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VARIANTAS ACT13 背負い

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 20基の誘導弾が、尾を曳きながら高速で機動する。
 即座に回避運動へ移るリセッツクロウ。
 後退と前進、スラスターを駆使したサイドステップを繰り返し、ミサイルの射線を回避。
 機体は鋭角な軌道を描きながら、EPCでミサイルを撃ち落としていく。
 爆炎が散り、炎が空気を焦がす。
 次の瞬間、数発のミサイルが、EPCの目の前で炸裂。
 彼は咄嗟に銃口を引き戻し、左前腕に展開した重力壁で防御する。
「EPCを狙ってきたか…!」
 エステルが、彼の脳波に異変を感じ取る。
 冷静だが、脳の深層域が活発に活動している。
 宇宙が…
 因果律が、彼の脳に流れ込んでいる。
 熱く…激しく…
 こんな事はあの時以来…
 そう…
 セカンドムーブの時以来…
「大佐?」
「行くぞ。エステル」
 リセッツクロウが、高速で機動する。
 双方、全力を賭けた最後の衝突。
 グラムは機体の左手を強く握り締め、腕を引く。
 襲い掛かるソルジャーの群れ。
 ソルジャーが、一斉にビームカノンを放つ。
 刹那、リセッツクロウ周囲の空間が陽炎のように歪み、次の瞬間、背後の地面が陥没。
 同時に、リセッツクロウは100メートル近くを一瞬で移動。
 ビームカノンの光条は霧散し、ソルジャーが跡形もなく蒸発する。
 彼は右腕に持ったEPCを、ガーズマンに向けた。
 ガーズマン。
 それはヴァリアンタスの近衛兵だ。
 その姿は大躯であり、躯体は堅固。
 右手に持つポジトロンガンブレードは、一薙ぎで機動装甲数機を打ち砕き、艦を沈め落とす。
 その前に立ちながらも、彼の指はトリガーに掛けられたまま、引かれていない。
 ガーズマンからの攻撃も無い。
 完全に見合っている。

