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VARIANTAS ACT8 赤銅騎

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「本日付を持ちまして、貴官の専用ユニットとして起動しました戦闘支援AIユニットイクサミコヒューマノイドタイプバージョン1・89個体ナンバー8894‐27110です」
「うんっん? それ名前?」
「正確には名前ではありません。製造ナンバーです」
 彼は、くしゃくしゃと髪を掻き分けながら頭をかいた。
「『名前はまだ無い』…か」
 ビンセントの考え途中に、遠くから術長が怒鳴る。
「おーい! 乗るのか、乗らねぇのか、はっきりしろー!」
「おーう、乗る乗るー!」
 二つ返事で返す。
「ごめん、後にするわ…初仕事頼むね」
「はい」
 返事をすると彼女は、着ていた服を脱ぎ捨てた。
 当惑するビンセント。
「ちょ! お前、こんな所で…!」
 慌てるビンセントを見て、彼女は少々不思議そうな表情で問う。
「どうかしましたか?」
 彼が眼を向けると彼女は、黒いコネクタースーツに身を包んでいた。
 薄いスキンスーツ。ふくよかなボディーラインがくっきりと浮き出るそれは、男にとって目の毒だ。
 しかもこのイクサミコ、相当…巨乳だ。
「いや、…何でもないよ…」
 彼は、心の中でつぶやいた。
「(イクサミコ…奥が深いぜ…)」





Captur 5
 『イクサミコ』ってさ…もっとこう…いかにも『ロボット』って感じだと思ってた訳よ。
 それがさ…
 見た目フツーの女の子なんだよな…それが…
 『イクサミコです』って言われなきゃ分かんないくらい。
 ウエストなんか、キュッと締まったくびれがあって、尻は、ぷりっとした『美尻』だぜ?美尻。
 胸なんかも、こう…
 うん、まぁそれは良しとして、イクサミコを設計した奴の顔が見てみたいと思ったね。俺は。

 で、その娘が今、俺の前に居る訳よ。


        ビンセント=キングストン談。




************




 軽やかに空を舞う機体。
 雲が尾を曳き、とても人型とは思えない動きで機動する。
 空気を切り裂く音以外、殆ど音がない。
 無論コクピット内には、その音さえ届かない。
「静かだな…こいつ」
 ビンセントは、独り言の様に呟いた。
「駆動音は規定の半分以下に抑え、スラスターユニットも通常の物ではなく、高精度グラビティドライブを搭載しています」
 イクサミコがビンセントの独り言に反応。揺らぎの無い無色な声。
「面白そうだな…」
 彼は機体を大きく機動。急激に高度を上げ、加速。
 慣性制御で、コクピットにはGが掛からない。
「間もなく、ドーム天井部です。減速してください」
 数字を刻んでいく高度計。
 警告を出すイクサミコ。
 ドーム天井部、地上高7800m。
 スラスターと全身の動きでブレーキ。
 軽い衝撃が伝わり、機体が静止する。
「通常飛行高度からこの高度まで、たったの4秒かよ~!たまんないね!可愛い娘ちゃん!」
 そう言うと今度は、突然機体を真っ逆さまにして急降下を始めた。
 雲を突き抜け、パワーダイブ。
 降下中も加速し、地面が物凄いスピードで迫る。
 危険速度を知らせる警告音。
「ユーザーへ警告。減速してください」
 ビンセントは警告を無視。
「危険速度限界。オートマニューバーモードへ移行します」
 イクサミコは、機体の制御を要求してきた。
 その間にも、地面が迫る。
「モード移行不許可。もうちょっと辛抱してくれや」
 引き続き手動操縦で対応。
 高度計の表示が、赤色に変わった。
 機体を寸でのところで180°回転させ、地面スレスレのところでブレーキ。
 本来なら地面に墜落しているが、彼は機体性能と操縦センスで衝突を回避した。
 だが彼はいまさらになって気づいてしまった。
 機体のコントロールレバーからビンセントの手の平に伝わる嫌な感覚。
 『こんな乱暴な乗り方、こいつには向いてない』
 実際、機体の高度が上がらない。
「くそ!高度があがらねぇ!どうにかしろ!」
 怒鳴るビンセント。
「通常、このような運用方法は想定していません! 私の制御補佐が追従できません!」
 彼は機体が地面と接触しないように慎重に操作。
 咄嗟に、脚部の“通常では使用しない”緊急用スラスターを噴射。
 減速する機体。
 それでも着地するにはまだオーバースピードだ。
 だが、機体の進行方向上には他の建造物が。
「…ソフトタッチとはいかねぇか…」
 腕と腰をひねり、強引に機体の向きを180度変更。
 その瞬間、つま先が地面と接触。地面が抉り取られてゆく。
 機体がガタガタと振動し始め、ゆれは次第に大きくなる。
 足の裏全体が地面に着き、機体はそのまま滑走する。
 土埃が立ち上り、大きな溝二つを残して、機体は停止した。
「機体停止。墜落は回避しました」
「ごめん…」
 ため息をついてから『彼女』に向かって謝るビンセント。
 彼は大きく深呼吸し、コックピットハッチを開放。
 視界を遮る土埃が、風に流されて晴れていき、向こうから走ってくる一台のトレーラーが見えてきた。
 彼は機体から降りると、地面の土を蹴ってから、機体の足元に座り込むビンセント。 
 彼は不機嫌そうに頬杖をついた。
 当然彼は、その後術長にしこまた締め上げられる羽目となった訳で…
 ゲンコツは食らうわ説教はされるわで、『地獄の門』と恐れられた彼も、術長の前では形無しで、術長はまるで、子供を叱るかのようにビンセントを叱り付けた。

 さて、その二日後である。



************




 カム山が金属を叩く音、何かを研磨する音や切断する音が鳴り止まない整備部。
 彼女はずっと、かの機体の中に篭り、駆動データを何度も読み返していた。

 機体が何故バランスを崩してしまったのか…
 何故しっかりサポート出来なかったのか…
 『彼』が最も必要としているサポートは何なのか…

 彼女は答えを求め、何時間もそうしていた。
 突然、コクピットハッチが開けられ、術長が顔を覗かせた。
「…何でしょうか?」
 怪訝そうな顔をする彼女に、術長が言った。
「疲れただろ? ちょっと、休まねぇか?」
「イクサミコに肉体的疲れはありません」
「心…疲れねぇか?」
「心…ですか?」
 術長にそう言われ、少し困った顔をする彼女。
「まぁ、いいから、ちょっと付き合えや」
「え? あの…」
 術長は少し強引に、彼女を機体から連れ出し、自販機のある休憩所に連れて行った。
「御用件は何でしょうか?」
 不安そうな顔をする彼女に対し、術長は自販機の方を向いたまま聞く。
「何か飲む?」
「…いえ…私は…」
「あ、そう?」
 術長は缶コーヒーを一つ買い、彼女の横に少し離れて座ると、彼女に問い掛ける様に言った。
「答えは、見つかったか?」
 俯いて、膝の上で手を握る彼女。
「…何が答えなのかも分かりません…」
「分からない…か…」
 缶コーヒーを一口飲み、術長は彼女に言った。
「俺はいつも思うんだよ…『答え』は頭で考えて得る物じゃなくて、いつも自分のすぐ側に『ある』物だってな…」
「自分のすぐ側…?」
「だからこそ、求め続けなきゃならんのかもな…でも、お前さんはしっかりやったと思うぜ?俺は」
「でも…私…!」