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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 勉強のできない貧弱な頭の高校生が行った台詞は失笑にふされてもしかたのない台詞だった。現代の医術では角膜を移植するのがやっとで、眼球の移植なんてことは出来ないのだ。SF小説の読み過ぎだと笑われてしまった。眼球にどんだけ複雑に神経伝わってるのかお前知らないのか、と。
 しかしヒロさんはこの頼みを笑わずに引き受け、知り合いのヤブ医者に頼んで世紀の大手術を行ったらしい。本当に胡散臭い医者だった。何だか霊媒移植とかなんとか言っていた気がする。オカルトだった。しかしどんな方法であるにせよ、結果的に移植は成功したのだから文句は言えない。そんな方法がこの世に存在するのかと疑う事もあったが、まぁこんな眼や、異常握力がある世の中なのだ。そんな方法があっても、いいのかもしれないな。以降眼球の後遺症や精密な検査と入院で、上限三ヶ月という基本的な病因の決まりを無視した七ヶ月の入院となった。どうせヤブ医者のヤブ医院だから関係ないけど。その後、もといた病院に戻り人工関節の手術をし、三ヶ月のリハビリ生活をそこで行っていたと言うわけだ。足の方は保険金が出たので問題ないが、眼の方は割と莫大な治療費を請求された。一生かけて払うつもりで、借金をしつつ貯金もして、更に指輪を買ったのだから、五月が刑務所で更正していた間に僕がとんでもなく頑張っていた事を理解していただきたい。
 ともかくもそんな理由で、僕は左目だけ、彼女は右目だけという世にも奇妙な隻眼カップルの誕生だ。
「ま、私の生活をめちゃくちゃにしてくれた雪人君には、その責任を取ってもらおうと考えていたので、いいでしょう。」
「と、いうことは、どういうことでしょう。」
「雪人君、愛してるわ。」
「五月は、僕のどういうところを好きになったの?」
「気が利くところ。私をお昼休みの時に、一緒に食べようと誘ってくれたこと。他の人とは一本線を引いているような、そんな態度だったけど、私には、それがなかったところ。」
「そう。」
「あなたは?雪人君は、何で私を好きになってくれたの?」
「僕の前の席の女の子が、不思議で、可愛くて、綺麗だったから。無口なところも、君の歩き方も、食べ方も、好きだ。」
「そう。」
「でも、一番の原因は、これ、かな。」
 僕は自分の左目を指していった。
「僕の眼はさ、どう?」
「不思議な眼ね。人の頭の当たりに、もやもやと、色のついた霧のようなものが見えるの。」
「僕はそれを、魂の色と呼んでいる。その色はさ、性格によって違ってきたり、傾向があったりするんだ。君の色は赤、もっとも希有な色。とても珍しいから、嫌でも君を見てしまうんだ。君を見て、見続けて、いつの間にか君の事を好きになってた。」
「そう。」
「それでさ、その眼は僕は『認色の眼』と呼んでいるんだけど、その眼で何か気付いた事は無いかい?」
「そうね、自分の色は、見えないわ。鏡に映った自分の色は見えない。だから、そう、私の色は、赤なのね。」
「そういうこと。つまり僕も、自分の色は見えなかったんだ。」
 二一年生きていて、未だに解らなかった自分の色。
「僕はさ、どんな色をしている?」
 昔からの、一つの悲願が達成されようとしている。

「そうね、雪人君の魂の色は、私と同じ、赤い色よ。」

「く、くくく、ふははっ、あはははははははははははははははははははははははは」

 当然だろう、染崎明日香という人一人を殺していて、僕が赤くないわけがないのだ。

「あは、あはははははははははははは、ははははははははははははははははははは」
「雪人君、どうしたの?」
 あたまがおかしくなったの?

「あはははは、否、はは、まぁ、当然そうだなって思っただけさ。あはは。」
 僕の罪は誰にも立証出来ないが、僕が殺人者である事は、彼女が常に覚えていてくれる事だろう。
「あは、否、はは、大丈夫、はは、何かおかしくてさ、はは。」
 人外という共通、隻眼という類似、紅い魂というイクォール。やっぱり僕らは、似ているのだろう。人から外れた人外同士、一緒に生きてゆこう。
「早速行こうか。まずは紹介したい人がいるんだ。僕の上司さ。」
「その人、女の人?」
「まさか、男だよ。浮気なんかしない。僕は君だけを愛している。」




 君は、僕だけの、紅ノ姫君。