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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 五限、六限もまた物思いにふける時間だった。
 染崎さんを疑うには十分な根拠が出そろっている。花笠さんと十年来の付き合いであること、生徒会による理科室他の見回り、無いボタン、赤い魂…いずれも染崎明日香が殺人姫であると考えるには出来すぎているほどの根拠が集まった。
 赤い魂…それは本当に殺人者の色なのか?真紅の魂である五条さんには何も無かった。しかしここで染崎さんが殺人姫であったのならば、五条さんが殺人を犯したことがあると言うことを再び疑わなければならなくなる。そうでないのなら、クラスメイトを疑う必要は無くなるが、赤い魂の色の謎は解けなくなる。
 いっそ、殺人姫というのがこの学校の生徒とはなんの関係もない、赤の他人であったなら、こんな疑惑をクラスメイトにかける必要はないのではないだろうか。僕は赤い魂の謎さえ解ければ、若木町連続殺人事件に関わらずに、その事件を解決出来たのではないだろうかと考えていたが、染崎さんに訪問を断られた以上、殺人姫について調べた方が赤い魂の謎に迫れるのではないか。そう思い始めていた。
 しかしどうやって殺人姫を調べる?僕が調べられる程度の事件ならば、警察がとっくに解決しているはずだ。相手は一切誰にも目撃されずに、二十人以上もの人間を殺している、殺人鬼の中の殺人鬼だ。一介の、人間の魂の色が見えるという特技しか能のない高校生が捕えることが出来るのか?
 しかし、殺人姫は女性だという。ひょろひょろの都会人の僕であっても、腕力くらいなら女性よりはある気がするが…

 ん…?あれ?待て待て待て、おかしいぞ。

 何だ?何故目撃情報が無いのに、何故犯人は女性であるという噂が流れているんだ?矛盾してないか?
 噂は噂と流してしまえばそれまでだけど、一日限りとはいえ、花笠カオリという殺人姫が出たのだ。正解してしまっている。
 そう言えばテレビ番組のテロップでは「殺人姫」などというテロップが流れたことは無い。いずれも「殺人鬼」という、通常よく使う方の字を使っていたはずだ。マスコミが警察と通じて情報を交換し、外に出ないよう勧告をするよう指令が出ている程の関係なら、目撃情報が無いと言うのはかなり信憑性のあるものなのかもしれない。だからこそネットで盛り上がっているネタは噂でしかないと言うことを知っており、視聴率に敏感なテレビ局であっても、ネットのネタを使用することはなかったということだろう。
 だが現実は、花笠カオリは女性であった。僕が疑っていた二人も、女性だ。
 何だ、何故ネット上ではこうも「殺人姫」という呼称が定着している?しかも噂ではなく、事実として合っている。なんだ、殺人鬼が男性ではなく女性であったのなら、非現実性が増して盛り上がりやすかったからなのか?
 それとも、最初から知っていた?

 馬鹿な、目撃情報はゼロなのに、知っている人間が居るはずが無い。知っているのならば直ちに警察に通報するべきだ。国民は皆警察に協力する義務がある。
 本当に知っていたのか?何故通報しない?全く違う地方の人間がおもしろ半分で書き込んでいるのか?馬鹿言え、何故地方の人間が全く異なる地域の殺人犯を目撃出来ると言うのだ。現地人であるならより通報するはずだ。何時自分が巻き込まれるかわからないのに、ネットで遊んでいる場合か。何故だ、最初に「殺人姫」と書き込んだやつは何故知っていた?

 ——殺人姫本人が、そう書き込んだ?

 本人なら、自分が女性であることは当然として、花笠さんが女性であることを知った上で、彼女に犯行をさせたのかも知れない。
 殺人姫が作り上げた遺体は、いずれも凄惨な状態で、見つけてくださいと言わんばかりの場所に放置してある。凄惨とはいうが、その遺体には何かオブジェクトのような、アートのような意味合いがあるのではないか?花笠カオリの犯行時にも感じたことだが、それまでの遺体と違って日曜日のそれは安直な、実に普通の遺体だった。殺人姫はその殺害方法…じゃない、遺体の状態に、何らかの意味や芸術的な価値を見いだしているとか。だから見せびらかす様に、見えやすいところにわざと放置しているのではないか。あるいは、誰かに見せるために。
 動機は考えるだけ無駄だ。誰かがそんなことを言っていた。その通りだろう、殺人姫の精神は地球からぶっ飛んで冥王星あたりに着陸しているに違いない。アートだなんだと理由を無理矢理つけてみるが、精神が何処かに逝っちゃっている者に、あれこれ動機をつけて考えてみても、無駄なのだろう。
 ともかく、殺人姫に心当たりが出来てしまった。ネット上限定の話ではあるが。

 放課後になり、昨日と同じく大輔は早々に帰ってしまった。花笠さんのことで思うことがあるのだろう。昼休みに染崎さんが、花笠さんには大輔の方がお似合いかもしれないと言っていたが、確かに何時も彼女とじゃれていたのは大輔だった。そう言われるとじわじわそんな気がして来た。
 当の花笠さんは現在取調中だ。大輔は、花笠さんが居なくなることで埋めがたき穴が心にぽっかりと開いてしまったのかもしれない。僕にはどうすることも出来ないし、慰めるつもりも無い。今日は今日とて、やることがある。否、先ほど出来てしまった。
「谷川。」
「なんだい?」
 大輔と同じく、そそくさと帰ろうとしている親友その二を呼び止めた。
「ちょっと頼みたいことが出来た。お前ん家に行っていいか?」
 女子に聞くのにあんなに挙動不審になったのに、同性にはなんの躊躇いもなく言えるのは、不思議と言えば不思議…でもなんでもない。
「いいけど、わかってるだろ?」
「わかってるよ、アイスバー九本入りお徳用で良いか?」
「オッケー」
 実に現金な親友だ。しかし物で取引するおかげか、こいつに頼めば、こいつに出来る範囲内のことなら、報酬に応じてやりとげる、中々に頼もしい親友その二、それが谷川信二なのだった。