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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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14

空流の作った夕飯に対しては、甘すぎるほど高い評価をもらい夕飯が済んだ。
「ここは片付けておきますので、向こうの部屋を見てきたらいかがですか?」
加川がそう言ってくれたおかげで、今部屋のドアの前に立っている。
ドアノブに手をかけるのは誠司。
「どうぞ」
ドアを引いて、部屋の中へと先に空流を通した。

ベッド、机、本棚、クローゼット、パソコンデスク。
予想だにしていなかったものが沢山目に入る。
「え・・」
昨日まで物置と同然の扱いだったその空間は、「部屋」になっていた。
「あの、これ・・」
「あなたの部屋にと思って。家具の好みを聞いたほうが良いかとも思ったのですが早く部屋を作ることを優先したかったので」
「いえ!素敵な部屋です」
「あなたのですよ」
驚きと感動で声が出なかった。
それに、生まれてから一度も持ったことがなくて、自分の部屋というものがよくわからない。
でも、一緒の家の中に居るのにここに一人でいるのは、寂しい気がする。
「私が居るときはリビングにいてくれると嬉しいですけれど」
その言葉に安心して空流が頷いた。
「それから、これも」
手渡されたのは鍵。
「この家の鍵です。出かけるときは鍵をかけてくださいね」
その鍵は机の一番上の引き出しにとりあえずしまわれた。
「本当に・・ここに住んでていいんですか」
「その話は、もう終りましたよね」
考えを変えるなんていわないでください、と言外に伝える。
「不安なことがあれば、言ってください。夏の初めに交わした約束はまだ有効ですよ」
その約束とは、思ったことはお互い隠さずに言うというもの。
「あ、違うんです。不安とかじゃなくって・・・なんかまだ夢をみているみたいな感じがして」
家具の一つ一つを触って歩く空流の姿を誠司が微笑ましく見つめていた。
一通り家具を眺め終えると誠司へと向き直る。
「僕は誠司さんに、なんていったらいいんでしょう」
「思っていることをそのままに言ってくれればそれで」
「でも、ありがとうございますなんていう言葉じゃ表しきれないくらい沢山感謝していて、沢山嬉しく思ってます」
「その言葉で充分です」
その言葉がきっと、誠司をどれだけ喜ばせているものか空流は知らないから。
「それから、伊豆におきっぱなしだったものを加川がもってきてくれました」
クローゼットを開けるとそこには伊豆に置きっぱなしにした分の服と靴。
本棚には伊豆で貸してもらっていた本が何冊か納まっている。
「じゃあ、加川さんにもちゃんとお礼を言わないといけませんね」
「ええ、是非そうしてください」
それは、この後すぐに実行される。

そして食事の片付けもすべて終った時分。
「誠司さま、私はこれで帰ります」
「そうか、泊まっていけといえるだけの設備がないからな」
「いえ。食事のことについては空流さまが誠司さまの面倒を見てくださるということですので」
面倒を見るという言葉につい苦笑い。
「わかった、細かいことは空流と相談することにする」
「はい。それでは」
持ってきていた荷物を軽くまとめ直して手に持った。
二人して玄関まで見送りに出る。
「加川さん、またお料理を教えてください」
「ええ、是非」
「また来年の夏にはそっちで過ごす。よろしく頼む」
「承知しました。誠司さまも充分お体にお気をつけて」
見えなくなるまで見送って、家の中に入った。
「加川に料理を教わっていたんですね」
「はい。料理するのは結構好きみたいです。そういえば千晴さんのところでも・・・」
と、口に出して思い出した。
「千晴さんに連絡してない、です・・・」
無事に収まったということも連絡していない上に、無断欠勤・・・どころではない。
「どうしようっ・・」
「大丈夫です」
走り回りたいくらいあせっているのに誠司の一声ですべてが落ち着く気がする。
「俊弥はそこまで気が回らない男じゃありませんから」
誠司が携帯電話を取り出して、ボタンを押した。
すぐに電話の向こうから俊弥の声。
『誠司?』
「突然すまないが、秋山夫妻のところとはどうなってる?」
『ああ、そのことか。昨日のうちに連絡しといた。そしたら、もうそろそろシーズンも終るし余裕があればまた来年手伝いに来てね、だとさ』
その言葉をきいて全身から力が抜けた。
誠司から電話を受け取る。
「俊弥さん、ありがとうございます。一度自分で連絡してみます」
『うん、それがいいだろうね。じゃあまた』
電話を切って、それからもう一度電話をかけた。