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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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23

見覚えのある車が停まっている。
「俊弥さん、お待たせしました」
持ち主は車から降りて待っていてくれた。
「空流くん、いきなり呼び出して悪かったね」
「こちらこそわざわざ迎えに来てもらって」
「いや、俺が誘ったんだから当然。じゃ、いこうか」
俊弥は運転席に、空流は助手席に乗ると、車が発進した。
「あの、どこに向かってるんですか?」
「仲原家」
「え!?」
「やっぱり人の家とかって嫌?」
「いえ、そんなわけじゃないですけど・・・」
「俺と敦也以外の家族は誰もいないよ」
「あ、それなら・・・」
「ごめんね。おおやけの場所じゃしにくい話も含まれるから」
「いえ、ほんとに大丈夫です」
二人以外に誰もいないのなら、たぶん大丈夫。
お父さんやお母さんがいて挨拶をしないといけないとかは、ちょっと困るけど。
「敦也のことなんだけど・・・やっぱり会いたくなかったかな?」
「いえ、そんなこと」
「無理しなくていいんだよ。敦也が空流くんにあわす顔なんてないって言ってたんだから、空流くんが会いたくないって思うのは当然だと思う」
そんなこと思ってたんだ・・・。
会いたくないとは、思わない。
敦也さんは初めから話をきいてくれて、いろいろなことを教えてくれた。
あのとき頼りにできる唯一の人だった。その印象は今でも変わっていない。
きっと、気にしているのは最後の日の夜のこと。
『敦也、邪魔しないで』
樹の言葉に素直に頷いたあの時。
ショックだった。助けてもらえると思ったのにその期待はあっさりと裏切られた。
慕っていた分だけその衝撃は大きかったけれど、今なら冷静に考えられる。
あの時ああいったのは何か理由があったに違いなくて、それはきっと樹のためを思ってやったこと。
「俺は敦也が空流くんに何をしたのかは知らないから何も言えないけど、あの子が空流くんと話したがってるのは本当だよ」
「・・・はい」
今更責めるつもりなんてさらさらないけれど、もし理由があるのならそれを聞きたいと思った。
「できるなら、許してあげて欲しいけど、俺がこんなことを頼むのはよくないんだろうね。これは敦也と空流くんの問題で俺が口を挟むべきじゃないのはちゃんとわかってる」
それでも、どうしても放っておけない。
そんな思いがにじみ出ている言葉。
ふと俊弥のほうをみると真っ直ぐ前を見ていたけれど、その瞳には不安の色が見えた。
「ねえ、敦也って空流くんといるときはどんな感じなの?」
「どんな、感じ・・といわれても敦也さんは敦也さんですけど」
「そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」
「いえ。あ、でも俊弥さんよりもちょっとだけ軽そう・・っていったら失礼なんですけど、そのほかは俊弥さんにすごく似てますよ」
それを言うと、俊弥の目が驚きに見開かれた。


「お待たせ。到着」
門の中に車が入ったところで、下ろされた。
「ちょっと待っててね。これ車庫に入れてくるから」
この一等地に車が3台入りそうな車庫・・・と庭。
門から家まではシメントリーで洋風庭園と見間違いそうな造り。
そして、何部屋あるのか想像もつかないような建物。
「これ・・・家かあ・・」
なんだか本当にすむ世界が違う。
もうここまで来ると宿舎・・・?
「そんなわけないでしょ」
「わっ」
突然後ろから訂正が入る。
「お待たせ。思ってること口に出てるよ」
「す、すみません」
「いいよ。仲原家の宿舎であることに変わりないしね」
可笑しそうに笑いながら、本邸への道を歩く。
そこから先はカルチャーショックの連続。
大理石の玄関って、どういうこと。
壁にかけてある絵画は・・・美術の教科書で見覚えのあるような名前のものもある。
「客間と、リビングと俺の部屋と、どこがいい?」
「・・・できるだけ広くないところがいいです」
「空流くんって意外と正直だよねえ。そういうところ好きだけど。じゃ、俺の部屋だね。こっち。あ・・・その前に」
そう言って、左手のほうのドアをあけた。
「西岡さん、俺の部屋に一人お客さん入れます」
「はーい。あとでお茶もっていきますね」
「お願いします」
と中年の女性の声がした。
「誰もいないんじゃないんでしたっけ?」
「うん、家族は俺と敦也以外誰もいないよ。今のは家政婦さん」
家政婦さん・・・?
「うちは両親とも働いてるからさ」
「お医者さん、ですか?」
「そう。父親が医者。母親は経営者」
「・・・それは・・・すごいですね」
「まあ、そうなんだろうけどね。地位とか名誉とか年収とかそういうのはなんでもある家だけど、犠牲しにてるものもいっぱいあるよ」
俊弥の目が敦也についてのことを語るのと同じような目になった。
「犠牲・・・?」
空流の声で、はっと我に返る。
「例えば、母親の家事能力とかさ。酷いんだ。皿一枚ろくに洗えないからね」
その言葉に空流が笑みを漏らすと俊弥も安心したように笑った。