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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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 フェンスに貼付けにされていた、と言うより、フェンスに埋め込まれていた、という表現が、この場合は正しいのかもしれない。これ以外の場合があるのなら見てみたいものだ。しかし十字に埋め込まれているさまは、やはり貼付けを連想させるものなのだろう。フェンスの針金をペンチのようなものでねじ切った後、遺体に突き刺している。これで遺体は上体を起こしたままになるという訳だ。
 直ぐそこにマンションがあるというのにも関わらず、目撃者は居ない。殺人鬼もよくもまぁ大胆なことをするものだとも思ったが、よくよく考えてみると若木町周辺住民は連続殺人事件の被害者の一人に数えられた大変と、夕方には我先に自宅に駆け込み籠城を決め込んでいる。目撃者が居ないのは当然か、誰もが家に閉じこもるこの状況では目撃者に期待することは出来ない。
 誰も家からでないと言うのに、それでも被害者が出てしまうのは、やはり被害者自身が油断していたのだろう。あるいは、発見は夕方以降に決まっているが、犯行自体はもっと早い段階で起きており、夕方に発見される様に仕向けている…。普通の殺人者なら、そもそも見つからない様に遺体を処分すると思うのだが、この殺人事件は普通の殺人者によるものではない。明らかに異常な快楽殺人鬼、それが一番、一連の殺人鬼を説明しやすい。
 遺体はフェンスにくくりつけられ、腹を引き裂かれ内蔵がずるりと地面に垂れ下がっている。衣服は着ていない状態なので身元を判明するには時間がかかりそうだった。現場にあるのは遺体のみ。証拠品のたぐいは見つかりそうにない。日曜日に見つかった烏山高校指定の制服のボタンのみが唯一の証拠だ。
 花笠カオリが犯行に関わったのは日曜日のみと既に署内で結論づけている。そしてまたそれ以前の犯人についても、何かを知っていると思われる。だがしかし花笠カオリは口を割ろうとしない。烏山高校の生徒達に探りを入れるよりも、彼女から供述をとった方が何倍も早いので、どうにかして警察は彼女に口を割らせようとしている。しかし最近の世間の眼は厳しく、恫喝恐喝暴力のたぐいは使えず、花笠カオリはそれがなければ怖いものはないという感じで黙りを決め込んでいる。学生全員を調べても良いが、東京のはずれの高校とはいえ、その数は一年から三年生合わせて三百人は居る。それら全員に調査の許可と自宅の捜査をするとなるととんでもない捜査員の数が必要だ。庁から増員が送られてきているとはいえ、三百人の生徒を調べつつ若木町の警備に回す程充実しているとは言えない。上も一家庭ごとにいちいち許可を入れ、拒否した母親が騒ぎだして問題に発展することを嫌がっている。花笠カオリから情報を手に入れるのが一番良いのだが、そうもいかないのが現状だ。そうやって後回しにしていくうちに、こうして殺人は続いていく。
「しかし通報者はまだ見つからないの?」
 上柴がネクタイを緩めながら部下の柏木に聞いた。
「居ないみたいですね。名前も名乗らず、ここに死体があるとだけ言って切ったらしいです。」
 八時四五分頃に公衆電話から通報が入った。相手は名乗らず、死体がある場所だけを言ってすぐさま切ったらしい。公衆電話は現場から二分程歩いた場所にあり、通報者を目撃した人もまたいない。名前を名乗らない通報者、怪しいと言えば怪しいが、犯人本人が態々死体の場所を通報するとも思えない。死体自体は毎回見つけてくださいと言わんばかりの場所に放置されているが、犯人による予告や要求は今までなかった。今回が犯人による通報であるというのは考えにくい。単に名前を知られたくないとか、マスコミの取材がうっとうしいかもしれないという心配をしただけかもしれない。
「しかしその通報者、電話してるとき笑ってたんだろ?」
「そうみたいですね。」
 通報者は通報時、息を切らしていた。パニック状態になっているのかと応対したものは落ち着けようとしたが、通報者は疲れて息を切らしていたと言うよりも、何かがおかしくて笑って、それで息を切らしたような感覚を覚えたらしい。というか、事実ははは、と笑っていたとか。
「…こういう現場を見たら、笑うしかないんじゃないかねぇ。」
 それは確かにそうかもしれない。上柴も柏木も、もう既にこの手の遺体を何度か見ている。職業上仕方のないことだが、そうでない人は、もう笑い飛ばすしか正気を保つ方法はないのだろう。

 しかしそうして笑っている者は、第三者から見れば十分に狂っているように写るのだろう。