VARIANTAS ACT11 花と鴉
更に加速する機体。
機体へ迫るミサイルを、立て続けに、4発5発と回避。
回避されたミサイルは旋回し、後方からリセッツクロウを追尾した。
後方に、フレアを射出。
ミサイルは目標を見失い、自ら起爆した。
5基破壊。
更に前方から、ミサイルの一団が迫る。
数、15。
前方のミサイルに向かってEPCを連射。
重力波がミサイルの表面を擦過し次々に爆ぜる。
「誘爆を確認。ミサイル、更に10基接近」
右から4基、左から3基、前から3基のミサイル。
彼は、機体全身のスラスターと、四肢の挙動を組合せ、巨大な鉄塊をまるで鳥の羽根の様に軽やかに舞わせた。
尾を曳きながらリセッツクロウを追尾するミサイルを次々に回避。
ぎりぎりまで引き寄せ、鋭角でターン。
フレア射出。四散。
次の瞬間彼は、適の射線上にいることを感じ、回避する。
空を切る模擬弾。
「エステル…空中部隊の勢力を把握できるか?」
「出来ます」
広域スキャン。
グリッドマップに表示。
「無人機、8」
「了解…」
機体を大きくライドさせ、右サイドから接近。
射線を回避しつつ、ロック、トリガー。
一機撃破。
「試験機、ミサイル全弾回避!」
「空中部隊との交戦を開始!」
「IFF、2、3…」
管制室の対空レーダーから、赤い光点が消えていく。
「…6、7、8…IFF全機消失!」
「所用時間、38秒!レコードです!」
「試験機、対地戦闘へ!」
凄まじい早さで空中部隊を殲滅した彼は、空を染める爆炎を背に、機体を地上へ向かわせる。
「着地地点確認。地上部隊、捕捉。数、12」
地上で5つの火点。
肩上発射型携帯式地対空ミサイルランチャー。
「ミサイル5基接近」
「またミサイルか…芸の無い…」
直ちに回避行動。
機体をひねり、寸での所で一つ目を回避。
機体を捻ったまま、脚部スラスターを噴射し宙返り。
二つ目を回避。
逆さの状態で、直ぐさま背面メインスラスターを噴射し降下。
三つ目を回避。
凄まじい速度で降下する機体の正面から、更に二発のミサイル。
ぎりぎりまで引き寄せ、命中寸前にロール。
エステルは瞬時の内にEMPを発動し、近接信管を無力化。
機体はミサイルとミサイルの間を通過した。
瞬き一つより短い時間。
肩越しに、EPCを後方へ向け、トリガー。
爆ぜるミサイル。
誘爆が全てのミサイルを巻き込み四散。
オレンジ色の炎が散った。
機体はそのまま地上へ降下し、地面スレスレでブレーキ。
超低空スラスター機動に移る。
前方から集中砲火。
リセッツクロウは地表を滑る様に機動。
攻撃を回避しながら、EPCを連射。
砂煙と爆炎が巻き上がる。
「試験機、強制着陸!データリンク異常無し!」
「部隊と交戦!IFF消失、4!試験機に損傷無し!」
「パイロット、イクサミコ間のシンクロ率、90%を突破!」
更に機動力を上げていく機体。
技術者の一人がミハエルに叫んだ。
「機体性能発揮率、150%!このままでは機体がもちません!」
「素晴らしい…素晴らしいぞ!機体のポテンシャル全てを、彼は十二分以上に引き出している!これこそ私の求めていた物だ!見たまえ!グレン君!君が担当したEPCは、彼によって最高の威力を発揮しているぞ!」
「え?あ、はい…」
何か浮かない表情のグレン。
彼女は、昨夜のミハエルとの会話を思い起こしていた。
『知りたくもない事を、知る事になる』
この言葉が気掛かりで仕方が無かった。
彼女はふと、画面に目を向けた。
