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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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CRIMSON


 獣に喰われた遺体。そのような遺体のみ髪が黒かったということを除いても、殺人姫の作る遺体の状況の中でも、考えれば特に異色な方法だったと言えよう。花笠カオリのバットによる撲殺を除けば、どれもこれも道具を用いたあまりにも凄惨な死体のデコレーションだった。凄惨な、という観点で見れば、どれもそうなのだが、道具を観点にしてみると、獣に喰われたというのはどうもおかしい。獣と言う生物を飾り付けの道具にしているのだ。
 否、それも違うか。死因は出血多量だ。獣が肉を噛み千切って、そこから血が流れて死んだのだ。これは飾り付け等ではなく、純粋な殺害をした後、何も手を加えていない状況だ。当然、証拠が残らないよう手を加える程度のことはするのだろうが。
 新聞をめくり、ニュースに耳を傾けながら朝食に手を伸ばす。三日間飲まず食わずというのは相当危ない状況だったらしく、というか通常人間が飲まず食わずで生きていられるのが約三日だったりする。木曜の朝から土曜の昼間で何も接種していなかったギリギリ三日直前。もし土曜の夕飯まで飲まず食わずだった場合、本気で死んでいた可能性が高い。
 日曜日の朝、医者は何処も休みなので医療機関に具合を見てもらうことは出来ないが、昨日の夜にそれまで取ってなかった栄養をたっぷり摂取し、今現在何ともないので医者にかかる心配は無いように思える。今朝もかなり栄養を取ったので、栄養失調になるようなことはない。勿論水分も大量にとった。大事を見るなら今日一日は休んだ方が良いだろう。明日には動き回れるくらいにはなってるはずだ。
 染崎さんの命を奪ったこの忌まわしき眼、認色の魔眼。今は父さんから譲ってもらったサングラスを常備し、人の魂の色は薄く見える程度、集中しないと見えない程度に抑えている。これによって認色の魔眼は僕にとって通常の眼と同じ役割を持つことになった。今ここで眼を潰すわけにはいかない。まだ僕にはやることがある。

 昨日の食事をしながらの事情聴取で、染崎さんが殺人姫であるとわかった理由や、おびき寄せた方法等は話した。しかし染崎さんがどうしてあのような連続殺人に至ったのか、その理由、動機については話さなかった。「分からない」と言った訳ではなく、黙り込んだだけだ。黙り込んだら警察は、青原雪人は染崎明日香から動機を聞き出していない、と勝手に納得し帰っていった。嘘はついていない。ただ話さなかっただけで、相手が勝手に勘違いしただけだ。まあ普通、頭のいかれた殺人鬼から動機を聞ける訳も無いと思うし、そして三日間閉じこもったあげくの事情聴取だ、警察側はやっと信用してくれて出て来た相手がこんな策を弄するとは思っていなかっただろう。巧く出し抜けた。
 正直、本当のことを言っても誰も信じてもらえない気がする。ウルトラマンに憧れて、それに並び立とうとする男子と同じ動機で、殺人を繰り返していた染崎明日香。こんな動機聞かされたら、そりゃあないでしょあんた、嘘つくならもっと面白い嘘をつきなさいよ、と大声で笑ってそう言うだろう。僕だって、それを初めて聞いたりしたら、多分そうする。それほどまでに、彼女の動機は狂っている。憧れの対象が、伝説の殺人姫というんだから、これがまた真実みを打ち消す要因でもある。染崎明日香は、その殺人の動機を、絶対に誰にも理解されることはなかっただろう。
 でも僕は、彼女が笑い者にされるのは嫌だった。例え殺人姫としての側面の彼女が狂っており、それが本物だったとしても、学校で委員長や生徒会副会長の業務をこなしていた、品行方正な彼女もまた、本物なのだ。殺人を繰り返していた彼女は狂っていると断じられても、笑われても仕方ない。しかし学校での彼女までもを否定されるのは嫌だ。染崎明日香はどんな生徒よりも成績が優秀だった。何も知らないやつが笑っていい権利なんてない。
 警察に彼女の動機を言ってしまえば、どこからか嗅ぎ付けたマスコミがそれを面白おかしく余計な脚色を入れ、大々的に報じるのだろう。僕にはそれが許せなかった。だから彼女の動機は誰にも話さない。彼女は最後まで、狂った殺人姫として、この地に名を伝えられてゆくのだ…それがまさに、彼女の言う「伝説の殺人姫」に成れたのかもしれない。
 しかし染崎さんが言っていた伝説の殺人姫「赤坂町の獣」、そして今ニュースで扱われている「獣」に喰われた遺体、最後の紅の少女、「獣の眼」をしていた紅の姫君、五条五月。符号として似通いすぎている。しかし、遺体は実際の獣で、五条さんの眼は、はっきり言ってしまえば僕の主観でしかなく、そして伝説は伝説に過ぎない、眉唾もいいとこだ。
 僕は、また殺人事件に関わろうとしている。もう赤い魂の色は、その三分の二が殺人者だった。もう殆ど決まっているようなものだが、まぁそれを確定したいというのもある。単純な興味本位から、乗りかかった船というやつという理由もある。染崎さんが死に際に残した、殺人姫の伝説を知りたいとも思う。
 でも、一番の理由は、

『私、青原くんのこと、好きだったんだけどなぁ』
 そう言ってくれて、ありがとう。結構うれしいよ。

 でもさ、僕は他に好きな人がいるんだ。ごめん。


 そして好きな人のことを知りたいと思うのは、当然のことだろう?


 トーストをくわえながら今朝の新聞を読む。前日に発見された元政治家殺人事件。獣に喰われたかのような異常な遺体。連続殺人事件の間にも、同じような獣に喰われた遺体は見つかっていた。警察も誰でも、連続殺人の一つだと思っていたが、事実は違った。獣に喰われた遺体のみ、殺人姫の犯行によるものではない。しかし殺人姫は一日に一人殺すという奇妙な法則性で人殺しをしていた。花笠カオリが代わりに行った殺人も含めて、一日に一人だった。そう考えるとおかしなことになる。獣に喰われた殺人が行われた日には、染崎明日香は殺人を行っていないということになる。花笠カオリと同じく、獣もまた染崎明日香と見知っている間柄だったのだろうか。それを知る人間はもうこの世にはいない。しかし彼女は、花笠さんのことは話してくれたが、獣による遺体については僕に何も言っていない。まぁ話をふってないので言えないだけかもしれないが、もしかすると知らない人間が殺していたから言えなかったのかもしれない。
 見知っているにせよ、いないにせよ、染崎明日香はその獣の殺人者については知っていたはずだ。見知らなかったのなら、事件の報道があるまで、殺人を控えていた、とか。
 憧れの存在、伝説の殺人姫。もしかするとこの獣の殺人者こそが、染崎さんの言っていた赤坂町の獣なのではないのか?伝説でしかなかった存在が、今この現代に蘇る…なかなかロマンのある展開じゃないか。同時に血腥くもあるが。
「赤坂町の獣ね…」
 事件が起きているのは若木町なんだけどな。
 普段は読まない新聞を読む。何何、獣は恐らく上顎に四本、下顎に一本、もしくは上顎に一本、下顎に四本、牙があると見られる…現在解明しているどんな動物の歯形にも一致しない咀嚼痕、未知の生命体を用いた犯行か?