【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-
そういう訳で青原雪人を、近くにいた警察に家に送らせた後、上柴は一人取調室で煙草を吹かしながら柏木弘人の報告を待っているのだった。錯乱状態の人間と話していると、誰だって疲れるだろう。何せ会話が噛み合ない。どうして彼が殺人鬼を特定出来たのか、聞いても答えないし「自分が殺した」しか言わない。そんなことは何度も聞いた。会話が出来ないということに勝るストレスはそうそうないと感じた。相手は人間で、日本人なのに、人間の皮を被った全く違う生き物が喋ってるのではないか、とも思った。
煙が取調室を白く染める。吸い殻は山積みになり、今にも崩れ落ちそうだ。
突如、上柴の携帯電話が震えだした。バイブレーション設定で机に置いていた電話はランプを点滅させながら動いていた。上柴はそれをすかさず拾い、柏木からの着信と確認してから電話に出た。
「柏木です。染崎明日香の家宅捜索ですが、連続殺人事件の犯人はやはり染崎ということで決着がつきそうです。」
柏木他が調査した染崎家からは多量の薬物や凶器、返り血のついたコートなどが散乱していた。後に血液鑑定をすれば、被害者と同じ血液だと解るだろう。
しかし捜査員はそれよりももっと驚くべきものを発見した。染崎家は古いアパートの一室を借りており、入り口のドアを開けた瞬間にとてつもない異臭が放たれた。寝室であるだろう畳部屋の和室に、腐敗した男女二つの遺体を発見した。死後恐らく一ヶ月程度経っており、何れも首筋に深い切り傷がある。頸動脈まで達してあるであろう、死因は出血多量と見て間違いない。
部屋を探して見つかった保険証から、女の方は染崎明日香の母親であることがわかった。男の方は染崎姓でなく、染崎母の連れ込んだ男と見るのが正しいだろう。部屋自体は綺麗に見えるが、細部を見渡すと色々な家具が破壊されており、また血痕も見られるところからどういった家庭環境なのかは想像がつく。
家庭環境と同じく、無彩色の味気ない部屋だったが、遺体のものであろう金色と茶色の毛髪だけが、強烈な色彩を放っていた。
作品名:【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ- 作家名:疲れた