VARIANTAS ACT11 花と鴉
鋭い軌道を描きながら降り注ぐ模擬弾を回避し続ける水蘭。
彼は機体操作に全神経を集中させ、交差する射線を水蘭の機動力で撹乱しつつ敵へ迫った。
パラディンを連射する敵機。
模擬弾は虚しく空を切り、水蘭の右後方へ着弾していく。
“無人機AI”
射撃補正。
敵機挙動予測。
着弾点算出開始。
算出完了。
予測、検証開始。
FCS弾道修正。
予測、検証完了。
実行。
補正。実行。
補正。実行。
補正。実行。
敵陣へ近づくにつれ、水蘭への射撃は正確になっていく。
密集していく射線。
補正…
一機の無人機が、水蘭を射撃視界に捉らえ、ロック。突然、水蘭が視界から消えた。
目標ロスト。
オプティカルセンサー、異常無し。
レーダーに反応。
全方位スキャン。
目標捕捉。
目標、ポイント0に確認。接近注意。
危険―!
危険―!
危険―!
危険を察知する無人機AI。
水蘭は既に、敵機の至近距離にいた。
ライフルを向ける無人機。一刃は素早く機体左手のナイフを、左下から右上へ袈裟掛けに振り上げた。
両断され宙を舞うライフルの銃身。
彼は、『ひゅっ』と短く息をはき、敵機の左横を過ぎながらそのまま右手の九十九菊を左脇から正面へ振り抜いた。
一瞬、敵機の装甲から火花が散り、上半身が腰から滑り落ちた。
一瞬のブランクを挟んで四散する敵機。
「敵機撃破!」
「次!」
更なる獲物を求めて、敵機へ切りかかる一刃の水蘭。彼は、敵機が銃口をこちらに向けるより速く接近し、一太刀の下に打ち倒して行った。
「敵IFF、消失3!」
残るは3機。
猛スピードで接近してくる水蘭に、無人機はライフルを連射した。
「12時、12時後方、1時に一機ずつです!」
「わかった!」
九十九菊を構える一刃。
彼は、近距離で放たれる模擬弾を回避しながら、目の前の敵機に迫った。
「破っ!」
気合いと共に、真っ直ぐ突き出された九十九菊。
九十九菊は敵機の正面から背中まで突き抜けた。
彼は、敵機が爆散しないよう動力炉を傷付けずに貫き、串刺しにしたまま更に前方に居る敵機に向かって行った。
HMA一機をまるごと抱えたまま、猛スピードで迫る水蘭。
敵機はライフルを連射した。
迫る155mm弾。
水蘭は、貫いたままの無人機を盾にして、防御。
彼は左手に持った単分子ナイフを逆手に持ったまま、下から上へ振り上げる様に投げた。
ナイフは、真っ直ぐ飛んで行き、敵機の首の付け根へ突き刺さった。
崩れ落ちる敵機。
一刃は九十九菊を薙ぎ、突き刺さったままだった無人機を地面に捨てた。
「1時方向に一機! これで最後です!」
「よし!!」
残るは一機のみ。
彼は敵機へ切り掛かった。発砲する敵機。
素早く回避。
砲弾が至近距離を通り過ぎ、衝撃波が機体を擦過する。
彼は敵機の正面で九十九菊を振り下ろした。
それと同時に、敵機は引かれるライフルのトリガー。
マズルファイヤーと共に発射された弾丸。
振り下ろされた九十九菊は、模擬弾を刃によって二つに両断し、更にライフルを“二枚おろし”にした。
九十九菊を左から右へと振り抜く水蘭。
無人機は、胴と腰が分離し、前のめりに倒れ爆ぜた。
「水蘭、地上部隊殲滅!」
「戦闘時間、49秒!」
「まだ気は抜けぬぞ!銃を持たぬ一刃が、空で出来る事はただ一つ…」
彼は九十九菊を鞘へと納めた。
水蘭のカメラアイ越しに空を眺める一刃。
「次はそらだよ?」
「敵の数は多いでしょう…猛烈な反撃が予想されます」
彼は呟いた。
