小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

君ト描ク青空ナ未来 --完結--

INDEX|108ページ/159ページ|

次のページ前のページ
 

第三部・20話〜


20

「これが、その写真です。2枚しかなかったんですけど」
空流が写真を手渡す。
空流が母親に抱かれている写真をみて、誠司がくすりと笑った。
「小さくても、空流ですね。面影があります」
「そうですか?」
自分の顔は自分でみても似てるかどうかよくわからない。
「ええ、でも変わらないで居てくれてよかったですよ」
誠司が愛しげに写真の空流を眺める。
「お母様もきれいな人ですね。たぶん空流はお母様に似たんでしょうね」
「似てますか?よくそう言われましたけど自分じゃよくわからなくって」
「ええ、似てますよ。こっちに映ってるのはお父様ですか?」
「それは・・・よくわからなくって。物心ついたときには母しかいなかったし・・・でも、この男の人、母と同じ指輪してるんですよ」
言いながら空流は写真のその部分を指差す。
「小さくてよくわからないけど、母がしてた指輪と一緒のものだと思います」
言われてみて、誠司はその指輪を見つめた。
形に特徴のある銀色のリング。加工の具合で光の当たる場所は青く輝いている。
その瞬間に襲ってきたデジャ・ヴ。
なんだか、これと同じようなものをどこかで見たことがある。どこで見たのかは思い出せないのに、沸き起こる懐かしさの感情。
「これはプラチナですか」
そう問われても空流には指輪が何でできているかなど気にしたこともなかった。
「プラチナなんですか?」
逆に聞き返してしまう。
「いえ、写真からはなんとも言えませんが・・・」
誠司が写真をみながら必死に記憶をさぐるが、どこでみたものかは思い出せない。
けれども、見覚えがあるような気がすること自体になんだか嫌な予感がする。
「この実物はありますか?」
リングの実物をみれば、もう少しわかりそうな気がするのだが・・・。
「指輪は・・・なかったような気がします・・」
実物がないのならば、まだはっきりとは言えない。
空流に動揺を悟られないように、写真を置いた。
「少しだけこの写真を借りてもいいですか?」
その問いかけに空流は不思議そうな顔。
その顔を見て、自分の申し出の不自然さに気がついた。
「この写真に合う写真たてをぜひ私に選ばせてください」
それを言うと、照れくさそうに笑って頷いた。
罪悪感を覚えつつも上手く誤魔化せたことに安堵する。
「アパートに荷物をとりにいくときは車を出しましょう」
「ありがとうございます」
そういって食器を片付けるために空流が席をたった。
それを手伝いながら、さりげなくきいてみた。
「空流の苗字はお母様の旧姓でしょうか?」
「そういうことも全然わからないです」
「それでは知りたいですか?」
真剣な目をした誠司の申し出に空流も真剣に答えた。
「知りたいです。昔はどうでもよかったけど、自分に愛する人ができたから、母が愛してた人がどんな人だったのか知りたいって思います」
誠司の目をみてそう言うと、誠司がふわりと笑って空流のことを抱きしめた。
「嬉しいです。もし空流がよければ少し調べてみたいのですが・・・」
「いいんですか?」
「はい。私がやりたいんです」
「・・・ありがとうございます。本当に親戚とかとも全然会ったことがなくて、自分じゃなにもわからないんです」
それで、やっと会えた親戚が一ノ宮。
さぞ失望しただろうと空流の心中を慮る誠司。
けれど、一ノ宮の奥方は空流の母の姉妹。そこから少し調べてみることにした。
もどかしいけれどそれは時間のかかる作業だった。


数日後、早めに帰ってきた誠司の運転でアパートへ荷物を取りに行った。
荷物を運び込んでからダンボールのなかを探してみたけれど、写真にうつっていたようなリングは見つからない。
ないみたいです、と申し訳なさそうにいう空流に首をふって、他の荷物を開けてみるように促した。
部屋へ運ぶのを手伝って、荷物を空ける。
衣服類はクローゼットへ、母親の遺品の類はプラスチックの箱へ入れ替えてこれもクローゼットへとしまいこんだ。
最後の箱は教科書類が入ったもの。中学校時代の教科書だけではなく、そこには高校ですでに使うはずだった教科書も含まれている。
その本をどうするか、黙ってみていた。
手にとって少し悩んだ後、本棚へとしまわれた。
けれど、『高校受験案内』は本棚に入ることはなかった。

進路のことまで口を出すべきではないのかもしれない。
けれど、できるだけ障害の少ない道を歩んで欲しいと想う心がある限り、きっと進学を勧めずにはいられないだろう。
けれど、まだ早い。
空流が自分から今後のことを言い出すまでは何も言わないでおこうと思った。
ただし、その話をするときには準備が万端であるように整えておこう、とも。

もしかしたらその頃には、リングのことも空流の母親のことも調べがついているかもしれない。