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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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16

久しぶりに降り立ったその街は、何も変わっていないようで少しづつ何かが変わっていた。
小さな店が別の店になっていたり、その場所に何もなくなっていたり。
些細な変化がここを後にして久しいということを実感させる。
前に住んでいたアパートは駅から20分ほど。
夏の空の下だとじっとりと汗ばんでしまう。

最後の曲がり角を曲がると、懐かしのアパートが見えてきた。
住宅が所狭しと並んでいる場所だから平日の昼間にはあまり人気もない。
その状況に少なからずほっとして、悪いことをしようと思っているわけではないのに人目がないことを確認して進む。
近くに立ってみると、そのアパート自体は何も変わっていなかった。
階段の脇にある郵便受けを見ると自分たちが住んでいた部屋の郵便受けにはまだ誰の名前も記されぬまま。

大家さんの部屋は一階の一番奥。お昼前の今なら多分在宅のはずだ。
インターホンを押そうとする指はなかなか目的の場所までたどりつけなかった。

最初に会ったらなんていったらいいんだろう。
突然尋ねて迷惑ではないだろうか。
電話をしてからくればよかったか・・・。
そう思い立ったが電話番号は知らなかった。

大家さんの顔を見たら、突然の訪問をを謝って、突然いなくなってしまったことを謝って・・・。
謝ることだらけの自分にほとほと嫌気が差す。

インターホンを押すための手はなかなか上がらなかった。
夏の日差しがじりじりと背中を刺す。
一体どのくらいそうしたままだったのかわからない。

「あれ、寺山?」
不意にそう声をかけられたときにはもうだいぶ時間がたっていた。
声のしたほうを振り向くとなつかしい姿。
一番最後のみたときとは少し感じが変わったけれど・・・
「戸部・・?」
「うわっ。本当に寺山だ。よかった、心配してたんだよー」
太陽に負けないくらいの溌剌とした声でそういいながら駆け寄ってくるのは戸部真志(トベ・マサシ)。名前の通り真っ直ぐでクラスの人気者。
小学校からの友だちで、戸部は近くのマンションに父親と一緒に住んでいる。
昔から寂しさも貧しさもお互い肌で感じあえるところがあったからか、誰にも侵されない絆のようなものを感じていた。
戸部はいつでも一緒に居る仲間がいたから、その二人で話すことができるのは帰り道くらいだったけれど。
「お母さんなくなったんだってな。知らなくて、お別れできなかった。ごめんな」
「ううん、知らせなかったのこっちだから。こっちこそごめん」
お互いに謝ると、もうそのことはなし、とばかりに戸部が話だした。
「葬儀終った後、空流が消えたって大家さんが大騒ぎしてたんだよ。俺んとこにも何回か電話掛かったりしてさ。連絡ついたら教えてくれって言われて・・・」
戸部が大家さんのドアへ向く。
止める間もなく、戸部の指がインターホンを叩いた。
「ちょっ・・」
「なんだ、挨拶にきたんだよな?もしかしてもう挨拶し終わった?」
「まだだけど・・・」
「じゃあいいじゃんよ」
返す言葉もない。
戸部が半歩まえにたって、大家さんの応答を待つ。
ドアの向こうでガタガタと音がし始めたのはすぐ。

ドアが開いたら、今まで自分が考えていた手順なんてみんな吹っ飛んだ。