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VARIANTAS ACT10 砂の器

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「現在、高度18000ft。気圧1100hpa…第三支部上空、通過します…」
 二機の輸送機が縦に並んで飛行し、飛行機雲を曳いている。
 雲の切れ目から見える、巨大な建造物。
 建設中の第六支部だ。
「対地カメラ異常なし…その他センサー類感度良好…」
「異常なし。次へ向かう」
 支部の周囲に目を光らせる、機体底部に装着されたセンサーポッド。
 ゆっくり回頭する輸送機を、地上に立ち、周囲を警戒するHMAのカメラアイが凝視した。




************




[サンヘドリン本部、司令官室]

 ガルスは額を掌で覆い、頭を抱えていた。
 溜息を一つ、いつもより深く。
「お疲れですね…司令…」
 レイラがそっとデスクの上にコーヒーを置く。
「むぅ…すまん…」
 溜息混じりの唸り声を上げるガルスはカップを持ち、コーヒーを口に運ぶ。
「豆を変えたかね…?」
「ええ…お口に合いませんでしたか?」
 彼はもう一口飲んだ。
「いや…旨い…」
 微笑むレイラ。
「一丸となって戦わなければならない時に、ヒトは未だに自分の事しか考えていない…全く失望させる事ばかりだ…」
「お疲れでしたら、お休みになられた方が…」
「いや…大丈夫だ…このコーヒーさえあれば、疲れなど忘れられるよ…」
「司令…」
「いっその事…このコーヒーを毎日毎晩飲みながら、静かに暮らしたいよ…」
 ガルスは椅子の背もたれに深く寄り掛かった。
「…彼等が、叶えてくれますわ…」
「そうだな…」




************




[高度18000ft、第三支部通過から500km]


「あーあ…このまま何も無きゃ退屈に過ごして、何かありゃ子供が目を覚ます前に戦場へ一直線…ゴキゲンだね~」
 無駄口を叩くビンセントにグラムが言う。
「気を引き締めろ。いつ敵襲があるか判らないぞ?」
「へい…へい…」
 気だるそうなビンセント。
 一方、グラムはコックピットの中で考えていた。
 ――敵がもし、この巡回行動を予測していたとするならば…
 ――巡回先での行動は起こさない筈…
 ――巡回…? 通過…? そういう事か!

「スペクター全機、急速反転! 第三支部に引き返せ!」
 突然のことに、スペクターのパイロットが慌てた様子で聞き返す。
「反転ですか!?」
「敵は我々が既に過ぎた支部で行動を起こす! ここから一番近い通過支部は第三支部だけだ!」
 彼の声を聞き、スペクターは反転を開始。一方グラムはは全機に通達する。
「全機降下準備! 敵の目標は第三支部だ!」




************




[第三支部管制室]


「にしても、本当に暇だなぁ…」
「建設自体は、AIの無人機任せだもんな…」
 オペレーターの一人は、イスの背もたれに寄りかかり、デスクの上に脚を乗せた。
「いっそのこと、またドカーンと戦争でも起きねぇかな…」
「戦争なら今でもしてるだろ?」
「ヴァリアントか?」
 嘲笑混じりの声。
「こんなの戦争じゃないね!はっきり言って。戦争ってのはもっと派手にドンパチ…」
 男の言葉の途中、突然、管制室内に警報音が鳴り響いた。
「レーダーに反応!てっ!敵襲!?」
「前方から敵機30!ソルジャータイプ!」
「警備のHMAは?」
「接敵まで30!」
 その時、管制室のレーダーが、巨大な質量物を感知した。
「上空から高速で接近する物体あり!」
「新手か!?」
「いや…IFF応答あり!」
「ディカイオス!!」
 ディカイオスを高速で降下させるグラム。
 唸りをあげる機体のグラビティードライバー。
「エステル…グラビティードライバー、アブソーバーモード!」
「了解」
「ゆくぞ!」
 支部に迫るソルジャーの群に、ディカイオスはそのまま突っ込んでいった。
 巨大な衝撃が地面を伝わり、管制室の床と天井を揺らす。
「ディカイオス…降下完了…!」
 ディカイオスは、ソルジャーの群の中に着地する。
「こちらビンセント!タッチダウン!」
「レイズ、降下完了!」
「フランクリン、降下成功!」
「ディカイオスから全機へ…諸君らは私の打ち洩らしを片付けろ…支部守備隊の指揮権はビンセントに任せる!」
「「「了解!」」」
 ディカイオスの周りに集まる敵機。ゲートから次々に出現したソルジャーは輪を描くように集まっている。
「エステル…フレズベルグ!」
「了解」
 エステルは、亜空間コンテナからフレズベルグを取り出して装備。
 やがてソルジャーは、堰を切ったかのように一斉にディカイオスに襲い掛かった。
 グラムは冷静にフレズベルグの銃口を群に向け、そしてトリガー。
 弾丸がソルジャーの『身体』をごっそり抉り取っていく。
「左からも来ます」
 群は二つになり、左右から同時に襲い掛かる。
 ディカイオスは両腕を開き、左右に。そして前腕部フォトンマシンガンを発砲。
 凄まじい速さで連射される光子の弾丸は、雨の様にソルジャーの群に降り注ぎ、破壊していく。
 正面からも群が迫る。
 そのうちの一機が、ディカイオスの懐に入った。
 ディカイオスは素早く膝を突き上げる。
 ソルジャーの胸部にディカイオスの膝がめり込む。
 蹴り飛ばされ、木偶人形の様に宙を舞うソルジャー。
 グラムはすかさずに、ディカイオスで後ろ回し蹴りを入れた。
 踵が胴体を砕き、蹴りに巻き込まれた数機のソルジャーが粉砕される。
 そしてディカイオスは、素早く姿勢を低くし、バーニアで空中に舞い上がった。
「エステル…ナパームランチャー、出力最大!」
 右肘アーマーが展開し、大口径の砲口が出現。
 砲口が煌めく。
「効果域限定、ロック」
「了解」
 グラムはトリガーを引いた。
 解き放たれる巨大なプラズマ火球。
 膨大な熱量で昇華した地面は大爆発を起こし、巨大な炎の渦となって、群を飲み込んだ。




************




「すごい…たった一機であれだけの敵を…!」
 戦うディカイオスの姿を見て、息を呑むアシェル。
 その時突然、遥か前方で閃光が散る。
「衝撃波来るぞ!」
 ビンセントの言う通り、強い衝撃波が彼らに襲い掛かった。
 ナパームランチャーが着弾したときの爆発が発生させた衝撃波だ。
「よーし…第二波に備えるぞ!」
「了解!」
「り、了解!」
 アシェルは操縦桿をにぎりしめた。
「中尉、落ち着いて…仲間はいっぱい居ますから!」
「あ、ああ!解っている…!」
 支部施設から守備隊本隊の機体が出動し、部隊を展開する。
 重機関砲を装備したレザーウルフが堡塁に配置し、他のHMAはM‐90を構えて膝をついた。
 数十発の肩上発射型255㎜連装ロケット弾、それに155mmライフル“パラディン”も装備しているようだ。
「守備隊全機へ通達する! 我々はサンヘドリン対ヴァリアンタス軍本部所属特殊部隊・シェーファーフント! これより本隊は、当守備隊の指揮を執る!」
 守備隊の士官がビンセントに怒鳴った。
「なに!? 指揮を執るだと!? 勝手な事を言うな!」
 答えるビンセント。
「なら死にたい奴からコイツに従え! 死にたくない奴ぁ俺に指揮を任せろ!」
「な…!?」