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VARIANTAS ACT9 IronMaiden

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 朝霧晴れぬ、湿った空気を切り裂きながら、レイズは運動場を心を無にしてひらすら走る。
 それでも頭の中を思考が巡り、あの時のグラムの言葉が、頭から離れない。

 ――その時は、核で攻撃するだろう

「はぁ…はぁ…はぁ…」
 止まって深く息を吸う。
 肩を揺らしながら、上がった息を落ち着かせる。
「レイズー!時間ですよー!」
 遠くの方から、サラの透き通った声が聞こえた。
「今行くよー!」
 彼はタオルで汗を拭き、サラの元へ歩いて行った。




************



「よっしゃ。イオ、そろそろ帰るか?」
「そうしましょう」
 彼は、機体をゆっくり降下させた。
 早朝にも関わらず、周囲に甲高い騒音を撒き散らしながらホバー移動中のロンギマヌスに向かって、サブは拡声器を向けた。
「朝っぱらから機体乗り回して、ゴキゲンだねぇ?」
 ビンセントはコクピットを開いて、大声で叫んで言った。
「よく乗ってやると、いざって時に違うんだよ!」
 答えるサブ。
「お前さんはいいけどよ、やたらに仕事は増えるし、朝からうるせぇで、俺ぁ泣きてぇよ…ホントに…」
 ビンセントはそのままゆっくり機体を止める。
「で、あんだって?」
「大佐が呼んでる。イオちゃんも一緒にだって」
「グラムが…?」
「私もですか?」
 『ほぇ?』と不思議そうな顔をするイオ。
 ビンセントとイオは顔を見合わせた。




************




 彼女の一日はまず、朝から腕立て10回5セット、腹筋15回4セットの運動で、汗を流してから始まる。
 それが終わると、ぬるめのシャワーを浴びて、支給品の無地の白い新しい下着を着る。
 決して、リサイクルはしない。
 自軍のカーゴパンツをはき、Tシャツを着る。
 軍靴を履き、靴紐をきつく締め、髪を上げて後ろで縛る。
「しっかりするのよ!」
 鏡の前で自分に激を入れるアシェル。
 突然、部屋のチャイムがなった。
 インターホンのスイッチを押す。
「フランクリンだ」
「おはようございます。フランクリン中尉。ミラーズ大佐のご命令で、中尉をお迎えに伺いました」
「御苦労…今出る」
 扉を開けるとそこには、銀髪の少女、エステルが立っていた。
「それでは、参りましょう」
「あ、ああ…」
 彼女はエステルの後に付いて行った。




************




「おはようございまーす」
 元気よく挨拶をするレイズ。
 グラムはパイプ椅子に座って、何かの資料を読んでいる。
「大佐、中尉ってどんな人でしょうね?」
 グラムが、横目でレイズを見た。
「美人かどうかか?」
 サラもレイズの顔を見た。
「いや、ちょっと!違いますよ!」
 頬を赤くするレイズ。
「レイズ…やっぱりそうなんですね…」
「サラまで!」
 グラムはくすくすと笑いながら言う。
「今エステルが連れてくる。おとなしく待ってろ」
「…う」
 レイズは反論できずに、そっぽを向くサラをなだめながら並んだイスに座った。




************





 ここサンヘドリンに、一つの特異な部隊が有る。
 まだ準備部隊の段階で、戦力は今の所、機動兵器がたったの三機ではあるが、精鋭で構成されたこの部隊は紛れも無く『最強』の部隊である。
 部隊名は、そうあの、『シェーファーフント』だ。
 さて、統合体中央軍から研修で、サンヘドリンに仮配属されたアシェル=フランクリン中尉管理官補は、一抹の不安を抱えていた。

「………」
「………」
 無言のまま歩く、エステルとアシェルの二人。
 エステルが前を歩き、アシェルがその後を歩く。
「あの…失礼だが…」
 思い切って、アシェルがエステルに話し掛けた。
「はい?」
「名前を聞いていなかったのだが…」
「エステルと申します」
 二言三言喋り、すぐに会話が途切れる。
 彼女は、おそるおそるエステルに聞いた。
「もしかして…『イクサミコ』…か?」
「はい。私はディカイオス搭載ユニット、ミラーズ大佐のイクサミコです。中尉…」
「ディカイオスの…」
 アシェルの中に、あの嫌な感覚が甦った。
 思わず、鼻で『すっ』と短く息を吸う。
 エステルはアシェルに言った。
「ディカイオスが恐いですか?」
「なぜ…?」
「人は未知の物を恐がるから…」
 ルビーの様な美しい瞳をアシェルに向けるエステル。
 吸い込まれてしまいそうな不思議な瞳。
 気付けばアシェル達は、扉の前に止まっていた。
「改めてよろしく…歓迎します、アシェル中尉…」
 エステルは一瞬微笑んで言った。
 本当に一瞬だったが、美しい笑顔。
「よ、よろしく…」
 少しドキドキ…
 思考に一瞬のブランク。
 すべき事を思い出す。
 彼女はエステルに扉を開けさせ、中に入った。
 倉庫風の殺風景な部屋だが、パイプ椅子が五つか六つ程並べてある。
 端の方に座る、若い男女一組。
「おはよう…フランクリン中尉」
 アシェルが言うより早く、グラムが挨拶した。
「お、おはようございます! 大佐殿!」
 『気をつけ』をして敬礼。
「中尉も揃った所で、部隊の紹介をしたい所だが…まだ一人足りない様だ…」
 エステルがグラムの横に立った。
「御苦労、エステル…」
「いえ…」
 少し小声で話す。
 暫くしてから廊下から大きな話し声が聞こえだした。
「まったく…グラムの野郎、こんな朝っぱらから人を呼び出して何だって言うんだ!」
「あんまり大きな声で話すと彼に聞こえますよ!」
 もう、充分聞こえてる。
 扉が開いて、ビンセントが大股で歩き、グラムに迫る。
「おい!大佐さんよ!用事があるなら早いとこ済ませてもらいた…」
「…ビンセント!」
 イオが小声で呼びながら、ビンセントの上着を『つんつん』と引っ張った。
「何? 今大事な話を…」
 ビンセントを睨むアシェル。
「あれ? あの時の…?」
 キョトンとした表情のビンセントの肩に、グラムは手を乗せて低い声で短く言った。
「座れ」
「はい…」
 思わず『ハイ』と言う。
 グラムはビンセントを座らせ、すぅっと短く息を吸ってから話し始めた。
「全員揃ったので、始めたいと思う。知っての通り、今日から我が部隊に研修で参られた、フランクリン中尉だ」
「アシェル=フランクリンです! よろしくお願いします!」
 立ち上がって皆の方を向き、敬礼するアシェル。
 続いてビンセントが挨拶をする。
「俺はビンセント=キングストン! で、こっちが俺のイクサミコのイオ」
「よろしくお願いします」
 イオがペコリとお辞儀。
「じ、自分はレイズ=ザナルティー軍曹であります!」
 カチカチのレイズ。
「私は彼のイクサミコ、サラです。よろしくお願いします」
 サラが、ニコッと微笑んでお辞儀をした。
「そう言えば、ビンセントとレイズ軍曹は、今が初顔合わせだったな…」
「…そうみたいです…」
「あ?」
 レイズを睨むビンセント。
「レイズ、彼がその人だ」
「えっ!?」
「なんだよ?」
 お互いを値踏みするような目で見合う二人。
「もっと早く会わせればよかったですね…」
 エステルがグラムに言った。
「むぅ…」
 溜息混じりの声を上げるグラム。