小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

VARIANTAS ACT9 IronMaiden

INDEX|5ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

「女だからと言って馬鹿にはさせない! 軍に入って強くなってみせる! 強くなって誰も彼も見返してやる! そのために軍に入った!」
 エステルは一瞬の間を置いてから、アシェルに言った。
「今、この子達の髪を結ってあげていたんです」
 サラの髪を撫でるエステル。
「それが何か?」
「私達イクサミコは、常に自分のユーザーと生死を共にします。実際に引き金を引く訳ではありませんが、自分のユーザーが一番強いと信じて、彼等パイロットをサポートしているんです。怖くなんかない…自分が強くなれば、『彼等』はもっと強くなれる…!そうやって『生きて』いるんです。ねぇ…中尉…本当の『強さ』って何なのでしょうか?」
「………」
 無言のアシェル。
 その時、遠くの方からレイズの声が聞こえた。
「おーい!」
 手を降るサラ。
「早くー! 中尉はもうゴールしてますよー!」
 その様子を見ながら、エステルはアシェルに言った。
「多分、私も妹達も、一人だけでは、自分が思っている程強くなんかないんです。だからこそみんな…」
 空を見つめるアシェル。
「はー疲れた…」
「腹減った…」
 ビンセントとレイズの二人が同時にゴール。
「もう! レイズ! 遅いですっ!」
 レイズに駆け寄るサラ。
「お疲れ様。ハイ…」
 タオルを手渡すイオ。
「サンキュ…」
 彼女達は各々、自分のユーザーに優しく微笑んだ。
「だからこそみんな、誰かの側に居たいと思うんです…」
 エステルはアシェルと共に空を眺める。
「中尉ー! エステルさーん! 朝ごはん食べに行きますよー!」
 レイズが二人を呼んだ。
「行きましょう…中尉…」
「ええ…」
 レイズ達の所へ向かう二人。
 アシェルが、心の中でつぶやく。
「(でも私には…そんなもの…)」





************




「研修の進行具合はどうかね? 大佐…」
 ガルスは、重ね合わせた手の甲に顎を乗せ、グラムに言った。
「研修の監査役は、ザナルティー軍曹に一任してあります」
 グラムは表情一つ変えずに答える。
「その件なのだが…私は大佐に任せた筈だが?」
 ガルスは鋭い目付きでグラムを睨んだ。
 グラムは身じろぎ一つせずに、ガルスに言う。
「それについて、ご報告が有ります」
「何だ」
「今回、中尉の監査役をザナルティー軍曹に一任したのは、彼自身を、士官として訓練するためです。実際、研修初日から我が隊員の同時訓練を開始しています」
「彼自身の訓練は、別に行えば良かろう?」
「実戦に勝る訓練は有りません」
「仕上がるのかね?」
「彼ならやれます」
 ガルスの顔を見据えるグラム。
「…まあ良かろう…好きにしろ…グラム…」
 ガルスは溜息を一つこぼし、椅子の背もたれに寄り掛かった。
「しかしな…グラム…中尉も中々のくせ者だぞ?」
「くせ者…?」
「その言動、生活態度、性格から『あちら側』では『アイアンメイデン』…鉄の乙女と呼ばれていたそうだ…」
「それは大層な…」
「軍曹の手に負えるかな…?」
 口の端を持ち上げて、ニヤリと微笑むガルス。
「それも、訓練のうちです」
 グラムはそう言って、部屋を出た。




************




 最初の一ヶ月期間中、レイズとアシェルは真面目に訓練に励んだ。(ビンセントはどうか知らないが…)
 学科では基礎的な対ヴァリアンタス戦術や歴史を学び、実技では、シミュレーターを使用した基礎駆動訓練からHALO訓練、NOE(ノエ=超低空飛行訓練)に至るまで様々な物を学び、レイズ自身も、実戦経験者として彼女に様々な事を教えた。
 そして、研修期間は最後の一ヶ月に入った。





Captur 5

 演習場に立つ、三機のHMA。
 一機はレイズのラッシュハードロング。
 もう一機は、ビンセントのロンギマヌス。
 そして最後の一機は、一般仕様のレザーウルフ。
 全機、火器を装備している。
「じゃあ今日から、実機での射撃訓練を始めます。使用火器は通常通りM‐90です」
 レイズはビンセントを横目で見た。
 ビンセントは面倒臭そうに頭を掻いている。
「(はぁ…この人…戦闘の時、本当に戦えるのかな…)」
「レ…曹…」
「(何考えてるんだか、全然わかんないし…)」
「軍…曹…」
「(何でこんな人が、シェーファーに…)」
「レイズ軍曹!」
 アシェルの声で我にかえるレイズ。
「ハイ!?」
「早く始めないか?」
「あ、はい! そうですよね!」
 気を取り直す。
「今回は、実弾を使用します。目標は右から左へ移動しますから、それを射抜いて下さい。支援ユニットによるFCS自動照準は無し。手動射撃で発砲してください」
 マニュアルを閉じる。
「それから、フランクリン中尉の機体には、エステルさんが一緒に乗ってくれるそうです」
「エステルが…?」
「安心して撃って下さい」
 彼は少々意味不明な事を口走ったが、アシェルは気にしなかった。
 それより彼女は、エステルが『イクサミコ』である事を再認識させられた事に気を傾けていた。
 『人』にも言われた事がない言葉を、彼女はアシェルに言ったからだ。
 エステルが人でないことはわかっている。
 だが彼女は、エステルがもっと高位の『何か』であるような…
 そんな気がしたのだ。
「では、始めましょう」
 レイズの言葉を皮切りに、各々の機体へ乗り込んだ一同。
 最初にレイズ機が起動。
 続いて、ロンギマヌス。
 最後にアシェルのレザーウルフが起動した。
「こちらレイズ。目標はここから前方500m地点です」
 レイズからの無線を聞き、各機カメラをズーム。
 横一直線に走るレールが見える。
 この上を標的が走るのだ。
「じゃあ、まず自分からやってみますね?」
 ライフルを両手で構えるレイズ機。
「目標、今!」
 彼の合図で、レールの上を目標が走る。
 発砲。
 発射された砲弾は、動く目標を見事に撃ち抜いた。
「じゃあ、中尉、やってみて下さい」
「よし!」
 彼女はライフルを構えた。
「目標、今!」
 的が出される。
 彼女はよく狙ってトリガーを引いた。
 しかし、弾丸は的の右側を掠り、保安用の壁にめり込んだ。
「外した…?」
「みたいですね…」
 彼女は悔しそうに言う。
「もう一度だ!」
 もう一度やったが結果は同じだった。
 溜息をつくアシェル。
「手動射撃のフィードバックが早過ぎる! 照準が敏感過ぎて、狙えない! 貴官らはこんな調整で今まで戦って来たのか?」
「え? 手動フィードバックはデフォルトの筈ですよ? それは…」
「扱いきれていないのは私か…!」
「大丈夫です。中尉…その為の訓練なんですから…」
「わかった…」
 もう一度ライフルを構えるアシェル。
「軍曹、当て方を教えてくれ」
「よろこんで」
 レイズは彼女に、レザーウルフでの銃の撃ち方を教え始めた。
「まず、照準はセンターに置いて下さい」
「センターに…」
「次に、ライフルの照星をサブカメラで覗いて下さい」
「サブで照星…」
「的が出たら、無理に狙おうとせず、正面に来るのを待って下さい」
「わかった…」
「動かす時は、冷静に、少しずつ、慎重に…」
 彼女は深く深呼吸。