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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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18

ひとしきり話が終ると、住んでいた部屋をあけてもらった。
当然契約は切れているけど、まだ新しい住居人ははいっていない。
住み慣れていたはずの2階の部屋には何もなくなっていて、感慨は湧かなかった。
「全て処分していいと親族の方には言われたんだけど、そういうわけにもいかないでしょう。大きい物は処分してしまったけれど、ダンボールに詰められるものはとっておいたのよ」
押入れを開けると、ダンボールが3箱積んであった。
「お母さんのものは、もう使わないだろうとおもって片身になりそうなもの以外は処分してしまったの。でも空流くんのものはまだ使う機会があるかもしれないと思って」
ダンボールのうち二つには自分のものがはいっていてもう一つは母が遺したものが詰めてあった。
「勝手にいろいろ処分してしまってごめんなさいね」
「いいえ、伯母が処分していいと言ったのなら当然です。これだけでも残っていて本当によかったです・・・」
段ボール箱の一番上には宝石箱が入っていてあけてみると母がいつも見につけていた指輪が入っていた。
それだけで、なつかしい気持ちになる。
「長い間とっておいてくれてありがとうございました」
「いいのよ。やっぱり処分しないでおいてよかったわ」
大家さんの心遣いに心から感謝した。
「いま何処に住んでいるの?主人が帰ってきたら車で荷物ごと送ってあげるけど」
「あっ・・でもまだ道がよくわからなくって・・・住所も覚えてないんです・・・」
「あら、そうなの?それじゃあ仕方ないわね・・・」
「すみません、またすぐに取りに来ていいですか?」
「電話で住所教えてくれれば送ってあげるけど、たまには顔をみせにいらっしゃいね」
「はい、ありがとうございます」
「とりあえず、何があるのか見ていって。今日持って帰りたいものは袋にいれてあげるから下までもってらっしゃいな」
「はい。見終わったらまた下にいきますね」
「ええ、待ってるからね」
大家さんが部屋を出た。
ちょっと息をつく。
やはり、とても緊張していたのだと思う。
いくら優しい言葉をくれても、長い間連絡しなかったというこちらの引け目はかわらない。

1人になった部屋で改めてダンボールの中を見た。
一つ目のダンボールには中学校の教科書類、それから文房具などの学校に行くためのセットが入っている。
もう一つは衣類。もともとそんなにもっていないせいか冬物のコートがスペースを多く陣とっている。わずかな靴や鞄もはいっていて、学校以外で生活に必要な物が入っていた。
そして、もう一つは母親の遺品。
住所録や手帳、財布やアクセサリー、それから数枚の服。
財布くらいならみかける機会はあったけれど、指輪以外のアクセサリーなんてほとんど見たことがないし、ブランド物だと思われる服には全く見覚えがない。住所録や手帳なんかもほとんど目にする機会はなかった。
住所録には知らない人の名前ばかりが並び、手帳には母の仕事の予定が書き込まれているだけ。
今年の1月に新しく買ったのであろう手帳の4月のページには『空流の入学式』と書かれていた。
沸き起こってくる何とも言えない気持ちに耐えかねて、手帳を閉じた。
さらにダンボールを発掘していくと、アルバムのようなものに行き当たる。
「なんだろ・・これ」
手に取ったそれはアルバムというには小さくて、入る写真はほんの数枚。
めくってみると、さらにその中に入っていたのは2枚だけだった。
一つは、母が赤ちゃんだった自分を抱いている写真。
そしてもう一つは、誰か男の人に手を引かれている2歳くらいの自分。男の人の顔は写っていない。
このころの自分はまだ歩けるようになったばかりのようだ。
よく見ると、男の人の指には母がしていたものと同じ指輪があった。
頭の中に、仮説が生まれる。
・・・母と同じ指輪をしているということは、これは・・・。
「・・・お父さん・・・?」
ほとんど口にしたことがないその言葉は、耳に馴染まず変な感じがした。
母がほとんど語らなかったその人物について、いったいどんな顔をしていたのか、どんな表情で手をひいていたのか、とても気にかかる。

けれどその気持ちはとりあえず置いといて。
そろそろ買い物をして帰らないといけない時間帯だったこともあって、部屋を出た。
今日持って帰るために、文房具や服を少しづつとアルバムをもって部屋を出た。

階段を下りて、一番奥の大家さんの部屋へ。
呼び鈴は鳴らさずに、コンコンとノックをしてからドアをあけた。
「すみません、終わりましたー」
ドアの中に向かってそう言うと、自然と家の中が見えた。
風通しをよくするために、玄関以外のドアは全て開けてあるのだ。

そして、奥の客間にここにいるはずのない人を見た。
きっちりと背広をきて、足を崩さずに座っている見慣れた姿。
お互いに、驚いた顔をした。
「どうしてここに?」
二人の声が、重なった。
一つはもちろん空流の声。もう一つは、耳に馴染んだやわらかい誠司の声。