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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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21

例のリングのことを調べるように命じてから数日なんの動きもないままに日々は過ぎた。
そしてあの時感じたデジャヴの正体もわからぬまま。
しかもここ数日忙しくて家で夕飯をとることもままならない。
自分が知らぬ間に空流が動きを起こしていたことも知らなかった。
「んー・・・」
風呂から出るとリビングのソファで空流が首をかしげている。
「雑誌ですか?」
空流がみているものを覗き込む。
そこには時給やら職種やらが大量に書かれている。
「求人雑誌?」
「はい、とりあえず働かないと何も始まらないので」
空流に言わせれば、働かなければ生活ができないし学校にいくこともどんどん遠ざかっていく、ということだ。
先のことが見え始めたならば、誠司からも話すことがある。
「空流、全日制の高校へは・・・」
「その話は前にもしたと思うんですけど・・・」
働きながら定時制の高校へ通いたい、と空流が言ったことはもちろん覚えている。
けれど、誠司としては定時制でなく全日制の高校へ行ってもらいたい。
定時制が悪いといっているわけではないのだが働きながら定時制にいくよりも、普通の高校生として何不自由ない時間を過ごして欲しいと思う。
学校生活と勉強以外のことは何も考えずに、普通の高校生として。
それに空流にはもともとそれが保証されていた。
突如降った不幸のせいでそれが保留になったままなのだ。

「ちゃんと、話をしましょう」
空流の隣に誠司も座った。
2人の考えているこれからを合わせていかなければならない。
「もちろんあなたの人生ですから、空流のしたいようにするのが一番です。でも、私の思いもわかってくれると嬉しいです」
そう前置いてから、話を始めた。
ここ数日で、付き合いのある学園の理事と会う機会があった。
というより無理矢理機会を作ったのだがそれを言うことはない。
「2学期から、清藍学園へ通う気はありませんか?」
清藍学園は中高一貫の男子校。
生徒全体の傾向として優秀で品が良いことで知られる人気校。
数ある東京の私立高校の中でも指折りだ。
「清藍学園ですか・・?」
信じられないとばかりに空流が聞き返す。
中学生のときに私立を全く調べなかった空流でさえその名前は聞いたことがある。
「私がお世話になっている方が理事をされていて、あなたの話をしたら是非にと。もちろん編入試験には合格してもらいますが」
あっさりと誠司はそんなことを言う。
「清藍って、かなり難関ですよね。そんなところの編入試験を1学期間全く勉強してないのに通るわけないです」
「その点はちゃんと考慮してくださるとのことなので。成績しだいでは、1学期間の出席日数は不問で進級できます。なかなか良いお話だと思うのですが」
空流ももちろん、そうは思う。
1学期間ずっと学校へいっていないのに、2学期から編入させてもらえる上にストレートで進学ができるなんて進学校では普通あり得ない。
でも、それでもおおきな問題がある。
「清藍は私立だから、アルバイトは禁止ですよね」
それはとても大きな壁だ。
居候をさせてもらっているだけでも申し訳ないのに、ほかの事にまで迷惑をかけるわけには行かない。
高校は教科書を買うのにもお金がいるしその他にも必要な物は沢山あると思う。
そんなことに掛かるお金くらいはすべて自分で出したいと思った。
「そういうことはとりあえず抜きにして、考えてはもらえませんか」
お金のことは心配しなくていい、と。
そう考えることはきっとこの少年には難しいことだと思うけれど。
「清藍はとてもいい学校だと思います。先生方もとてもよく生徒の面倒をみてくださいますし自主性を重んじる校風を持っています」
それを踏まえて、空流にききたいことはただ一つだけ。
「清藍にいきたいという気持ちはありますか?」
そう問われて、空流が返事に窮した。
行きたくないといえばもちろん嘘になる。清藍の高名は空流ですら知っているし、なにより質の高い勉強ができるということは嬉しい。
けれどもここでいきたいと言えば、そのあとにどんな理由を言ってもきっと誠司は空流を清藍へ入れるべく説き伏せるだろう。

「少し、考えさせてください」
さんざん考えた挙句そう言った。
「ええ、まだ時間はありますから」
2学期が始まるまではあと1週間と少し。
「でも自分がどんな結論を出しても困らないように勉強だけはしておきます」
「ええ、是非。一応これが清藍の資料です」
鞄から青い封筒を取り出して、空流へと渡した。
「それから、これも。・・・理事長は少し気の早い方でして」
少し気まずそうに誠司が取り出したものは、英数国の高1教科書と参考書。
「いただいたものですので自由に使って構いません。もちろん・・・清藍にいかない場合でも」
差し出されたそれらを空流は受け取った。