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VARIANTAS ACT9 IronMaiden

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 彼はとりあえず、今の用事を済ませようと話を進めるべく、一つのファイルを取り出した。
「さて、今日から二ヶ月間の予定で、研修期間が始まるのだが、監査役を決めたいと思う」
「ハイ!!」
 間髪入れずに、ビンセントが名乗り出る。
「…。監査役を誰かに頼みたいのだが!」
「無視かよ!」
「あの…」
 そーっと手を上げるレイズ。
「自分で良ければ…」
 それを見たグラムは『ニヤリッ』と笑った。
「では、レイズ軍曹。監査役に任命する」
「(ちっ…)」
 ビンセントは心の中で舌打ち。
「しっかり頼むぞ。レイズ軍曹」
「はいっ!」
 グラムはそう言って、レイズに分厚いマニュアルを手渡した。
 期間中の日程と、研修項目が書かれている。シェーファー専用の特別メニューだ。
 そのマニュアルのページをパラパラとめくるレイズは不安そうな顔でグラムに問う。
「あのー…この今日の項目なんですけど…一番最初に、『全員参加』って書いてあるんですが…」
 答えるグラム。
「そうだ。実技訓練には、お前達も…逃げるな!」
「私たちも参加ですって…」
「ちっ!」
 部屋からそっと逃げようとしていたビンセントが渋々席に戻った。
 それを確認したグラムは、言葉を続ける。
「よく見てみろ。今日だけじゃないぞ」
 よく見れば、全ての日程に『全員参加』の字が…。
「こっ、これは…!」
「レイズ軍曹と傭兵ビンセント両名!両名に研修期間中の同時訓練を名ずる!」
「…本当ですか…?」
「メンドクセ…」
 渋る二人。
「返事は!!」
「「サー・イエス・サー」」
「よろしい。では後は任せた。レイズ」
「はっ、はい!」
 去っていくグラムを、敬礼で見送るレイズ。
 こうして、レイズとビンセント、アシェルの三人による奇妙な訓練期間が始まったのである。




************




 格納庫に残されたレイズたち。
 彼は愛想よく笑顔で、アシェルに言った。
「じゃあ二ヶ月間よろしくお願いします。中尉」
「よろしく。軍曹」
 見合って握手をする二人。
「俺もよろしくね」
 ビンセントは二人の間に割って入った。
 むっとするレイズ。
 とりあえず我慢。
「じゃあまずは…えーっと…」
「どうかしたか?」
「えーっと、まずは、『10kmのニコニコ兵隊さんマラソン』…だそうです…」
 思わず吹き出すビンセント。
 アシェルは少し動揺した表情で、レイズに言った。
「…それのマニュアルを作ったのは大佐か?」
「みたいです…」
「なら仕方ない…その通りにしよう…」
 アシェルは眉をぴくぴくさせながらそう言った。
「じゃあ、このすぐ向こうが広くなってますから、そこで走りましょうか…」
 レイズは苦笑いしながら、ゲートのスイッチを押す。
 格納庫の大きな扉が開く。
「じゃあ、サラ…ちょっと待っててね」
 ぷいっとそっぽを向くサラ。
「よかったですねっ! 綺麗な人で…」
「そうだ、サラ。今度の休日、シティーに行こう! おいしいケーキ屋さんを見つけたんだ」
「約束ですよ?」
「うん。約束」
 サラはニッコリと微笑み、レイズも一緒に微笑む。
「レイズだっけ? 早く済ませて、飯にしようやー!」
 ビンセントの急かす声が聞こえた。
「じゃあ後でね」
「頑張って!」
 ゲートをくぐり、運動場を走り出した三人。
 次第に三人の姿が小さくなっていくのを、サラとイオ、エステルの三人は見つめていた。
「いい人ね、サラ」
 エステルが優しい表情でサラに話し掛ける。
「お姉様!」
 サラはエステルに抱き着いて、幸せそうに頬を擦り寄せる。
「サラはお姉様の事も大好きですっ」
 サラの頭を撫でるエステル。
「そう、サラ…」
「なんです?お姉様」
「紹介したい子がいるの」
「あの子の事ですか?」
 サラはエステルに抱き着きながら横目でイオを見た。
「そう、私たちの新しい姉妹…イオ…」
「よ、よろしい…お願いします…」
 少し人見知り気味の表情で挨拶をするイオ。
「みんなきっと仲良くなれるわ…さあ…イオもこっちに来て…」
 おそるおそる二人に近付くイオをエステルは優しく抱き寄せる。
「私達は姉妹…想い人を護る為の力を持った、『戦の乙女、戦場の女神』…」





Captur 4

「あー…つまんねぇ…マラソンって、俺達パイロットとあんまり関係ないじゃん…」
 ふて腐れた表情でテクテクとやる気の無い様子で走るビンセントは、グラウンドを五周もしない内に文句を言い出した。
「えーっと…ビンセントさん!文句言わないで下さい!パイロットも体力が基本ですよ!」
 レイズ達の前をアシェルが一定のペースを保ちながら走っている。
「ねえ、歌唄っていい?」
 突然ビンセントがそう言い出した。
「どんなです?」
 問うレイズに答えるように、ビンセントは思いっ切り息を吸い込んで大声で歌い始める。
「エ、エ、エスキモーの○○は~冷凍○○で○○○~」
「なぁ!?」
 思わず飛び上がるレイズ。
 下品卑猥公然猥褻。某海兵隊よろしく、それは内容のほとんどが伏せ字になる下品な歌だった。
「止めて下さいビンセントさん! 中尉に聞こえます! 下品です! 卑猥です! セクハラです!」
 無視して歌い続けるビンセント。
「俺によーし!お前によーし!」
 前を走るアシェルが突然止まった。
「お…? 止まった…」
「もう、ビンセントさん! 最低です!」
 ビンセントに怒るレイズ。
 突然、止まっていたアシェルが全速力で走り出した。
「なんでいきなり!?」
「あなたがそんな歌唄うからでしょうが!」
 二人は口論しながら、アシェルを追い掛けた。




************





 エステル達の見守る中、レイズ達は最後の一周に入った。
 息を上げながら、軍靴で地を蹴るアシェルにビンセントが追い付く。
「ねえ…怒った?」
 ビンセントは並走して、アシェルに話し掛ける。
 彼女は息を切らせながら、苛立った声で返答。
「何が!?」
「何も聞こえなかった?」
 彼女は一瞬、唇をキュッと絞めて答えた。
「聞こえてない! 断じて、決して! 何も聞こえて無い!」
 アシェルは地面を思いっ切り蹴り、走り去って行く。
 残念そうな顔をするビンセント。
「あ~あ…多分嫌われたな…」
「あんな歌唄えば、嫌われるに決まってるでしょうが!」
 レイズは呆れた顔でビンセントに言った。
「何だよ…やけに彼女の肩を持つな…おい?」
「何ですか?」
 ビンセントは、にやけながらレイズに言った。
「さては惚れたか?」
「な! 違いますよ! 僕は監査役として…!」
「またまたぁ! 照れちゃって! 軍曹さん!」
 肩をグイグイと寄せながら笑うビンセント。
 一方アシェルは、既に全長10kmを走り終え、息を切らせながらエステル達の待つ格納庫へ入った。
「お疲れ様…」
 エステルがアシェルにタオルを手渡した。
「ありがと…」
 汗を拭くアシェルに、エステルが言う。
「失礼ですが、中尉は何故軍に?」
 彼女は力強く答える。
「強くなりたかったからだ!」
「強く?」