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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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13

「久しぶりです」
キッチンから出てきた加川に駆け寄っていく。
「またお会いできて本当に良かった」
「本当にご心配をおかけしました、すみませんでした」
心配をかけただけでなく、ひどいことをした、と思う。
あの別荘を出るときに空流が加川に残した手紙。
夜まで起こさないで欲しい、と。
俊弥の案とはいえ、本当にひどいことをしたと思ってる。
加川はもういいのだとばかりに首を振った。
「あなたが無事なら、それが一番です。それに誠司さまと一緒に居ることを選んでくださったのですね」
加川が本当にそのことが嬉しいのだとばかりにそう言った。
「あの方は、本当に昔から我慢ばかりしていますから」
そう語る様子は実の親のよう。

「さて、食事に致しましょうか。食べれますか?」
「はい。ありがとうございます」
もう一度顔を洗いに行ってから、水を一杯もらって席に着いた。
食卓に並んでいる料理は消化の良いものが多い。

「朝は何を召し上がりましたか?」
ふとそう聞かれた。
「喫茶店に食べにいきました。パンと卵料理のプレートです」
その答えをきいて加川が顔をしかめる。
「また・・朝を食べるのをやめていますね」
それはもちろん誠司のこと。
「あの方は朝ごはんをコーヒー一杯で済ませたりするのです。身体に悪いからちゃんと朝ごはんを食べてくださいと申し上げても聞き入れてもらえず私も困っているんですが」
いくつになっても口うるさい養育係です、と笑う。
「でも、伊豆に居たときはちゃんと朝ごはん食べてましたよね」
「はい、作って差し上げたものはきちんと食べてくださいます」
作ってあればきちんと食べてくれるのであれば・・・
「じゃあ、僕がつくってもいいですか。あ、でもそんなに大したものとか作れないのであとで後でいくつかレシピ教えてもらえるとありがたいんですけど・・」
「喜んで。誠司さまもとても喜ばれると思います」

午後の時間は、加川に料理を習うことで過ごす。
そんな風にゆっくりと流れていく時間がとても心地よい。
「あの方は人との付き合いが仕事のようなものですから、朝以外は外で食べてらっしゃることも多いと思います。それでもたまに家で夕飯を召し上がるときに空流さまが作って差し上げたらとても喜ばれると思いますよ」
むしろそのために帰ってくるかもしれない、とも思う。
「今日は夕飯はここで召し上がると聞いていますのでもし疲れていなければ少し手伝っていただけませんか」
「はい、手伝わせてください」
自分で何かをできるようになるということが嬉しかった。
「私は誠司さまが東京に居るときには世話を焼くことができませんので、空流さまにお願いします」
もちろん頷いた。

夕刻になり、日が傾きかけた頃、インターホンの音が部屋に響く。
「誠司さん・・?」
「いいえ、違うと思いますよ」
ドアを開けに加川が玄関へ。
空流は玄関のぞくことができないリビングで待つ。
何人か家の中へ入ってくるような音が聞こえた。
音がおちつくと加川がリビングへと戻る。
「向こうの部屋で作業をしてもらっていますので、しばらくはここにいてください」
何かの修理かな、と思って素直にその言葉に従った。
作業している部屋に加川がお茶を運んだりしながら、夕飯を二人で作り始める。
母親と一緒に住んでいたころは料理をしたこともあったとなつかしく思う。でもそれとは違って本格的に教えてもらうということが楽しい。
野菜を切ったりいためたりすることには慣れているせいか筋がいいと褒めてもらった。
「これなら安心してお任せできますね」
「がんばります」
二人で笑いあっているところに、後ろから声が掛かった。
「二人して私のことを子ども扱いですか」
リビングのドアのところで苦笑をしながら立っている誠司の姿。
「誠司さん!お帰りなさい」
「ただいま帰りました」
悪戯が成功した子どものように誠司が笑ってそういった。
作業をしている音で誠司が帰っていることに気付かなかったから、あんな会話を聞かれてしまった。
「そういえば、作業も丁度おわっていたみたいですよ」
「では、私が撤収に立ち会ってきます」
加川がリビングを出る。
「何かの修理ですか?」
疑問を誠司にぶつけてみると、誠司が楽しそうな顔になる。
「いいえ。夕飯が済んだら一緒に見に行きましょう」
このときはまだ、玄関側の部屋に何があるのかなんて全然予想がつかなかった。