立に落ちたからって医者になれないわけじゃない。公立の中学校から都立高校を出てる優秀な医師もたくさんいる」
「でも、公立なんてダメだって・・・父さんが言ってた・・・」
「敦也にはまだ少し難しいかもしれないけど、俺の知り合いのお医者さんは公立にいったほうが勉強になるって言ってたよ。医者に必要なのは知識よりも技術よりもまず人と触れ合う技術だって。だから公立のほうがよりたくさんのいろんな人と知り合える。だから敦也は俺に勉強できなかったことを学ぶことができるんだね」
兄の言葉にどれだけ励まされてきたかはわからない。
このときは俊弥ができないことを俺ができるってことが嬉しくて、私立に落ちたことなんて忘れ去ってしまっていた。
公立の中学にいって、勉強を頑張って、医大に行こう。
そう思うことができたのは、このときの俊弥のおかげ。
『勉強して、医大にいって家を継ぐ』
私立の中学校では当然のようにいえることでも、公立学校では普通じゃない。
そんなこと、きっと俊弥だって知らなかった。

居心地が悪いと感じ始めたのは中1から。
がっつくように勉強していたのが当時の同級生たちにとっては異様だったのだろう。
『気持ち悪い』から始まった無視と悪戯。
それでも、医者になる目標があるから頑張れた。
手本となるべき人間が傍にいて、自分が落ち込んでいる日には食事に連れて行ってくれたり優しい言葉をかけてもらえたりしたから、頑張れた。
中2に進級したとき兄の俊弥は大学3年。
実習が多くなり、忙しくなり始めたことで大学の近くで一人暮らしを始めた。
家に帰っても誰もいない生活。

体調の変化に気がつかなかった。

12月は2学期の期末テスト返却。
1時間目のHRの時間に学年1位だったことを発表された。
これがきっかけ。

『仲原って勉強はできるけど、なんか嫌な感じだよな』
『将来は医者になるんだって。あいつに見てもらうなんて俺絶対やだけど』
『確かにー。救急車で運ばれててても仲原病院はやめてくださいって言うわー』

同級生たちのふざけあいの言葉。
無視や悪戯は我慢できても、これはどうしても我慢が出来なかった。
自分の目指してきた将来を否定する言葉だけは・・・どうしても。

後ろで話していた3人のうちの1人を殴り飛ばして、教室を飛び出した。
時間はまだ1時間目の途中。
学校も飛び出して、がむしゃらに走った。

走りつかれると、誰かに会いたくなった。
生徒手帳に兄が一人暮らしの住所を書いてくれたことを思い出す。
電車でいくのもそんなに難しくなかったはず。
近くの駅から電車に乗ってみた。

ガタンガタンと一定のリズムで電車がゆれる。

学校どうしよう・・。家に連絡いってるかな・・・。
もしかしたら仕事場の両親にまで連絡がいってるかもしれない。
でも、帰りたくない。帰りたくない。

もうあんな辛いところへは、行きたくない・・・。

でも、そんなわけには・・・・いかない・・・・。

そう思った瞬間に今まで経験したことがないほどの腹痛がした。
「うっ・・」
同時に頭の中で世界が回るような気持ち悪さに襲われる。
「・・・っく・・」
急激に寒気が襲ってきて、吐き気がこみ上げてきた。
電車のドアが丁度開いたから、慌てて電車を降りる。
その瞬間我慢ができなくなって、駅のホームに嘔吐した。
頭の痛さも限界でそのまま倒れこむ。
電車の走り去る音を遠くに聞きながら、意識を失った。