 声が聞こえる。
 聞き覚えのある、威圧的な声。
 生き残った機体のセンサー全てと、彼自身へ送られる圧縮通信情報。
 それが今、声となって、彼らに届いている。
「久しいな、我が兄弟」
「貴様か…」
「私の指揮する部隊を破り、ガーズマンの前に立った…よくそこまで戦えるものだ。敵ながら感服する」
「戦っているのは私だけじゃない。それに、私を“兄弟”と呼ぶのはやめてもらおう」
 笑い声。
「何を言うのかと思えば滑稽な…私とお前は“兄弟”…いや…私はお前、お前は私だ」
「貴様こそ何を言っている。私とお前に何の関わりが有ると言うのだ」
「貴様は知らないだろう。作られた記憶、人生。偽物の生を生きるお前には、理解できないだろう」
「黙れ。早くこの機体から出ろ」
「私はお前を知っている。そしてお前も、私を知っている筈だ。目を開いて見ろ。真理を聞け。真実を知れ」
 グラムは強く答える。
「私はお前など知らない!」
 彼は構えていたEPCのトリガーを引いた。
 ガーズマンは、その攻撃を軽やかに回避する。
「来い、戦い方を教えてやる」
 挑発する“声”。
 ガーズマンが、その手に持つ巨大なガンブレードから陽電子砲を放つ。
 それを回避するグラム。
 彼はEPCを撃った。
 ガーズマンは、再びその攻撃を回避する。 
「どうした、我が兄弟。的は大きいぞ。コアを撃ち抜け。捕まえてみろ。その手でこの身を引き裂いてみせろ」
「心配するな。今そうしてやる」
 彼はEPCを連射しながら、ガーズマンへ接近した。
 ガーズマンが、腕部に内蔵されたビームカノンを撃つ。
 機体を掠めるビーム。
 グラムは、EPCをガーズマンに突き付けた。
「終わりだ」
「まだだ。まだ終わらん」
 トリガーが引かれる寸前、ガーズマンのミサイルが二機の間で爆ぜる。
 弾き飛ばされるリセッツクロウ。
 次の瞬間、ガーズマンのガンブレードが煌めいた。
 両断されるEPC。
 リセッツクロウのそれと比べて、倍以上はあるガーズマンの巨大な拳が、コクピットへ迫った。
 彼は両手を重ね、重力壁を掌に展開して、それをガードする。
 大きな衝突音。
 突き飛ばされるリセッツクロウ。
 機体の脚が、地面を刔る。
「この動きは…機甲体術!」
 グラムの表情が凍り付く。
 ヴァリアントが、機甲体術を使っている。
 何故?
 そう思うもつかの間、ガーズマンがビームカノンを連射した。
 GRASを全力で展開する。
 着弾するビーム。
 爆炎が、リセッツクロウを覆い隠す。
 グラムは、胸のビームカノンを撃ち返した。
 ビームが、ガーズマンに命中する。
 連射されるビームカノン。
 その光条は全て、ガーズマンの装甲表面で霧散した。 
「…空間圧縮による空間断層…!」
 エステルが答える。
「EPCでなければ貫通出来ません!」
 声が彼に言う。
「武器を失った今、お前は私に勝つ事はできない。お前は物理的にも、精神的にも弱い」
「くっ!」
 ガーズマンはガンブレードをグラムに向けた。
「貴様は、この戦いから身を退くべきだ。貴様に、人類を護る事など出来ん!」
「黙れぇ!」
 彼はグラビティナックルで、ガーズマンのブレードを砕いた。
「まだ抗うか…」
「幾らでも!」
 グラムは、グラビティドライバーによって拳速を高めた右上段突きを繰り出した。
 しかしガーズマンは、いとも簡単に、その拳を受け流し右腕を掴む。
「なに…!?」
「踏み込みが甘い」
「くっ!」
 グラムが、ガーズマンから離れた。
 一方ガーズマンは、離れたリセッツクロウから距離が開かないように、素早く歩み寄る。
 両手を構えるグラム。
 対するガーズマンは、リセッツクロウの左腕を上方に打ち払い、右腕を掴んで引きながら、肘打ちを打ち込んだ。
「くそ…!何故だ!なぜ貴様が機甲体術を使える!」
 よろけるリセッツクロウ。
 ガーズマンの目がリセッツクロウを見下ろす。
「(流石は我が兄弟…直撃している様に見えていても、しっかりと重力壁でガードしている…長引けば、こちらが不利だ…!)」
 ガーズマンが両手を胸の前に構えた。
「私が、お前を開放してやろう!」
 ガーズマンの右脚が、地面を捕らえ踏み込む。
「機甲体術奥義…!」
 スラスターを噴射。
 巨大な二枚の掌は、ガーズマンの全質量を受け、前に打ち出される。
「ツヴァイス・カノーネ(二連掌砲)!!」
 二枚の掌はリセッツクロウの胴体を捉え、大きく弾き飛ばた。
 機体が、弓なりに跳ねる。
 グラムは心の中で呟いた。

 弱い…
 全く…全く彼の言う通りだ…
 私は誰も護れなかった…
 目の前に居る…
 手の届く人間さえ護れなかった…
 そしてその“心”さえも…
 私は何の為に戦ってきたのだろう…
 一体誰の為に…


『そして樹は、物質としての束縛を少しずつ断ちきり、自らの姿を自由に変えていく…』

 博士…
 私は…

『希望はいいものだよ…ミラーズ君…多分最高の物だ…良い物は決して滅びない…』

 グラムの脳裏に浮かぶ顔。
 グレンの笑顔…
 エステルの微笑み…
 皆の姿…
 そうだ…
 私が背負い護っている物…
 それは何とはかなく、尊いのだろう…!


 リセッツクロウが立ち上がる。
 両足でしっかりと地面を捕らえて。