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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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19

客間にいた誠司はもういとまごいをしたところのようで、次の予定があるようだった。
事情を説明しようとするのを仕事にいくように説得し、誠司もそれに強く逆らわず、なるべく早く帰ります、と告げて仕事へと戻っていった。

今はマンションで1人、夕飯の支度を整えて誠司を待つだけである。

誠司が来るということは旦那さんのほうしか知らなかったようで、誠司を遇していたのも旦那さんのほうだった。
空流がきたのは突然のことで、しかも奥さんにしか会ってない。
誠司とバッティングしてしまったのは大家さんにとっても予想外だったということ。

大家さん夫婦は事情を説明してくれようとしたけれども、直接誠司の口から聞くからといって断った。
また荷物を取りにきますとだけ言って、手にしていた少ない荷物を持って帰るために袋をもらって、また駅までの道を歩き始めた。


「今から帰ります」と電話をもらってから20分。
そろそろかと思っていたら予想に違わず、玄関でドアの開く音。
玄関まで迎えに出て、誠司が部屋で着替え終わるのを待って食卓に着いた。
誠司がいつもどおり食事についての賛辞を述べる。それをいつも大げさだと思いながら聞く。
食事中は何気ない話題ばかりがふられるから、今日の話は食事が終ってから、ということだろう。

食後にお茶をいれて、話をする体制を整えた。
何であそこにいたんですか、と問う前に誠司が切り出した。
「勝手なことをして、申し訳なかったと思っています」
それが本当に申し訳なさそうに言うから、なんだかいつもの誠司ではないようで新鮮。
なぜ謝るのかといいたいところだけど、あの場所で誠司とあったことは驚くと同時にあまりいい気がしなかったことも事実で・・・。
もちろんそんなこと言える権利がないことくらいはわかってる。
最悪の状況から助け出してくれた人で、その後の生活の面倒も全部みてくれていて。
だから、色々調べるのなんて当たり前といったら当たり前なんだけど、やっぱり秘密に調べられるっていうのはいい気がしない。
「見苦しいとは思うんですが少しだけ言い訳をさせてもらってもいいですか?」
言い訳って・・・なんかそれって誠司さんがすごく悪いみたいじゃないか。
そして、なんだか僕がすごく怒ってるみたい。
確かに勝手に調べて動かれたのはいい気はしなかったけど・・・それは、なんていうか誠司さんが僕のことを気にかけてくれたからであって・・・。
上手く言えないけど、それは悪い気がしないどころかちょっと嬉しいような気がする、というか・・・。
ここから追い出す粗捜しみらいなことをされていたのならともかく、心配してもらっていたのだから僕が怒る理由なんてないってことで・・・。
でもやっぱり、勝手に色々しらべられるのはちょっと嫌かも・・・というか、僕には隠すつもりなんて毛頭ないのだから調べたりせずに素直に聞いてくれればよかった、ってことなのかな。

それを正直に誠司に伝えた。
お互いに嘘はつかない約束がずっと有効だから。
最初の頃は言いたいことを上手く言えなくてたくさん気を遣わせてしまってたけど、そのほうが逆に迷惑になってるってことに気がついた。結構一緒にいる時間が長いように感じられてきて、いろいろなことがちゃんと言えるようになった。

空流が言葉足らずに話すのを全部聞き終えてから、誠司が話を始めた。
「では、少しだけ私の言い訳も聞いてください」
と前置いて。
「勝手な行動を起こしたのは、軽率だったと思うのですが・・・心配でした。もしあなたの心の傷になったものがあそこにあったらと考えたら、思い出させるべきではないと思いました」
誠司が危惧していたのは、空流の心の傷のこと。
出会った時、空流は声を失っていた。
それが一ノ宮に対するショックからならば、心配ない。
けれど、母親を失ったことに対して起こったものだったら・・・。
もし住んでいたアパートに何か残っているのなら、それを空流が見るのは再発の可能性につながるのでは。
そう思って先回りをしたつもりだった。
「結果としては、私の心配は全て杞憂だったようですが・・・」
誠司の『言い訳』はその言葉で結ばれた。

まず誠司の心配に対する答え。
「僕自身も、声がでなかったのは何でだか未だによくわからないんですけど・・・でも今は起こらないなって気がします。なんとなくですけど。あの時は、一気にいろんなことがあって、どうしていいのかわからなくて、色んな感情がごっちゃになってて・・・。でも今は気持ちはすごくすっきりしてますから」
空流自身も驚くほどあのときのことを客観的に話すことが出来た。
それはもう、過去のこととして割り切ってしまっているということ。
「それも全部誠司さんのおかげなんですけどね」
そう言って笑った空流の顔にどうしようもない愛しさがこみ上げてくる。
それをなんとかごまかして、話題を変えた。
「お母様の写真などを持ってきたのでしょう?もしよかったら見せていただけませんか?」
空流が愛してた母親の顔が見たいと、素直にそう思った。

けれど、その写真が誠司にとっても空流にとっても重大な事実を孕んでいることは、このときはまだ知る由もなかった。