VARIANTAS ACT10 砂の器
「全機へ発令! 敵機を捕捉次第、集中砲火! 重機銃班は通常機と併せて波状射撃! 突破されそうになったら、ロケット制圧射で対応しろ!」
ビンセントは素早く指示。
その頃ディカイオスは、遥か前方に位置し、ゲートから無尽蔵に現れる敵を倒し続けていた。
無数の光球が弾けては消える。
それでも数で勝るヴァリアントは、ディカイオスを抜け、数十機が支部守備隊へ迫った。
「敵機接近」
「来るぞ!構え…撃っ!!」
重火器の引き金が一斉に引かれ、無数の砲声が一つの咆哮となって鳴り響いた。
発射されたメタニウム弾が、ソルジャー達に鋼鉄の雨となって降り注ぎ、火器から排出される薬莢が金色の小山を盛り上げる。
まばゆい閃光と爆炎が辺り一面に広がる。
部隊の攻撃と共になって、ロンギマヌスの三連マシンカノンを撃つビンセント。
レイズは、ビンセントを少し見直していた。
「(性格も悪いし、スケベだし…僕とは気が合わないけど…間違いない!この人、兵士としては最精鋭だ!!)」
そう思いながら、レイズはビームランチャーを撃ち続ける。
「撃ち返し来るぞ!」
ソルジャーの群のあちこちで、チカチカと閃光が散る。
次々に着弾するビーム。
ビームは地表を昇華させ、爆発。
数機のHMAがビームに貫かれ、爆ぜる。
「中尉! 塁の中に隠れて! 早く!」
「あ、ああ!」
レイズに導かれ、塁の中に隠れるアシェル。
次の瞬間、アシェル機の立っていた位置をビームが通過した。
「塁の中では姿勢を低くして!」
「分かった…!」
アシェルを保護したレイズは、機体の上半身だけを塁から出し、ビームランチャーを連射。
ソルジャーを次々に撃ち落としてゆく。
「私だって!」
アシェルは塁から立ち上がり、ライフルをフルオートで撃った。
「駄目です、中尉!」
叫ぶレイズ。
その時、群から放たれた無数のビームが着弾。アシェルの目の前に、土砂が舞い上がった。
「前が見え…!」
ビームに貫かれるアシェル機。
ビームはアシェル機の右肩に当たり、腕部を根本からもぎ取った。
「きゃああ!」
「中尉!」
叫ぶアシェル。
姿勢を崩し、塁の中に仰向けに倒れるアシェル機。
さらに迫る数発のビーム。
恐怖。死の恐怖。
次の瞬間、左前腕部のグラビティシールドを最大出力で展開したレイズ機が、アシェル機の前に。グラビティシールドでビームを弾き、すかさずビームランチャーをソルジャーに叩き込む。
「はあ…あぁああ…」
「中尉! 無事ですか中尉!」
震えるアシェル。
「レ、レイズ軍曹…!こ、恐…恐い…いや、死にたく…」
「しっかりしてください中尉! …ビンセントさん! 聞こえますか、ビンセントさん!」
無線をビンセント機へ。
ビンセント機より応答。
「どうした、レイズ」
「中尉が! フランクリン中尉が!」
「アシェルが!?」
ビンセントは、マシンカノンを撃ちながら前線より後退し、レイズ達の塁へ急行。
そこには、右肩を失ったアシェル機が倒れていた。
「こりゃあ派手にヤラれたな…。アシェルは? 中身は無事か!?」
レイズ機の横に立つロンギマヌス。
「無事ですが…」
「参ったな畜生…」
その時、二人の機体レーダーが、新たな敵影を感知した。
「ナイト一機にファットネス三機…か…。大分しんどいな」
舌を打つビンセント。
しかし。
「援護しろ、レイズ! 悪いが俺は自分の戦闘に専念する。他の連中にも火力を集中するようにお前が言ってくれよ!」
「了解!」
ビンセントは大きく深呼吸。
「行くぜ、イオ!」
***************
[支部施設北20km、ゲート直下]
それは『戦闘』と言うより、一方的な『殺戮』の様相を呈していた。
原型を留めぬまでに破壊された者や、擱座し紅蓮の炎を上げる者。
則ち、そこに存在する全ての敵は、ディカイオス一機によってそうされたのだ。
地面を覆い尽くさんばかりに広がる破壊された敵機の絨毯。
ナパームランチャーの熱量によって融解固着し、ガラス化した大地に、ディカイオスは悠然と立っていた。
「…居るんだろう? リベカ…そろそろ顔を見せたらどうだ?」
リベカの乗るネクロフィリアが腕を組んだ堂々とした姿で現れ、ゲートの真下の空中で静止。ディカイオスを睨む。
「派手な登場だな…リベカ…!」
「前回の屈辱、晴らさせてもらうぞ! ディカイオス!」
睨み合う二機。
リベカは、二本のブレードを圧縮空間の中から取り出し、両手に持った。
「では…始めるとしよう」
Captur 3
「行くぜ、イオ!」
塁を飛び出すロンギマヌス。
機関砲の支援射を受けつつ、自身もナイトへ三連マシンカノンを連射しながら突撃するロンギマヌスに数発のビームが迫った。
彼は短く鋭く息をはき、機体を素早く機動。二発、三発と次々にビームを回避する。
正面から迫る一発のビーム。
彼は機体をロールさせ、ビームを回避。
その時、もう一発のビームが機体に急迫。
ビンセントは機体側面のスラスターを噴射し、ビームの軌道から回避する。
前面に出るファットネス。
バスターランチャーの砲口が煌めき、大出力ビームがほとばしる。
寸前、ロンギマヌスはビームを回避。
三連マシンカノンに装着されたソニッククローでバスターランチャーを切り捨て、ファットネスの胸部へパイルバンカーを叩き込む。
次の瞬間、ナイトがロンギマヌスに切り込んだ。
ビンセントは、ソニッククローでブレードを防御。
パイルを向けようとするが、ナイトは脚でロンギマヌスの右足を押さえる。
「南無三!!」
もう片方のブレードが迫る。
その瞬間、ロンギマヌスの後方から、数発のビームがほとばしり、ナイトのブレードを弾き飛ばす。レイズの援護射撃だ。
「上手いぞ、レイズ!」
ナイトを蹴り飛ばすロンギマヌス。
ファットネスはナイトを援護しようとミサイルを放つが、ロンギマヌスはフレアを放出しながら回避。
守備隊の155mmライフルが火を噴き、ファットネスを撃ち抜く。
ビンセントはナイトに向かってマシンカノンを連射。弾幕を張り、再びナイトへ迫った。
***************
「はっ!」
リベカはディカイオスに切り掛かった。
リベカの剣を、ディカイオスの手刀が受け止め、重力場同士が互いを弾きあう。
さらに二撃目、三撃目と剣を打ち込むリベカ。
だが、そのすべてが防御されてしまう。
「くっ!!」
一歩退くリベカ。
グラムが言う。
「お前の剣は短調で真っ直ぐ過ぎる。まるでお前の指揮そのものだ」
「黙れ!」
ネクロフィリアが、ディカイオスに向かって真っ正面から突進してきた。
グラムは機体を僅かに左へ移動。
空を切るブレード。
それでもリベカは、複数本の腕で連続して切り込んでくる。
――懲りずに…
一瞬自分を疑う。
愉しんでいる?
こいつが…リベカが強くなる事を求めているのか…?
「まさか…な」
呟くグラム。
彼は両腕を構える。
「来い、リベカ。戦い方を教えてやる」
突進してくるリベカ。
作品名:VARIANTAS ACT10 砂の器 作家名:機動電介