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VARIANTAS ACT12 英雄の条件

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「トライアルに勝ち、ミラーズ君の戦闘データで最高の駆動制御プログラムを完成させる事も出来た。教え子の成長した姿も見れた。それに、私も来年には定年だ…潮時だと思ってね」
「先生…そんな…」
「さすがですな。あなたの社は…」
 突然ミハエルに、菊十郎が話し掛ける。
 少々、皮肉の含められた口調。
「これは、Mr.菊十郎…お褒めいただき光栄です。貴社の製品も、素晴らしい出来でしたよ」
「いやいや、世辞はいい。しかし機体性能もさることながら、まさかあのミラーズ大佐が乗っていたとは…通りで歯が立たん訳だ…のう、一刃…一刃?」
 返事が無い。
 一刃はグラムの側にいた。
「ずっとお会いしたいと思っていました。やっと、お顔を拝見できますね。ミラーズ大佐」
 グラムが答える。
「…君が、一刃君か…?」
 頷く一刃。
 彼は右手を差し出しグラムと握手する。
 決して頑強とは言えない、男の子としては小さく、柔らかい一刃の手を、グラムは握り締める。
 一刃がグラムに言った。
「空中からの叩き落し。効きましたよ、あれは」
「言った筈だ。やるなら手加減はしないと…」
「でもあなたは、そうしなかった」
 グラムの表情が変わった。
「あなたなら、僕など一撃で倒せた筈だ。それなのに、あなたはそうしなかった。正直悔しかったです。毎日技を磨いて、身体を鍛練して…それで身につけた武術なのに。昔、最強の武術とは何かと考えた事が事があります。その頃はひたすら力を求めていました。ただ、がむしゃらに…結局、答えは見つかりませんでしたけど…」
「君は私を買い被り過ぎだ。『自分の前に立つ者は、その全てを殲滅する。いかなる状況であれ、討たれる前に討つ』。熟練した戦士は、そう思う前に体が動き、相手が倒れる。私がそうでなかっただけだ。武術に優劣の差は無い。有るのは使い手の技量だけだ。機甲体術も、無敵じゃない」
「でもあなたは…!」
「あのぅ…大佐…そろそろですね…」
 グレンが二人の間に入る。
 退屈そうな、寂しい表情。
「話は終わりだ、一刃君。君もそろそろ…」
 突然グラムが、よろけながら頭を抱え、机に手を突いた。
「大佐!?」
 慌てるグレン。
 グラムは彼女に言った。
「今すぐ逃げろ、グレン! ここから、出来る限り遠くに!」
「どうしたんですか?」
 一刃が、不思議そうに問うてくる。
 グレンはグラムを労るように、彼の肩に手を乗せながら、一刃に答えた。
「大佐は未来が見えるの…」
「それってつまり…」
「来るわ…!“敵”が来るわ!」
 次の瞬間、爆音と共に地面が揺れ動いた。
「な、何事だ!?」
 よろめくミハエル。
 突然館内に、警報音と緊急放送が響き渡った。
『B‐18区域で爆発事故発生!繰り返す!爆発事故発生!保安要員は現場へ急行せよ!』
「爆発事故?そんな馬鹿な…」
「博士!」
 グラムがミハエルに駆け寄った。
「機体を…リセッツクロウをお貸し願いたい!」
 思わず聞き返すミハエル。
「機体を…?どう言う事かね!?ミラーズ君!」
「この期に及んで我々は運が悪い。奴らが…ヴァリアントが来ました!」
「まさか!」
 ミハエルは心の中で呟いた。
「(そうか…!何が何でも逃がさない気か…!)」





************




[0720時、B‐15区域]
 編隊を組んで滑走する6機のh1カスタム、“E-4”。
 スラスター出力を調整し、地表すれすれに機体を安定。高出力スラスターが、機体を高速で機動させる。
「こんな朝っぱらに…何だって言うんだ…」
 パイロットがぼやく。
「無駄口を叩くな。警戒しろ!」
 モニターに上書きされる、周囲の細かな情報。
 突然センサーが、自然に存在しない異常なカロリーを関知する。
 鳴り響く警告音。
 数、20以上。
「前方に高エネルギー反応! やばいぞ!」
「ブレイク! ブレイク! ブレイク!」
 散開して回避行動に移ったh1カスタムを、数発のビームが貫いた。
 爆ぜる機体。
 爆炎が、地面を焦がす。
「な…なんだぁ!?」
「ヴァリアント…!?」
「撃て! 応戦しろ!」
 HMAが火点へ銃を向け、引き金を引いた。
「本部! B‐15区域にヴァリアント出現! 現在交戦中!」
「ヴァリアントだと!? り、了解!至急増援を送る!」
 パイロットはソルジャーに向かってライフルを撃ち続けた。
「クソッ!ヴァリアント相手に、劣化ウラン弾なんて効かねぇ!」
 次々に死んでいく仲間。
 そして最後の一機が、ビームに貫かれ爆ぜた。
「現場からの通信が切れました!」
 騒然とする本部。
 彼等は混乱の渦中にあった。
「敵の数は!?」
「不明です! こちらのレーダーには何も…!」
「一体どうなってる…!」
「本部、聞こえるか?」
 突然スクリーンに、グラムの顔が映し出された。
「私は、サンヘドリン対ヴァリアンタス軍所属、グラム=ミラーズ大佐だ。時間が無いので率直に言う。駐屯基地本部のコンピューターは、ヴァリアンタスのネットワークシステムによるハッキングを受けている!」
「ハッキング!?」
「先ずは、部隊を引き上げさせろ! それから…」
「先行した部隊は…既に全滅しました!」
 グラムが、大きく息をついた。
「…私が単機で出撃る! 諸君らは、システムの再起動を急いでくれ!」
 グラムはそう言って、通信を切った。
「エステル、行動に変更は無いが、状況がかなり切迫している」
 グラムはコクピットハッチを全開させ、体を乗り出させた。
「博士! 急いで下さい! 敵がすぐ側まで来ています!」
「分かっているよ。ミラーズ君…もうすぐ終わる」
 ミハエルは、端末のキーを高速で叩きながらグラムにそう言うと、データ盗難防止用のシステムロックを解除した。
「博士! 早く発着場へ!」
「座りたまえ、ミラーズ君」
 突然、リセッツクロウのコクピットハッチが外部操作で閉められた。
 シートに尻餅をつくグラム。
 機体の無線に、ミハエルの声が響いた。
「すまない、ミラーズ君…もう少し、待ってくれたまえ」
 グラムは叫んだ。
「何しているんですか、博士! 早く逃げて下さい!」
 ミハエルは、上着のポケットの中から一枚のディスクを取り出し、ドライブの中に挿入した。
「ミラーズ君、私は君達に酷いことをした。だから今、それを償おうと思う。これからインストールするプログラムは、君自身の戦闘データによって作成された、最強の機体制御プログラムだ。このプログラムは、イクサミコ・パイロット間と、機体駆動システムとの互換性を最適化し、駆動効率を向上、イクサミコに掛かる負荷を1/25に軽減する事が出来る。これがあれば、君とリセッツクロウは、普通を越えた戦闘能力を得るだろう…」
 徐々に近くなる爆音。
 敵が、すぐ側まで来ている。
 それでもミハエルは、作業を続けた。
「博士!それが無くてもこの機体は充分…!」