グラムの乗るリセッツクロウが、自分の担当した兵器を持ち、戦っている。
無線を通して聞こえてくるグラムの声。
いつもと同じ、彼の声。
「敵機、残り4!」
画面を躍動する機体。
爆炎と砂埃。
まるで、ビデオゲームを見ているような感覚だ。
「エステル、残り敵機は?」
「四機です」
「わかった…」
機体を流れる様に操作。
10時方向に一機。
1時方向にも一機。
二機とも同時に発砲。
素早く左サイドへ回避。
1時方向へ発砲。
一機撃破。
「一つ!」
残る一機は、急いでライフルの銃口を向けた。
「遅い!」
機体の左拳が唸りをあげた。
GRASの原理を応用した“グラビティナックル”だ。
GRASは、本来艦艇などに搭載される防御機構だ。
それを、リセッツクロウは搭載しているのだから恐ろしい。
「二つ!」
粉々に砕ける敵機。
機体が爆炎を上げ四散し、破片が飛び散る。
残るは二機。
敵機は爆炎を抜けたリセッツクロウへライフルを撃った。
彼はスラスターを強く噴射して高々とジャンプ。回避。
機体は、無人機の頭上へ飛翔し、空中から敵機へ銃口を向けた。
「三つ!」
砕ける敵機。
頭頂部から入射したEPCの重力波は、敵機を貫通し、足元の地面に深い穴を穿った。
残るは一機のみ。
彼は上空からスラスターで加速しながら敵機へ殴り掛かった。
振り下ろされる拳を敵機は慌てて回避。
リセッツクロウの拳が、敵機の右腕を砕いた。
着地するリセッツクロウ。
彼は、機体全身に装備されたGRASを使い、右足の踵に重力壁を展開する。
「四つ!」
左から右へ大きく振り抜かれる右脚。
敵機は破片を撒き散らしながら、宙を舞い、やがて爆ぜ、爆炎が散った。
爆炎の後、全てが嵐の様に過ぎ去り、音という音すべてが一瞬静まり返った。
立ち込める砂煙。
視界をさえぎる砂煙の晴れた後、そこには、傷一つ無いリセッツクロウが立っていた。
「IFF…全機消失!」
「試験機、損傷無し!」
彼等は息を飲んだ。
官制室のレーダーに、青い光点が一つだけ映っている。
試験機、無人機全26機すべてを撃破。
その神鬼のごとき戦いは、見る者に畏怖の念を抱かせていた。
「こちら試験機…戦闘終了…帰還する」
出撃前と変わらぬ落ち着いた声が、官制室に響く。
「り、了解!受け入れ体制に入る」
慌ただしく受け入れ準備をする技術者達。
彼等はすっかり、目の前の戦闘に心を奪われていた。
「(大佐って本当に人間なのかしら…)」
グレンは画面に釘付けになっていた。
機体性能を十二分に引き出し、あれだけの無人機を相手にするなど、並の人間でない事は誰の目にも明白だった。
「素晴らしい…本当に素晴らしい!グラム=ミラーズ!“地獄の炎”と呼ばれるだけある…!」
後ろから聞き慣れぬ声。
グレンは振り向いた。
「そう思うでしょう?グレン博士?」
「貴方は確か…」
「ロイ=マッケンジー…一応あなた方の上司と言う事になりますね」
ロイはグレンに近付いた。
「まさか、あのエステル博士の娘さんとは…」
「え、ええ…」
「博士に似て聡明で…美しい…サンヘドリンに出向しているのが勿体ないくらいだ…」
困った顔をするグレン。
彼女は心の中で呟いた。
早くここから去りたい。
早くここから…
「あの…私そろそろ格納庫の方に…」
「これは失礼…」
彼の前から立ち去るグレン。
「(私…あの人苦手だわ…)」
足早に格納庫へ向かう中、彼女はそう呟いた。
「フ…」
作品名:VARIANTAS ACT11 花と鴉 作家名:機動電介