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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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What is my Color?


「で、あとは知っている通りです。」
 一気に喋ったので相当疲れてしまった。以降の事はヒロさんもよく見知っている内容なので話す事は無い。
「魂の色が見える眼、ね。成る程。しかも殺人者は必ず赤くなる、ソナーみたいだな、殺人者を見つける人間ソナー。」
 人をソナー扱いしたよこの人。別に超音波で殺人者を探ってるわけじゃない。どういう原理で探っているのかなんて、わかんないけどさ。
「もういいでしょう。これが真相ですよ。事件を解決した高校生には邪気眼の力が宿っていました。犯人を邪気眼の力で見つけることが出来ました。ただそれだけの話ですよ。」
 ふむ、ヒロさんは例えとして推理小説のネタバレを用いていたが、これを元にして推理小説なんぞ出したら失笑、悪ければ大叩きものだ。探偵役であるところの僕が『認色の眼』という『超能力』を用いて事件を解決しました、なんてつまらないにも程がある。ノックスの十戒、だっけ?まぁ堅苦しいルールと言うわけではないが、そういう推理小説のルールを普通に破っている。ふざけんな、こんなん推理小説と言えるか!という文句が来ても何もおかしくないだろう。ヒロさんは納得したくて僕の話を聞き出そうと奮闘していたようだが、蓋を開ければとんでもない、高校三年生が中二病で事件を解決しました、だってさ。こんな話、誰が納得出来るのだろうか。
「認色の眼、ね。ネーミングセンスは微妙だけど。警察としては便利な異能だな。」
「ん、あれ。信じちゃうんですか。」
「お前は自分や五条五月、異能持ちを特別な存在だと思っているようだが、案外そう言う奴はいるもんなんだよ。君らみたいな『人外』は、そう珍しいものじゃない。事実、俺の知り合いにも何人かいるしな。」
 …変な眼を持ってるってだけで、別に自分が特別な存在だと思った事は無いけどなぁ。何それ、ヴェルターズオリジナル?
「まぁ、納得してくれたなら、僕は全然かまいませんけれども。」
「否、信じただけだ。納得は、まぁそうだな、殆どしたが、一部気になるところはあるな。」
 なんだか尻切れな言い方だなぁ。何だろう、話す事は全部話したんだけど。これで納得出来ないとか言われても、話した事は全て事実な訳で、受け入れてもらう他ない。
「受け入れはするさ。だがな、否、余計なお世話かもしれんがな…」
「ヒロさんにしては本当に中途半端な言い方だなぁ。」
 気味が悪いぞ、柏木弘人。
「俺が言うのもなんだけどな…雪人、お前、お前の言う三人の赤い色の女達が人殺しをしてしまった事についてどう思う。」
「どう思うって…」
 そんなこと言われても。
「ん、いや、僕も結局この眼で、人を殺してしまったからさ、だから分かるんだけど、駄目だよね、やっぱ。人殺しをしてしまうと、気が狂ってしまう。今までどこか他人事だった『死』っていう概念を、殺しをした事で、人の死を見る事で理解してしまう。理解した後に分かるよ。『ああ、こんな概念知るべきじゃなかったな』って。」
「それはいいよ、それは解った。そうじゃなくてだな…人殺しをして、お前、その被害者達について考えた事はあるか?」
 被害者?それは、
「染崎さんを殺した、」
「お前じゃない。その染崎明日香と、花笠カオリ、五条五月の手によって殺された人達のことだよ。」
 今回の事件の被害者。二十人を超える、連続殺人事件という舞台に巻き込まれた、運のない共演者達。
「…考えた事は、あんまり、ない、かな………」
「お前は加害者の女の子三人のことを心配していたが、被害者については何も考えていなかったってことか。普通じゃない、とは言わんが、不謹慎ではあるな。お前の友達はお前は他人に無関心である事がお前のパーソナリティと言っていたそうだが、俺にはそれは度が過ぎていると思うぞ。人を殺す事で死を理解し、死を恐れる。だからそんな歪な生活は止めろと、お前は五条五月にそう諭した。お前のその諭し方は被害者のことを全く考慮していない。死に恐れを抱かなければ、人殺しをしてもいいと、そう言っているようにも聞こえるぞ。」
 …まぁ、否定は出来まい。確かに僕は殺された被害者や遺族の事なんてこれっぽっちも頭になかった。可哀想とか、そういう同情の念すら抱かなかった。それは、もしかすると、異常なのかもしれない。
「殺人鬼に殺されたどこかの誰かさんなんて、お前にとってはどうでもいいのかもな。あまりにも他人に無関心で、他人が死のうがどうでもいい。そのくせ、自分が死にそうになると死にたくないと命を乞い、死なない為に相手を殺す、か。究極的な自己中心主義だな。」
「間違いないですね。確かに僕は、僕が知らない人間の死には全然興味がないです。」
「人道や倫理が無いんだな、お前には。無論、人道や倫理の確たる定義は存在しないが、普通の人間はそんな曖昧なものを少なからず持っているし、それに基づいて生きている。そう考えると雪人、お前も立派な『人外』だ。」
 こうハッキリ言われると、結構ショックを受けるものだな。『人外』ね、まぁ、あんな人殺しの眼を持っている時点で、そう言われても仕方ないな。人から外れた力、人から外れた考え方、文字通りの人外だな。
「ヒロさん、僕はさ、人を殺しちゃった人は、そいつはもう人間じゃないと思うんですよ。人が持つ他の動物には無い理性が生んだルール、ルールから生み出した法律、その法律に反するから、人は人を殺してはいけない。人を殺すということは、人間の理性そのものを否定しているんですよ。事実、人を殺したような人間は、狂人だとか、魔が差したとか、理性から一番かけ離れてるじゃないですか。人を殺しちゃったような人は、人という枠からもう外れちゃってるんですよ。だから、そうです。僕は『人外』だ。」
 染崎明日香を殺した、人殺し。
「お前がその眼で殺したと言っても、結局のところ、医学的には染崎明日香の死因はショック死で決着がついている。お前は殺人者であっても、犯罪者ではないよ。」
「恐ろしいですね。人を殺しても罪にならないなんて。」
 人を殺し放題だ。僕こそが殺人鬼として、最も適した『人外』なのかもしれない。
「でももう、それは出来ないんだろう?」
「…なんで解ったんです?」
「だってほら、もうお前サングラスしてないじゃん。」
 そりゃあ、サングラスつけっぱなしで入院生活なんて出来るわけが無いだろう。サングラスはともかく、ヒロさんの言う通り、僕はもうこの眼で人の色を変える事が出来なくなっていた。医師や看護婦さんの色を変えてみようと思ったが、上手くいかなかった。
「片目じゃ能力をフルに発揮する事も出来ない、か。」
 ヒロさんがバナナを皮を剥きながら呟いた。
 僕が入院している原因は、当然足のリハビリにある。しかし僕の体にはもう一つ大きな損傷がある。僕は右目を失っていたのだ。
 足の損傷は膝を奪われた左足が特に酷く、太ももの筋肉は塞がってしまえばどうにかなるが、関節はどうしようもないらしい。しかしそこはそこ、現代の医療の発展は凄まじく、人工関節を置換することによって歩くまでに回復する事が出来た。しかし最初の頃は体内の異物に対する拒絶反応が酷く、歩いただけで吐いてしまったものだ。元々の運動不足も祟って、リハビリは困難を極めた。