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VARIANTAS ACT12 英雄の条件

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「ミラーズ君!君は強い…!だが、今のリセッツクロウでは勝てない! ハードウェアだけの性能では奴らの物量には対応できず、ソフトウェアだけの性能では同時指揮ネットワークの能力に対抗できないからだ。ハードとパイロットの能力に問題はない。しかし今欠けているのはハードとパイロットの能力を最大限に引き出すためのプログラムだ」
「博士、あなたは一体…」
「告白しなければと思っていた。だが、どうしても言えなかった。我らが敵、ヴァリアンタス…『地球圏広域制圧用機動兵器端末群超広域戦闘指揮・支援同時遂行用虚数因果律総括通信回路構造体』を造ったのは、私…いや…“我々”だ!」
 グラムの表情が凍った。
「ヴァリアンタスを…博士が…?」
 突然、無線にグレンの声が混じる。
「大佐!聞こえますか!?先生が戻って来ないんです!もうみんな脱出艇に乗ってるのに!」
「…私はここだ。グレン君」
 一切の冷静さを欠いたグレンの声に、ミハエルは落ち着いた声で答えた。
「すまない、グレン君。心配させてしまって…」
「先生! お願いですから、早く逃げてください!」
「聞くんだ、グレン君。私は君に嘘をついた」
「え…?」
「君のお父さんは、今も闘っているよ…必死にね…」
 爆音が、ハンガーのすぐ近くで轟いた。
「さて、もう時間が無い。急がせてもらうよ」
 ミハエルは、端末のキーを叩き続けた。
 次の瞬間、グラムが叫んだ。
「エステル! コクピットハッチを開けろ! 博士を連れ戻す!」
「駄目です! 外部からロックされています!」
 グラムの顔が、絶望に塗り潰される。
 彼はシートに寄り掛かり、呟くようにミハエルに言う。
「なぜ…そこまでするのですか…私をコクピットの中に閉じ込めてまで…なぜそこまでして…」
 ミハエルは非常に落ち着いた口調で彼に答えた。
「これは私の“贖罪”だからだ。『目には目を。歯には歯を。魂には魂を』。これが私のしてきた事の唯一の購い…そして、彼等に対する犠牲(いけにえ)だからだ。見える…見えるぞ…ミラーズ君…皆の笑顔が…希望が…君は皆の希望だ…」
 プログラムのインストールが完了した。
「プログラム、ダウンロード完了しました」
「博士!!」
 叫ぶグラム。
 ミハエルは最後にこう言った。
「希望はいいものだよ…ミラーズ君…多分最高の物だ…良い物は決して滅びない…」
 次の瞬間、ソルジャーの放った幾つものミサイルとビームが、ハンガーに降り注いだ。
 爆音と共に、凄まじい炎に包まれる施設。
 グレンの持っていた通信機が、耳を裂くようなノイズと共に切れた。
「そんな…先生…そんなの…」
 彼女は繰り返し呟く。
「違うよね…電波が…電波が切れただけだよね…だって、先生が…先生が…」
 通信機が機内の床に落ちた。
「先生…先生…! 先生ー!!」




************




 ハンガーが、ソルジャーの放った攻撃によって砕け散り、そして爆ぜた。
 紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がり、周囲を舐め尽く。
 その炎を、黒い影が切り裂いた。
 炎を突き破るリセッツクロウ。
 黒い機体が空中から群れの前に着地する。
 頭を垂れるリセッツクロウ。
 グラムが、狭いコクピットの中で呟いた。
「博士…あなたは父のようだった…あなたが、私を諭してくれた時…私は嬉しかった…そんなあなたが…たとえあなたが奴らを創ったとしても、あなたが死ぬ必要は無かった筈だ…!」
 エステルがグラムに問う。
「泣いているんですか…? 大佐…?」
 グラムは答えた。
「泣いて彼が戻るなら、私は身が枯れる泣こう…しかし博士は…」
 彼は奥歯を噛み締め、もたげていた頭を振り起こした。
「エステル…!私は兵士としてではなく、一人の機甲体術術者として闘う!」
 リセッツクロウのセンサーアイが、ソルジャーの群れを睨み付ける。
「これは、いかれた狂戦士と…悪魔どもの殺し合いだ!」
 そう言ってグラムは、リセッツクロウを、ソルジャーの群れの中へまっすぐ突撃させた。




************



 ――いつか必ず、大佐みたいなすごい人になるのが夢だった。大佐みたいな“英雄”に…


「本当に宜しいのですか?避難なさらないで…」
 水蘭の、狭いコクピットの中で過ごす二人だけの時間。
 今、このハンガーには、一刃と春雪の二人以外、誰もいない。
 “翼”をもがれた水蘭は、大きな傷を負ってなお、その機能を失ってはいなかった。
「ねえ春雪…ヴァリアントと戦って死んだら、英雄になれるのかなぁ…」
「若…様…?」
「正直僕は、自分が今まで何をやってきて、何処に居るのか分からなくなってた…でもさっき、大佐の目を見た時解ったんだ。『僕は今、戦争の中に居る』って…だから僕は逃げないよ。戦って戦って…答えを見付けるんだ」
「若様…」
 彼は大きく息をつく。
「行こう、春雪…!」
 彼はそう言って水蘭の腰に剣を携え、発着場へ続く道路へ機体を位置させる。
「来い、化け物め!ここから先は、一機も通さない!」
 彼はそう言って、九十九菊を鞘から抜いた。




************




 グラムの駆る機体は高速で、ソルジャーの群れの中に消えていった。
 リセッツクロウのコクピット中に、憤怒に満ちた彼の叫び声が響く。
 その声に呼応するように群がるソルジャーをEPCが一蹴する。
「大佐、水蘭が出撃しました」
「ああ。“見えている”」
「本隊から分化した部隊が、水蘭に向かっています。止めなくてもよろしいので?」
 彼は答える。
「彼には彼の、戦いがあるのだろう」
 彼はそう言いながら、次々に敵機を破壊していく。
 次の瞬間、後方に待機していた3機のファットネスが、無数のミサイルを撃ち出した。
「ミサイル接近。数、90」
 リセッツクロウへ迫る、大量のミサイル。
 それでもグラムは、機体を回避運動へ移さない。
 彼はただ黙って、ミサイルの雨へ向かってEPCを連射した。
 撃ち出される重力衝撃波。
 ミサイルの外殻が、一瞬で歪み、押し潰され、そして炸裂する。
 誘爆しあうミサイル。
 巨大な炎のカーテンが、群れと黒い機体の間を隔て、空を焦がした。
 開放される衝撃波。
 彼はリセッツクロウを、その中で躍動させる。
 EPCの鉄槌が、真ん中のファットネスを砕いた。
 それと同時にグラムは、残る2機のうちの片方につかみ掛かる。
 バスターランチャーの砲口を向けるファットネス。
 彼はその砲口が光ると同時に、ファットネスの脚を払い、宙に投げた。
 逸らされる砲口。
 バスターランチャーから放射されたアクティブビームは地面を刔り、側にいたソルジャー数機と、残るファットネスを巻き込み、熔解させる。
 投げ飛ばされるファットネス。
 グラムは宙に浮くファットネスを、ソルジャーの群れの中に蹴り飛ばし、EPCを連射。
 ソルジャーとファットネスのコアを撃ち抜いていく。
「(やはり狙いはこの機体か…)」
 彼は叫んだ。
「来い雑魚ども! 私を倒したければ、艦体種でも連れてこい!」
 並み居るソルジャー。
 グラムは再びソルジャーの群れの中に機体を突入させた。