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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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「どうしたの?何か忘れ物?」
「うん、さっき教科書がないことに気付いてさ、忘れないうちにさっさと取りにこようかなって思って。」
 そう言って先ほどの授業で僕が座った机の下を探り、教科書を取り出してみせた。正真正銘、僕の教科書である。僕はここにわざとこの教科書を忘れて来た。だから忘れ物をしたというのは、正確に言えば間違いなのだろう。
 理由は当然、染崎さんと二人きりになるためだ。当然いやらしい意味ではなく、赤い色の傾向を探るため、二人で話して、あわよくば彼女の家で捜索が出来ればいいな、という魂胆だ。相変わらず家に行くための言い訳は考えていないが、何となく家回りの話に持っていって、「染崎さんの家に行けたらいーなー」って呟く状況を作るくらいしか作戦はない。後は野となれ山となれだ、何やったって、結局はなるようにしかならないのさ。
「ついでにここで昼食もとろうかなって思って。一緒していいかな?」
 パンを見せびらかして言う。
「別にいいけど、ここ薬品の臭いがするけどいいの?」
 む、まぁ確かに臭うけど、そんなものは些末な問題だ。
「気にならないからいいよ。」
 自分が先ほどの授業で座っていた席に腰を置く。よく使う慣れた席になんとなく座ってしまうものだ。
「染崎さんはもう昼は食べたの?」
「うん、もう食べちゃった。私食べるの早いんだ。」
 そうかそうか、五条さんとは正反対だな。もしゃもしゃとパンを頬張りながら話をした。
「委員会の仕事か何かでここに居るんだっけ。何だっけ、盗難?」
「そう、盗難。なんだか色々薬品とか道具が不自然に減ってるんだって。数えミスじゃないそうだし、生徒が悪戯で盗んでるかどうかもわからないから、見張りと数のチェックをね。」
 以前谷川から聞いた話と同じか。あいつはどこからそんな話を聞いてくるのだろうか。
「ふうん、例えば何が盗まれてるの?」
「んー?そうね、薬品だとエタノールとか?あとは道具だと三角フラスコとかカラス管とかゴム栓とか、ビーカーとかメスとかかな。」
「…メスが盗まれてるって危なくない?」
「そうね、小ちゃくても切れ味はあるから、確かに危ないかもね。」
「見張ってても盗まれたりするの?」
「授業中に盗ってるのかなぁ、なるべく休み時間は私が見回ってるけど、気がついたら無くなってるんだよね。」
 盗む方も周到ってことか。一体なんの遊びに使うのか。…動物虐待とか。
「動物虐待はやだなー。他にもいろんな場所で盗まれてるらしいよ。なんかプールの消毒薬が減ってたりとか。」
「消毒薬って、それ毒性あるんじゃない?メスよりそっちの方がやばいよ…」
「うん、だから生徒会と教師とがなるべく厳重に保管してるんだけどね。科学室程じゃないけどちょくちょく盗まれているみたい。」
 …そっちは聞いたことないな。谷川なら知ってるかもしれないから後で聞こうか。
「ふぅん、生徒会も大変だね。学校の治安を守るために、色々頑張ってるんだなぁ。」
「見直したー?青原くんって妙に人を見透かしたような発言するくせに、結構他人に興味ないんだもんね。部活にも入ってないし。」
「うん、見直した。でも他人に興味ないってのはなぁ、そんなことないと思うけど。」
「そうかな?私とかあんまり興味ないんじゃない?」
 そんな馬鹿な。
「否否、染崎さんにはどちらかというと興味がある方ですよ。」
「えぇー、そうかなぁ。私には青原くんは五条さんに興味津々のように見えるけどなぁ。」
 ぐっ、昨日の教室での顛末を誰かから聞いたのか…耳が早いもんだ。
「否、私そんなこと聞いてないけど、昨日何かあったの?」
 ぐくっ、しまった墓穴を掘ったか。
「何にもないです、何もないので余り追求しないでください。」
 昨日のことを知らないってことは前々から知ってたってことか。僕の態度はそんなにバレバレだったっていうのか…。
「そう言われると聞きたくなるなぁ。昨日何があったのか、話しなさい。あ・お・は・ら・くん」
「お断りします。断固拒否します。」
 ていうか何か彼女勘違いしてるっぽいぞ。五条さんに興味があることは否定はしないが、興味の意味を取り違えている気がする。早いとこ誤解を解いておかないといけないか。
「で、何、青原くんってさ、五条さんのこと好きなの?」
 そりゃ嫌いなわけないし、好きかと言われるとものすごく答えにくいので答えないけど。うーん他人に認識の眼について言うわけにもいかないし、そうすると何かいい理由が思いつかないな…いっそ勘違いされていたほうがいいのか?
「…なんでもいいんで違うこと話しません?」
「む、そうきたか。慌てふためいてるのが面白いのに、そういう反応だと面白くないぞっ。」
 別に面白くする気無いし。ていうかこんなことを話にここに来たわけじゃないんだよね。黙秘権を行使しましょう。
「…何も言わない気ね。まぁそんなに言いたくないなら私も聞かないけど。」
「あれ、以外と引き際がいいね。」
「人から無理矢理聞き出すような趣味は持ち合わせておりませんっ。」
「そですか。」
「じゃあさ、花笠さんとはどうだったの?」
 はぁ?
「どうって何が。」
「仲良かったのかなって、思ってさっ。」
「仲は良いけど、それは僕たち何人かでつるんでいるってだけでさ、それ以上でもそれ以下でもないよ。」
「本当に?月曜日、彼女と一緒に学校をさぼったじゃない。」
 うん、そう言われればそうなんだけど、こっちはそう言うつもりじゃないっていうかそれどころじゃなかったんだよね。他人から見ればそう思われても仕方の無いことか…というか、花笠さんは今捕まってるのに、よくもこんな話題に彼女を出せるなぁ。
「別に捕まってるとか捕まってないとか、そういうのは関係ないんじゃない?」
 そうかも知れませんが、普通は話題に出したがらないと思うんだけどなぁ。染崎さんって、結構天然だよね。
「そうかなぁ?まぁ何度か言われたことあるよ。結構傷つくんだけどなぁっ。」
 そ、ですか。
「ふーん、まぁ確かに花笠さんは青原くんよりも秋本君の方がお似合いって気はするなぁ。」
「そうかなぁ…印象だけならそう思えなくもないけど。」
 女子はそういう話が好きだねぇ。烏山高校が誇る秀才も、実態は普通の女の子ということなのだ。
「そういえばさぁ、染崎さんって花笠さんとは仲良かったの?」
 結構前に、花笠さんは染崎さんの注意を聞いたらすぐさまおふざけを止めたことがあった。この二人にはなんかの力関係があるのかな、と今更ながら思いついたのだが。
「仲良いっていうか、小学校からずーっと知り合ってるし。」
「あれ、そうなの。幼なじみってこと?」
「有り体に言えばそうね。かれこれ十年来の付き合いになるのかな?」
 初めて知った。最近一緒に居るところを見てなかったので、そこまで付き合いが長いとは思いもよらなかったな。
 花笠さんが小学校の頃、助けてくれた、麻薬という悪魔から救い出してくれた「あいつ」、それも同じく、小学校からの…
「じゃあ、やっぱり青原くんは五条さんのことが、」
「…」
 もういいよ。
 そろそろ強引に話を戻しますか。
「科学室の道具に消毒薬ね…そんなにいっぱい、一体誰が盗んでいるのやら。」