【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-
SCARLET B
中身の出た遺体を見たと言うのに、昨晩は意外にもよく眠れたものだ。殺人現場に遭遇するのは二度目だから既に慣れていたのか。
朝食の席では親になんやかんや言われた。息子が殺人姫の出没する若木町に、二度も夜遅くまで徘徊していたとなると、説教をしたい気持ちになるのはよくわかる。しかも一度目は普通に事件に巻き込まれているし。言うつもりはなかったけど、パトカーで送られたら言い訳の一つも思いつかない。
当然だがニュースではどの局も昨晩の殺人について報道している。どこか一局くらい違うことを報道してもいいんじゃないか。こっちはもううんざりだ。
「若木町は危ないのに、雪人には危機感がなさ過ぎるわ!」
またこうやって説教を繰り返すからね。
ちなみに昨日僕が遺体を発見したことは誰にも言っていない。厳密には言ったけど。通報したけど名乗りもせず、警察を待たずにさっさと帰ったため、僕があの現場を発見したと言うことは誰も知らないはずだ。二度も現場を発見したとなると、意味のない疑いをかけられそうだし、ヒロさんになんか言われるのも面倒だからだ。事件に関わるな、と言われた翌日にこの有様じゃ、僕がヒロさんの立場だったとしても何か言いたくなる。僕が現場に居残ったとして、言うことなんて何もありはしない。言うことは全部電話で言った。逆探知されると困るので、公衆電話を久しぶりに使わせてもらった。人気のない場所に公衆電話があって助かった。まぁみんなあの時間になると殺人姫に怯えて家に帰るから、人気がないのは当然なんだけどね。
「前にもこういう事件があってのぉ〜それは昔、赤坂っちゅう坂の上でのぉ〜」
ばあちゃんはいつもの話を繰り返していた。
さて、そろそろ登校しないと時間がない。昨晩はよく眠れたが、よく眠りすぎて遅刻寸前だ。一度目の現場遭遇時は、二日も部屋に閉じこもっていたというのに、慣れとは怖いものだ。仮に慣れてなくても、早いうちに学校でやることがあるので、今日は休むわけにはいかない。
玄関で靴を履いていると母親が僕に弁当を渡しにきた。忘れたわけじゃない。今日はそれがない方が都合が良かったのだが、まぁあってもそこまで問題ではないだろう。一々不審がられるのも嫌だし。
作品名:【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ- 作家名:疲れた