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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 学校に警察が来ている様子はない。証拠品のボタンは花笠さんのものである、と警察はまだ思っているのかもしれない。もしそう思って、未だに花笠邸を捜索しているのだろうか。ボタンの欠けた制服を探したところで、ボタンが欠けた理由が他にあるかもしれないし、仮に見つからないとしても、警察はスペアのボタンを付けたのではないかと疑うことが出来る。「欠けたスペア」を探して見つかるわけがない。どうあっても、花笠邸からボタンがないということの証明は不可能だ。「ない」ことの証明は出来ない。
 この学校の誰かが疑われない様に、花笠さんは時間を稼いでいるのかもしれない。「あいつ」の為に罪を犯したのに、結局自首してしまった情けない自分の、最後のあがきか。やはり「あいつ」は、殺人姫は、この学校にいるのだろうか。
 教室は大輔がやはり元気がないこと以外は普段通りで、五条さんも普段通りに無口な美少女だった。やはり昨日の帰り際に見た、人外の眼は僕の夢か幻だったのだろう。そうであって欲しい。

 授業はやはりとてつもなく早く終わった。それは僕が考え事をしていたせいなのだが。数学、体育、科学、歴史の授業の内容は一切頭の中に残っていなかった。考え事とは、今日の昼休みに行う作戦である。作戦と言うよりも、言い訳を固めるための外堀を埋めてきた、というところが正しいだろう。昨日は五条さんの部屋でしどろもどろに言い訳を考えるというノープランっぷりを発揮してしまった。

 その後の帰り際も————

 否、それはいい、あれは見間違いだ。
 とにかく、言い訳をその場で考えるのではなく、事前に言い訳を考えておかなくてはならない。まぁ昨日も授業中に考えていたんだけど、全く思いつかなかったんだよね。今日も思いつかなかったけど、その代わりに場所を選ぶという作戦に出た。昨日は教室内で赤っ恥をかいたからな…。もう布石は打ってある。

「おー、飯喰おうぜ。」
 大輔がやって来たが元気がなかった。まぁこいつにも思うところがあるのかもしれない。しかしいくら元気がなくったって食事をとらないと人は生きていけない。昼食の集まりはいつも通りに行われる予定だったが、僕はこれを丁重に断らなければならない。
「あー、僕はちょっと、今日弁当忘れちゃってさ。」
「は?マジかよ」
「うんマジ。何か母親が寝坊したみたいでさ、今日の昼食は買ってくれって。」
 勿論嘘だ。弁当は僕の鞄の中に入っている。
「ふーん、パン買ってここで食うか?」
「ん、安いから食堂で定食買おうかなって。」
「ふーん、そうか、俺は動くのめんどくせえからここで食うけど、信二はどうする?」
「僕もここで食べるよ。」
「五条さんは?」
「ここ」
「だよな。と言うわけで雪人、後で独り飯の感想を聞かせてくれ。」
 はいはいといって教室を出た。ここでみんなして食堂に来られると計画がパァだったが、傷心気味の大輔がめんどくさがってくれて助かった。それにみんなが乗ってくれた。ありがたい。
 ちなみに食堂で定食を食べるのも嘘だ。定食の方が安いのは本当だけど。食堂と場所を同じくする購買部でコロッケパンとジュースを買い、そそくさとその場を後にする。鞄の中で眠っている弁当はあとでおいしくいただく予定だ。具体的には夜食。

 食堂から教室にとんぼ返り、するはずがなく、一階の我が三年C組教室をガン無視し二階へ。二階の端の科学室。今はこの教室に用がある。パンもここで食べるために買ったのだ。ドアは閉め切られていたが、僕はこの部屋に誰かが居ることを知っている。否、誰が居るのかを知っている。普通なら科学の教師だとかそんなものだろうが、教師は普通に職員室で昼食をとる。出前取ってるからね。無造作に扉を開ける。誰が居るかと言うと、
「あら、青原くんじゃない。どうしたのこんな時間に科学室にくるなんて。」
 我がクラスが誇るクラス委員で生徒会副会長、緋色の魂を持つ染崎明日香なのだった。