「“あれ”しか無いか…」
機体を高く上昇させる一刃。
「春雪、水蘭を高速巡行形態へ移行! 敵陣中央を突破する!」
「了解、移行します」
ゆっくり上昇する水蘭の、脚部と腕部が折り畳まれ機体後部へ移動。
そして、肩に装備された“グラビティーリフレクター”が、定位置で固定される。
その姿は、あたかも戦闘機のような姿だった。
「行こう! 春雪。“壁”を超えるんだ!」
「はい!」
水蘭は、空へ真っ直ぐ上昇していった。
「水蘭、高速巡行形態へ移行!敵陣中央へ高速接近!」
彼は水蘭を、敵勢力の真っ只中へ突っ込ませた。
視界の端に、立体マップが表示される。
「敵機捕捉!数、8」
マップに敵機を表示。
突然、レーダー上の赤い光点が爆発的に増加した。
「敵機、ミサイルを発射!数、40!」
彼は、すぅ…と息を吸った。
「スラスター全開!!」
「了解!」
水蘭の脚部に内蔵された高出力スラスターが、強大な推力を生み、機体を瞬時のうちに加速させた。
迫るミサイル。
機体は更に加速し続け、やがてミサイルの群の中に突入した。
迫るミサイルを次々に回避する水蘭。
彼は、視界に表示されるミサイルの予測軌道を瞬時に読み取り、針の穴を通るかの様に機体を機動させた。
「水蘭、ミサイル群に突入! 相対速度が速過ぎて、近接信管が作動しません!」
「水蘭、更に加速中! 間もなく音速を突破します!」
ミサイルの間を縫う様に翔ける水蘭。
水蘭の遥か後方で、目標を失ったミサイルが爆ぜた。
更に加速する機体。
やがて空に雷鳴のような爆音が轟き、水蘭を中心にドーナツのような雲が広がった。
「水蘭、音速突破!」
無人機の目の前を、黒い何かが過ぎ、数秒のブランクを挟んで、轟音と衝撃波が後を追う。
音の壁を超えた水蘭を、捉らえる事はもはや不可能。
水蘭は稲妻の様に敵陣中央を突き抜けた。
「水蘭、敵陣中央を突破!」
機体はミサイル群を突破し、更に敵勢力下を突き抜けた。
「最終目標、着地点守備隊です」
「よし! 行くよ!」
彼は巡行形態のまま、機体を降下させた。
突然、レーダーに数個の物体が表示される。
「ミサイル接近! 高速弾です!」
地表から発射されたミサイルは、猛スピードで水蘭に迫った。
「春雪!」
彼の指令が、言語化するより速く反応する春雪。
人型形態へ移行。
次々に着弾するミサイル。模擬用の弱装炸薬が、まばゆく散り、黒煙が水蘭を覆い隠した。
「水蘭、被弾!」
「判定は!判定はどうじゃ!?」
画面にかじりつく菊十郎。
「水蘭…」
ステータス画面を確認。
「データリンク健在!」
「判定は“防御”!防御判定です!」
胸を撫で下ろす菊十郎。
「心配させおって…!」
黒煙を突き抜ける水蘭。
それは、翼で身体を覆う天使のような姿をしていた。
「ふぅ…危なかった…。ありがと、春雪!君が素早くリフレクターシールドを出してくれなかったら、ミサイルを食らってたよ…」
「恐縮です!若様っ!」
リフレクターで機体前面を覆う水蘭。
“リフレクターシールド”グラビティーリフレクターの原理を応用した防御機構の一種。
グラビティーリフレクターは本来、重力相互作用を操作することにより、反重力場を作り出す“機動装置”だが、水蘭に装備されたリフレクターは、反重力反発作用により、実弾兵器は勿論、強力なビーム兵器おも防御可能な、強力な防御機構だ。
水蘭は、それによってミサイルを防御したのだった。
作品名:VARIANTAS ACT11 花と鴉 作家名:機動電介