VARIANTAS ACT13 背負い
「なるほど…機体前面に集中させた重力壁で、大地の反発力を中和したか。しかしそれで機体とイクサミコは護れても、パイロットは相当なダメージを喰らうはずだ」
グラムが血を吐いた。
「グラム!!」
エステルが叫ぶ。
それでも彼は、逃げようとはしなかった。
「確かに私は弱いかも知れない…人類など護れないかもしれない…でももしそうなら…私は幾らでも強くなってみせる! 強くなって護ってみせる!私はまだ生きている!人は生きている限り、負けではないッ!」
グラムはもう一度両手を構えた。
右手を強く握り締め腰まで引き、左掌を突き出す。
「(構えが変わった…!?)」
「来い!!」
「ハッタリは効かん!」
ガーズマンはスラスターを吹かし、リセッツクロウへ肉薄した。
「行くぞ! 機甲体術奥義…ファウスト・ゲベイア(正拳砲打)!!」
ガーズマンから打ち出された正拳が、空気の壁を突き破ってリセッツクロウに迫る。
「(この打法は全身の捻りとインバースキネマティクスを駆使した亜音速拳!決まった!)」
しかしグラムはその瞬間、リセッツクロウの左掌をそっと横に傾けた。
そしてその掌に沿って右腕を滑らせる。
その時突然、拳は凄まじいスピードで打ち出され、ガーズマンの拳を粉々に打ち砕いた。
「な、なに!?」
ガーズマンが、砕けた右腕の破片を撒き散らしながら大きく弾き飛ばされる。
着地するガーズマン。
脚が地面を刔る。
「貴様、その技は…」
グラムが口を開いた。
「ただ、フレズベルグの真似をしてみただけだ」
「右腕と左掌との間に重力場を展開させたか。なるほど、双方の重力場は互いに反発しあい、右腕を凄まじいトルクとスピードで打ち出す即席のグラビティレールガンと化す。名を付けるとすれば“アルティメット・ピアッサー(絶対貫通徹甲打)”といったところか…。だが!」
ガーズマンが、残った左腕で殴り掛かる。
「技の一つ増えたところで!」
迫る正拳。
しかしグラムはそれをいとも簡単に回避。
右手でガーズマンの指先を掴み、左手を肘に当てて捻り上げる。
「踏み込みが甘い」
ガーズマンの間接が軋みだす。
「いかに圧縮空間による空間断層があろうとも、関節構造を硬質化出来る訳じゃない!」
グラムは、リセッツクロウ全身のスラスターを吹かし、機体ごとガーズマンの腕を回転させた。
「ぐおっ!」
ガーズマンの腕が捩切れる。
リセッツクロウはそのままガーズマンにドロップキック。
ガーズマンがよろける。
「貴様ぁ…」
「たとえお前が私の事を知っているとしても、私はお前の事を知らない。そして今の私は、お前の知っているグラム=ミラーズではないッ!!」
グラムはリセッツクロウをガーズマンへ突撃させた。
ミサイルを放つガーズマン。
グラムはそれを、胸のビームカノンで撃ち落とした。
「私は貴様らが奪っていった物をすべて取り戻す! そして貴様だけは、この手で必ず倒すッ!」
リセッツクロウの左掌底が、ガーズマンの胴に直撃する。
「(くっ!圧縮空間に膨大な重力波を注ぎ込んでいる! 重力崩壊を起こす気か!)」
グラムはリセッツクロウの右腕を振り上げた。
「消えろ!! 原子の藻屑と成り果てて!!」」
振り上げた右腕はそのまま左手の甲を叩いた。
右手から打ち込まれた重力波は左手を砕き、そして、先に打ち込まれた重力を一気に崩壊させる。
崩壊した重力場は、周囲に飛び散り、拡散するが、圧縮空間の内壁に当たり反射。
反射した重力場は発生地点で互いにぶつかり合い再び反射し、周囲の空間を吹き飛ばす。
そう、重力崩壊とは、超新星爆発と同義なのだ。
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間近で見る、よく訓練された兵士の戦いとはなんと力強く、なんと精練されていることか。
自分にとってはあまりにも強大だった敵戦力が、電光石火の如く勢いで、さくりさくりと削られていく。
剣に勤しんだ自分の半生。
その全てを否定されているような、空虚感。
それはあまりにも大きく、広い空洞。
ソルジャーの最後の一機が、ロンギマヌスのパイルバンカーに貫かれた。
「こちら02、敵殲滅完了」
「こちら01、敵性反応無し。殲滅完了確認」
「よっしゃ。終わったぜ?若旦那」
ロンギマヌスが、水蘭に振り向く。
すると水蘭は、ゆっくりと立ち上がった。
「春雪…セルフチェックは終わったね?」
「はい。ビーム兵器に当てられていたセンサー類の回復、及び駆動系の再調整も完了しました」
「よし…」
水蘭はロンギマヌスに背を向けた。
「おい、どこへ行く?」
「大佐は一人で戦っています!大佐を助けに行かなきゃ!」
一刃はそう言うと、水蘭を駆り出した。
「おい、若旦那!…レイズ!あと頼む!」
「ちょっと、ビンセントさん!?」
ビンセントは水蘭の後を追う。
一刃は心の中で叫び続ける。
「(大佐!大佐!大佐!あなたは僕の理想だった!僕の目標だった!あなたのようになりたかった!でもそれは出来ない…!出来ないけど、出来る限り近付こうとした!それなのに…それなのに…もしあなたが死んでしまったら、僕は一体…!)」
一刃は機体を止めた。
立ち込める黒煙。
あちこちで燃え上がる炎。
彼の周囲には、ヴァリアントの残骸が散らばっていた。
その中心には、巨大なクレーター。
水蘭の後ろにロンギマヌスが立った。
「わかっただろ?若旦那」
「ビンセントさん…これは一体…?」
ビンセントが大きく息を吐く。
「『奴が戦場に降り立てば、そこには炎が降り注ぐ。天の火に非ず。それ全て、地獄の炎』…」
「地獄の炎…」
「だから奴は…グラムはこう呼ばれるようになった…ヘルファイヤー・グラム(業火のグラム)とね…」
一刃は思わず息を飲んだ。
これが大佐の力…
地獄の炎を身に纏い、近付く物全てを焼き尽くす、憤怒の業火…
何かが近付いてくる…
恐ろしい程の殺気に満ちた、黒い機動装甲。
「大…佐…?」
水蘭の目の前に、リセッツクロウが立った。
その右手には、ガーズマンの頭部があった。
リセッツクロウが、水蘭の横を通り過ぎる。
「大佐、あの…敵部隊は…?」
リセッツクロウが立ち止まる。
グラムは答えた。
「皆殺しにした」
一刃の背中に寒気が走る。
違う…!
あれは大佐じゃない!
あれは正しく…
地獄の炎―!!
立ち去っていくグラム。
誰も彼を、呼び止める事は出来なかった。
Captur 3
[ジェネシック・インダストリー本社、特別室室長室]
深い暗闇がある。
全てを覆い隠すような深い暗闇が。
闇の中に一つの光がある。
その光の中に佇んでいる彼は、大きな背もたれのある豪華な革張りの椅子に深く腰掛け、脚を組みながら静かな様子で待っている。
静かに、待ち焦がれるように。
突然、部屋の扉が開いた。
「失礼します。チーフ」
彼の秘書、エヴァが部屋へ踏み入る。
「チーフ、駐屯地にヴァリアントが出現しました」
口元にうっすらと笑みを浮かべるロイ。
「それで?」
彼女は答える。
作品名:VARIANTAS ACT13 背負い 作家名:機動電介