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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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17

「はーい、どちらさま?」
ドアがあいた。
出たのは大家のおばさん・・・といってももうおばあさんに近い。
おっとりと話す上品な人。
ドアをあけて最初に目に入ったのは、戸部だけだったんだと思う。
「あらあ、空流くんのお友だちねえ。戸部くんだったかしら?」
「はい、ご無沙汰してます」
「空流くんと連絡とれたかしら?」
戸部が無言でこっちをみた。おばさんもこっちに気付く。
震える言葉を飲み込んで、言った。
「ずっと連絡もなしに、しかも、あの・・・突然尋ねてきてすみませんっ」
思いっきり頭を下げた。
顔をあげて、おばさんの顔が見れなかったから。
「いいのよ。そんなこと。顔上げて」
穏やかな声にさそわれて顔をあげた。
「空流くん・・・無事でよかったわあ。心配してたのよ」
肩に手をおいて、そう言われた。
「すみません・・・本当になにもかも・・・」
「もう気にしないでいいのよ。上がってお行き。話すこと一杯あるからね」
ドアを広く開けてくれた。話がききたくて素直に好意に甘える。
「はい、お邪魔します」
「んじゃ、俺はこれで」
戸部が手を振った。
「戸部君も空流くんのことつれてきてくれてありがとうね」
「いえいえ。寺山、大家さんとの話し終わったら俺のところにも寄ってけって・・・いいたいとこだけどこれから部活なんだよな。今連絡先かくからちょっと待って」
そうして戸部から渡されたメモには携帯電話の番号とメールアドレスがかいてあった。
「ありがと、連絡する」
「おう、待ってる。じゃあな」
手を振って、戸部がアパートを出た。


風通しのよい部屋でちゃぶ台で冷茶をご馳走になっている。
お茶請けのお菓子も並べられた。
おばさんが向かいに座ると、ちゃんと正式に謝らなきゃと思って、頭を下げた。
「何もかもお任せする形になってしまいまして申し訳ありませんでした」
たっぷり待った後に顔をあげると、おばさんの穏やかな顔が見えた。
「いつの間にこんなに大人になったんでしょうねえ。きちんと謝れるようになって。でもあなたが悪いんじゃないことくらいわかっているわ」
おばさんが、葬儀が終った後のことを話してくれた。

曰く、僕は「連行されるように親戚の人たちに連れ去られた」ということらしい。
そのときのことなんてもうよく覚えてないけれど、進んで行ったわけじゃないからそう見えたのかもしれない。
「こう言っちゃ悪いんだけど・・・あんまり良い人には見えなくってね。本当にお母さんの親戚の人なの?」
「・・・そうみたいです。うちの母の妹だといってました」
「そうなの。とてもそんな風にはねえ・・・」
おばさんがそう思うのももっともで、あの人が母さんの妹だなんていわれても僕ですら全く信じられない。
「空流くんは今はあの方たちのところで暮らしてるのよね。ちゃんと暮らしてる?高校には行ってるの?」
なんて答えたらいいものか。迷ったけれど嘘を言うのは止めた。
それでも少しだけオブラートに包んで事実を話す。
「初夏までは伯母のところで暮らしていたんですが、向こうの事情もあって今は別の人のところでお世話になってます。伯母のところにいたときは高校には行ってなかったんですが・・・今お世話になっている人は高校へ行くことを勧めてくれてます」
嘘は言わないようにしながら簡単に事情を説明した。
「そう・・今お世話になっている人というのがあなたにとって良い人なら、いいのだけれど」
「はい、その人のことが大好きだっていうのは自信を持って言えます」
それを言うと、おばさんは微笑んだ。
「それなら、いいの。でも困ったらいつでも家に来てかまわないから。私と主人には子どもがいないからあなたのお母様がなくなった日、あなたを引き取ることを本気で考えていたのよ」
その言葉は不意打ちだった。

思い出がよみがえる。
交通事故を知らせる電話が鳴った日から深い絶望につつまれて、その後には殺されてもいいとすら思ったことを。
でも、あの時にも自分のことを考えてくれている人がちゃんといた。
遅かったけれど、今更そのことに気がついた。
「ありがとうございます」
「結局何もしてあげられなかったわ」
「充分です。本当に・・・」
「今からでも困ったことがあったならいつでも頼っていいのよ。私たちが両親がわりだと思ってちょうだいね」
人の言葉だけでこんなにも世界が明るく見えるようになるなんて思わなかった。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、嬉しいです」
気持ちを素直に伝えることが、きっと今できる最高のお礼の仕方。
そしてそれは間違っていないようだった。