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VARIANTAS ACT11 花と鴉

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「…キクチ金属工業社製試作機・零叭式高機動可変強襲人型機動装甲、形式番号・試‐零叭ノ二式…通称“水蘭”…新型剛体フレームに高出力重力制御を装備…更に、新機軸である『グラビティーリフレクター』を装備した新鋭機…しかし所詮は、素人企業の作品だがね…」




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 空から落ちてきた一つの物体は、地面にぶつかり、軽快な音を立てて転がった。やがてそれは、広範囲に及んで降り注ぎ、辺りに硝煙の臭いを漂わせた。
 金色の巨大な筒状の物体。太さが20cmはある、機動兵器用火器の薬莢だ。
「三番機!右から回り込め!」
 機体から雲の尾を引き、躍動する機体。
 右から接近した“敵機”が、高速で機動する水蘭を捉らえた。
「捕捉されました」
「くっ!」
 彼は機体を素早く反転させ、後ろ向きに飛行。
 視界に広がる火器照準を“敵機”に合わせ、ロック。
 トリガー。
 水蘭の装備する『レールマシンガン』から、凄まじい速さで模擬弾が連射された。
 甲高い発砲音。
 “敵機”は射線を回避。
 彼はトリガーを引き続けた。
 やがて、弾丸の描き出す光の点線が敵機と重なる。
 一機“撃墜”。
「三号機、被弾! 離脱します!」
 離脱していく敵機。
「春雪! 残弾数確認!」
 視界の端にウインドウ。
「レールマシンガン、残弾200。携帯火器はこれだけです」
 彼は舌を打った。
「銃は嫌いだ…」
 “敵機”残り3。
 彼は機体の高い機動性を用い、一機の背部に付いた。
 照準を合わせ、トリガー。レールマシンガンを連射。
 敵機のパイロットはベテランなのだろうか、彼の弾丸をことごとく回避する。
「こちら一番機!ケツに付かれた。援護してくれ!」
「了解!援護する」
 左旋回する敵機。
 彼は後を追った。
「左から二機」
 敵機を察知する春雪。
 他の敵機は、彼を待ち構えて左側面から攻撃を仕掛けた。
 降り注ぐ弾丸。
「くっ!」
 彼は機体を急減速し、寸での所で回避した。
「そっちか!」
 彼は敵機に銃口を向けた。
 視界に入る“警告”の文字。
 『火器、弾数0』
「だったら…!」
 彼は素早く火器を捨て、腰に手を伸ばし、模擬用のブレードを抜く。
「本当に…銃は嫌いだ…!」
 彼はそう呟くと、猛然と“敵機”に向かって行った。




************




「それよりも…どうだったかね?“この子”の調子は?」
 ミハエルはリセッツクロウの表面を撫でながら、グラムにそう聞いた。
「スラスターポッドを可動させた時に、極微量ですがフラッターがあります」
「グラビティースタビライザーとラテラルロッドだな…調整しておこう…他には?」
「いえ…以上です」
「分かった」
 ミハエルは直ぐさま他の技術者を呼び、事を説明してから作業を始めさせた。
「さあ、グレン君!君も油を売っている暇は無いぞ!」
「は、はい!先生!」
 鶴の一声のように姿勢を正し、固まるグレン。
 彼女は、ミハエルがいなくなったのを確認すると、そっとグラムに近付いた。
「ねぇ、大佐…私、この機体の外部兵装担当なんですよ!」
 少し誇らしげなグレン。
「次の対無人機の実弾戦の時にはすごい物見せてあげますね!」
「例の“EPC”か?…」
「何だ…知ってたんですか…?」
 ふくれた顔をするグレン。
「…パイロットは機体の事を最初に全て知らされるからな…知っていて当たり前だ…」
「なーんだ…つまんない…」
 彼女はふと自分の腕時計を見た。
「ああっ!もうこんな時間!早く行かなきゃ!とにかく、楽しみにしていてくださいね!腕に選りを掛けますから!それじゃ!」
 ハイテンションでまくし立てる様に話すグレン。
 正直彼は、こう言う女性が苦手だ。
 嫌いな訳では無い。
 だが、ついていけない…
 グラムは、そんな彼女と、どう接すれば良いのかが解らなかった。
 呆気に取られるグラム。
 そしてグレンは、グラムとエステルの二人を残して、急いで去って行った。
 グラムは、ブリッジの手摺りに寄り掛かり、大きく息をつく。
「疲れたな…」
「ええ…」
 相槌を打つエステル。
「HMAに乗るのは本当に疲れる…本当に…」
「グラム…」
「エステル?」
「…今日は、これで終わりですから…もう、部屋で休みましょう…」
 グラムの顔をじっと見つめるエステル。
 グラムは一瞬振り返り、リセッツクロウを見た。
 指を絡める二人。
 彼はもう一度、その日の疲れを全て吐き出すような大きな溜息をついた。
「そうだな…そうしよう……」
 微笑むエステル。
 彼はそういうと、彼女と共に部屋へ帰った。




************




 夜、彼の顔を見て、グレンは微笑んだ。
「どうかしたか?」
「いえ…こうやって、先生と一緒に居るのって初めてだなぁ…と思って…」
 駐屯基地居住部端にある小さな酒場で、グレンとミハエルは再会を祝していた。
「会うのは五年ぶりか…」
「ええ…」
 テーブルの上には、彼の好物であるザワークラウトが置かれていて、グレンもそれをつつきながら、ミハエルと同じスタウトビールを飲む。
「母が亡くなって以来、先生とは音信不通でしたから…」
「…博士が亡くなってもう五年…早いものだ…」
「そうですね…」
「グレン君も立派になったものだ…博士も鼻が高いだろう…」
「いえ!私なんてまだまだ全然…。兵器開発って難しいです…自分の創った物に、戦場で戦うみんなの命がかかっていると思うと…それに…“兵器”って、結局人殺しの道具なんですよね…」
「時代がそうなのだから仕方が無い事だ…我々に出来る事は、この時代を一日も早く終わらせる事…そのためには、我々のような兵器開発者が必要なのだよ…グレン君…」
 ミハエルは酒を一口飲んでから大きな溜息をついた。
「…博士は、こんな時代を望んではいなかったがな…」
「…母は…科学者としての“エステル・レイ=ヴェジエ博士”は、どんな人でしたか?」
 ミハエルは答えて言った。
「…博士が亡くなる前まで、私と博士は同じ開発チームに居た。博士は極めて…いや…神憑り的に聡明な人物でな…彼女はバイオコンピューターの基礎理論をたった一人で完成させ、人口脳技術の先駆けとなり、『意識の伝播』や『感覚域の拡張』などを発見。脳医学や生体電子工学に偉大な功績を遺した科学者だ…もし彼女が健在だったら、今の技術は一回りも二回りも進歩していただろう…」
「すごい人だったんですね…」
「君は、お母さんに似たのだな…」
「…父の事は何か…?」
 ミハエルの声の調子が変わった。
「君の父親の事は何も知らん…会った事も無い…」
「先生…?」
 無言のミハエル。
「すまん…グレン君…少し酔ったようだ…今日はこれくらいにしよう…」
 彼は、テーブルの上に二人分の勘定を置いた。
「グレン君…君は今の世界がこうなった根本原因を知っているかね?」
 首を傾げるグレンに、彼はこう言った。
「いつか近い内…知る事になるだろう…知りたくもない事も含めてな…」
「…どういう事ですか?先生…」
 ミハエルは彼女に覚え込ませるかのように言った。
「良いか、グレン君…事実は…決して隠せない…!」