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VARIANTAS ACT8 赤銅騎

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 さて、修理を始めたは良いが、ロンギマヌスのダメージは外見以上に酷かった。もちろん、脚部フレームは全取り替えで、下肢部のパーツは殆ど全て交換した。『背骨』も、外殻にヒビがあり、4番から15番までを交換した。
 幸い、動力炉は無事だったので、交換せずに済んだが、電子系統は全取り替えだった。
 ビンセントも術長も、お互い趣味と仕事を兼ねているような人間で、作業中は争い事も無く…
「だからぁ!ここのピッチはもっと詰めた方が良いって言ってんだろ!」
「そんな事したら、アライメントが狂うだろうが!このボケがぁ!」
 …多少の衝突は有ったが…
「んだとっ!?このクソジジイ!もういっぺん言ってみろ!」
「おおう!何べんでも言ってやるわ!アホアホアホアホ!」
 …お互いの馬鹿さを露呈しあいながら、5日の歳月を費やし、遂にロンギマヌスは元の形に修理されたのだった。





Captur 4

「あれ?サブさん、今日も術長休みですか?」
 若い作業員は、サブに聞いた。
「いや、来てるよ。ドックに篭ってなんかしてる。後で、3番ドックにあれ持ってこいって…」
「はあ…」
 若者は、困った表情でうなずいた。




************




「………」
「………」
 ビンセントと術長は、無言のままだった。
 二人の眼前には、一機のHMA。
「出来たな…」
「ああ…」
「お疲れ。助かったぜ」
「なーに…楽しかったよ」
 何か、落ち着いた雰囲気の二人は、お互い固く握手した。
「夢中になってて忘れてたよ…お前さん名前は?」
「ビンセント=キングストン…傭兵だ…」
「俺は、ジェフ=ニコルソン。ここでメカニックやっとる」
 ビンセントと術長が、お互いの顔を見て頷く。
「それじゃあ…」
「試運転といきますか…」
 ビンセントは、はしごを登り、コクピットに身体を滑り込ませた。
 馴れた、懐かしい感覚。
 ハッチを閉め、深呼吸。
 起動ディスクを挿入し、起動コマンド入力。
 モニターやコンソール類が光り、ジェネシック・インダストリー社のエンブレムが映し出される。
「Welcome...OSboot.Type‐h1.Standby...」
 コネクションチェック。
 いつもよりスムーズに。
「Complete.」
 ハンガーのロックが外され、脚のダンパーが沈み込む。
 右足を、一歩踏み出す。
「よう。どうだ?」
「いい感じ」
「正面、開くぞ」
 ドック正面のゲートが開く。
 明るい光が、室内に差し込み、機体を照らした。
 そのまま歩いて、ゲートをくぐる。
 外に広がる広大な土地。
 彼は、バーニアのノズルを上下左右に動かし、可動域を確認。
 大丈夫。異常無し。
「重力制御起動っと…」
 機体に内蔵されたベクトルコイルが、唸り声を上げる。
 彼は、そのまま機体を走らせた。
 助走を付け、スピードが乗った所で脚部バーニアを噴射。ホバー走行に移る。
「ごめんな…ロンギマヌス…無理な改造で故障させちまって…痛かったか?もう大丈夫なように修理してやったからよ…だから…もう一度…一緒に翔ぼうぜ!」
 背面メインスラスターを点火。膝を屈め、思い切り伸ばす。
 機体は一気に舞い上がり、空へ。
 尾を曳いて飛び立つロンギマヌス。それを、術長は優しい表情で見送った。
「『少年は絶望を知って、大人へ転落する』か…昔の人は良いこと言ったもんだぜ…なぁ、大佐さんよ」
 振り向く術長。そこにグラムが立っていた。
「彼は?」
「今飛んでった」
 遠くの空を見つめる術長。
「お前さんも、HMAからディカイオスに乗り換える時、自分の機体をぶん回してたのを思い出したよ…」
「彼に、新しい機体の事は?」
「ディープフォレストの事か?今ここに持って来させるとこ」
「そうですか…」
 グラムは術長の横に立ち、同じように空を見上げる。
「その時の私の機体…まだここに?」
「ああ、有るよ。乗るかい?」
 グラムは一瞬、寂しいそうな笑顔をしてから術長に言った。
「…いや…止めときます…」
 くるりと踵を反し、彼は迷いの無い足音を立てながら去っていく。
 そこへ、遠くからのサブの声。
「術長~!」
「おーう…ここに着けろやー」
 ドックのゲートを塞ぐように止まる、HMAを乗せたトレーラーは荷台を起立させ、機体を垂直に立てた。
 トレーラーのキャビンから降りる少女。
 透き通るようなブルーの髪をなびかせ、彼女は空を仰いだ。
 ビンセントの駆るロンギマヌスが頭上を通り過ぎ、風が舞い上がる。
 彼女は、飛ばされぬように帽子を押さえ、ロンギマヌスを目で追った。




************




 修理したばかりの機体を、思うがままに機動させるビンセント。
 まるで曲芸ショーを見ているかのような乗り方で、たぶんこっちのほうが本当の彼。
 彼はふと、気付いた。
 ドックに見たこともない機体が、一機来ている。
 機体を低空で飛行させ、カメラアイを向ける。
 トレーラーの荷台ごと起立する深緑色の機体。
 武装は施されていないが、背中には見たことのない推進機関を背負っている。
 その足元には、あたふたと動き回る作業員と、一人の少女が。
 高解像度デジタルズーム。
 ブルーの髪がはためき、ルビーのような瞳は、モニター越しにビンセントを見ている。
 不思議な感覚を覚えた彼は、機体を一旦高く上昇させてから反転。そのまま着地体勢に入った。
 ドックの、その深緑色の機体の目の前。
 機体をゆっくり降下させ、羽根が落ちるかの様に柔らかく着地。
 ロンギマヌスの足が地面を捕え、片膝を突き、止まる。
 コクピットハッチを開き、顔を覗かせるビンセント。
 少女は彼の顔をじっと見ている。
「…何だ?」
 『じっと見ている』と言うよりは『ガン見』だ。
 少々恥じ入る。
 彼は機体から降り、術長へ歩み寄る。
「どうだった?」
「最高」
 そのとき、術長は一つ瞬きをしてから彼に言った。
「よく馴れた道具は、最高に使い勝手が良い。『道具』と言うより、自分の一部みてぇに思ってくる。けどよ…その道具の用途じゃねぇ事をしちまうと、そいつは壊れちまう」
 ビンセントは深緑の機体に目を向け、術長に言い返した。
「俺達は、その『道具』に命を預けてる…その道具を選ぶのも当然なのは分かってる…でもよ…?」
「今までお前を護ってきたあの子も、『道具』としての限界を分かってる筈だ…だからせめて、今はゆっくり休めてやんなよ…」
 ビンセントは術長の方を向き、ゆっくり頷く。
「あれは?」
「HMA‐h2E/F・ディープフォレスト。加速曲線に高機動姿勢制御、180゜姿勢変換速度…どれもピカイチの空軍機だぜ?」
「ロンギマヌス、車庫入れ頼むわ…」
 そう言うと彼は、トレーラーの方に歩いて行き、そこに立つ巨人の足元に。
 下から見上げ、まじまじと眺める。
 強い視線を感じるビンセント。
 彼が横目で見ると、その子はやはり彼の事をじっと見ていた。
「君、イクサミコ?」
「はい」
 彼女は表情一つ変えない。
「名前は?」