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VARIANTAS ACT13 背負い

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「我が社のトライアル用機体、リセッツクロウにグラム=ミラーズ大佐が搭乗。これと交戦・殲滅した模様…ただ…」
「ただ?」
「その際、開発一課主任・ミハエル=セルベトゥス博士がヴァリアントによる攻撃で死亡しました」
 ロイが、口の端を持ち上げてゆっくり微笑んだ。
「やはり…天は我々の味方だ…我々が手を下すまでもなく、運命は自然と流れる…」
 不安そうな面持ちで彼を見つめるエヴァに、ロイは答える。
「そうだな…エヴァ…君にもそろそろ知っておいてもらおう…」
 彼は、真剣な眼差しで彼女の顔を見つめると、ゆっくり口を開いた。
「この世界は腐っている。古い体制、古い民、軍、経済、思想、宗教…その全てが、腐敗した油膜となって世界を押さえ付けている。だが今、世界は私の手で変わろうとしている。古い外皮を脱ぎ捨て、新たな段階…新たな階層へとシフトしようとしている。私は、その障害を取り除いているだけだ」
「障害を…取り除く…?」
「そう…成長には痛みを伴う。もちろん流血もね…」
「あなたは一体…何をなさるおつもりなのですか?」
「言っただろう? 障害を取り除くとね…」
 彼女の表情が凍った。
「チーフ…あなたはまさか…!」
 クーデター。
 彼女の脳裏にはこの言葉が浮かんだ。
「危険過ぎます! いかにあなたがお持ちの私設兵団が精鋭部隊でも、統合体と戦うには戦力が…」
「戦力…?」
 ロイが、低い笑い声を漏らした。
「戦力…か…確かに今の統合体…それも中央軍に戦いを挑むなど自殺行為だ…」
「……?」
「…強いて言うなら、神の力…真の義と平和と安全の守護神…」


 …ディカイオス!!


「ディカイオスの力は、神に等しい。地上の…それも薄っぺらな協定で成り立っている軍など無力…あえて言おう…カスであるとね…」
「しかし…ディカイオス一機では戦略的に無理があります…!それに、ディカイオスを略奪するなど、不可能では?」
 彼は答える。

「あるだろう? それを可能にする神の力が…」
「まさか…!」
「“機動兵器端末群超広域戦闘指揮・支援同時遂行用虚数因果律総括通信回路網機構”…ディカイオス・システムが…!」
「そんな…まさか…! ディカイオス・システムはヴァリアントからの教訓で、ディカイオス‐エイレーネには組み込まれなかった筈では!?」
 ロイが、笑いながら彼女に言う。
「父は私に、偉大な遺産を遺してくれた。この手には余る遺産をね…そう…組み込まれていたのだよ…システムは…ヴァリアンタスと同じ、機動端末兵器システムがね。元を正せば当然な事…ディカイオスもヴァリアントも、作った人間は同じ…つまり、ヴァリアントとディカイオスは生き写しの双子なのだから…そして今日…その事実を知る最後の一人が死んだ。これで真実は闇の中…端末機も無事…しかし…ヴァリアントは革命の邪魔…つまりはこれからも、サンヘドリン…そしてミラーズ大佐には戦い続けてもらわねばならない…それまでには、こちらの準備が全て調う…システムを我が手に納める手筈もね…時が来れば、略奪などする必要も無い…」
 彼は大きく息を吐いた。
「運命は自分の手で開くもの…しかし、宿命は…いや…宿命さえも、我らの味方…こっちへおいでエヴァ…」
 エヴァが、彼の側へ歩み寄る。
 ロイは彼女の腰に手を回し、彼女の身体を引き寄せる。
 彼が、彼女の耳元で囁く。
「僕の好きな言葉を知っているかい…?エヴァ…」
 彼女は答える。
「新しい葡萄酒は…新しい革袋に…」
「覚えていてくれたんだね…」
 ロイはそう言うと、彼女と唇を重ねた。
 彼は心の中で呟く。

 神は言われた…
 “光在れ”と…
 ならば私はもう一度光を創る…
 この手で…
 もう一度…!


 世界はそれを待っている。




************




[3月15日、サンヘドリン本部特別軍事査問委員会]


「もう一度聞く、ミラーズ大佐。ヴァリアントは貴官が殲滅したのだな?」
 彼は、並み居る委員会の将官達に答えた。
「はい。ヴァリアントは私が殲滅しました」
 将官の一人が彼に言う。
「いいかね?ミラーズ大佐。問題なのは、中央軍の駐屯地にヴァリアンタスの侵攻を許した事だ」
「これでは中央軍のお偉方に顔が立たん!」
「しかもこの戦闘には、民間人まで参加したと聞いている」
「やはり対ヴァ戦力を集中させるのは…」
 ぼんやりと遠くを見つめるグラムの瞳。
 ガルスは心の中で呟いた。
「(何があった…グラム…何があったと言うのだ…今のお前の、まるで世界で自分だけが取り残されているような目…お前の目は、また昔のそれに戻ってしまった…暗く、哀しい、何かを恐れた目に…)」



 彼女はただ呆然と、その前に立っていた。
 彼の名が刻まれた真新しい墓石。ミハエル=セルベトゥスの眠る霊廟の前で。
「なんで…こうなっちゃうのかなぁ…」
 グレンがぽつりと呟いた。
「博士は何も悪くないのに…天に誓って何も恥ずべき事の無い人だったのに…先生の知識も、もっと教えて欲しかった…お母さんの事も、先生自身の事も…もっと知りたかったのに…!ねぇ、エステル!どうして?どうしてこうなってしまったの!?教えて…エステル…」
 彼女は側に付き添っていたエステルに縋り付き、そう叫んだ。
 エステルは彼女に答える。
「私にも…分かりません…ただ…大事な人を失う気持ちは、私にも分かりますよ…」
 グレンが声を張り上げた。
「…エステルに…私の気持ちの何がわかるって言うのよ! あなたには大佐が居るけど、私には何も無いの! 何も無いのよ…」
「グレン、私は…!」
「それでも私は大佐を信じてた…信じてたのに…! こんなに辛い想いをするなら…最初から信じなければよかった!」
 突然、曇った空の下に、乾いた音が響いた。
 エステルが、グレンの頬を叩いた。
「…私はあなたではありませんから…あなたの気持ちはわからないかも知れません…でも…人を信じる気持ちが無ければ、人間は生きて行けないんです…!」
 グレンは自分の頬を摩りながら、顔を俯かせる。
「痛い…痛いよ…エステル…」
 エステルがグレンの肩を抱きしめた。
「私も痛い…でも大佐はもっと痛いんです…。気付いていますか? グレン…、私が今抱いているあなたの身体…そして私たちの足元に広がって、続いている無限の大地…これが、彼の背負っているものなんです…彼はただ一人で、こんなにも重いくびきを背負っているんです…彼は今まで、幾つもの命をその手で受け止めようとしました…でもその度にその命は、彼の指を摺り抜けてしまう…その命こそが、ここに眠る英霊たちなんです…」
 グレンは静かな様子でエステルに言った。
「わかってる…わかってるの…エステル…でも…頭でわかっていても、私の心は理解できない…! このままじゃ私…私…大佐に酷い事を言ってしまう!」
 彼女はエステルの腕を振りほどいた。
「だから私…もう大佐やエステルとは一緒にいれない…」
 彼女がそう言ったその時、空から雨が降り出した。
 降りしきる雨の中、二人は傘もささずに立っている。
「グレン、大佐は…」
 躊躇うエステル。