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VARIANTAS ACT8 赤銅騎

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 巨大なゲートが、重苦しい音を立てながら開き、その中へ、それはまた巨大なトレーラーが入ってきた。
 外見ではタイヤなのか、ホバーなのかが分からない大型の駆動装置が両側に、合わせて八つある、本当に巨大な『輸送車』だ。
 誘導員の指示を聞きながら、ゆっくりバックで入ってくる『それ』は、低い唸り声を上げながら、圧縮空気の噴射音を鳴り響かせ、停止した。
「よぉーし…下ろし終わったら、すぐに換装と点検調整はじめっぞ~」
 術長が指示を出すと、『おー』とも『ういー』とも聞こえるはっきりしない発音の返事が、作業員達から返ってくる。
「おい、サブ」
 術長が、近くにいた若い技術者を呼んだ。
「うっす」
 元気の良い返事。
「ちょっと、電算室行ってくっからよ、後頼むわ」
「あれ? 術長、何かのバグ取りっすか?」
「いんや…昔の女を忘れられない哀れな男を、叱咤しに行くのサ…」
「…ふーん、そうっすか」
 術長が若者にコブラツイストをかける。
「てめぇ! 年長者の話は真面目に聞きやがれ!」
「ぎゃあ! だってギャグにしか聞こえな…」
「このヤロ!バカヤロ!」
「…あぁぁぁぁぁい!」

 合掌。




************




 画面上を、HMAを模した点と線が躍動する。
 その動きに乱れは無く、滑らかに、素早く。
 しかし突然、画面に警告のウインドウが次々に出た。

 『重力制御機能停止』
 『慣性制御不能』
 『機体荷重過負荷』
 『姿勢制御不能』
 『推進機関機能停止』
 『関節破損』
 『機体大破』


「うーん!分からん!」
 ビンセントは、技術部の電算室に篭り、自分の機体の起動ディスクをコンピューターに読み込ませていた。駆動データを用い、機体の動きを再現してみる。
が、何度試しても、結果は一緒だった。
「ぬ~ん…」
 ビンセントは眉間を押さえ、溜め息。
 少々疲れてきた。
 彼は自販機に行く為に、ドアへ向かい、ドアノブに手をかける。
 だが、次の瞬間、扉は外側から勢い良く開き、ビンセントの顔面に迫った。
 激しい衝突音。
「ごっ!」
「きゃあ!」
 彼は、鼻柱を扉に強打。
 鼻を押さえ、うずくまる。
「痛ってぇ! おい、コラァ! 気をつけやがれ! この馬鹿や…」
 罵倒の言葉を飲み込むビンセント。
「ごめんなさい! 急いでて…! 大丈夫ですか!?」
 グレンは膝を突き、手の平をひらひらさせながら慌てていた。
「あー、もう! そそっかしくて、私たまにやっちゃうんです!」
 ハンカチを取り出すグレン。
「いやぁはっはっは! 何ともないよ、お嬢さん!」
 ビンセントは態度を一変させ、爽やかな顔を見せる。
 哀れ、女好きの哀しい性…
「これも何かの縁! この後お茶でも…」
「でも…」
 困った顔をするグレン。
「嫌かい…?」
「あの…血…」
「ぅえ?」
 ビンセントの鼻孔からは、たらりと血液が。
「(オーイエー…オレカッコワルイ…)」
 彼は満面の笑顔で、鼻血を垂らした。





Captur 3

「サブさーん!スラスターユニットとオートバランサーの調整、終わりましたー!」
 作業員が、遠くから大声で叫んだ。
「よーし。術長呼んでくるわー。点検続けてくれー」
 若者は手袋を取り、タオルで汗を拭きながら機体を見上げる。
 深緑色の鋼鉄の巨人を眺め、若者は呟いた。
「戦争…早く終わんねぇかなぁ…」




************



「本当に大丈夫ですか?」
 グレンは申し訳なさそうに、ビンセントに言った。
「大丈夫!大丈夫!」
 ベンチに座り、鼻にティッシュを詰め、鼻声で話すビンセント。
「君、メカニック?」
「いえ、私は開発部の方で」
「珍しいね。頭良いんだ(?)」
「これでも一応物理学者なんですよ?」
「へぇ~」
 笑いながら話す二人。
「そういや、急いでたみたいだけど…」
「そうだ!電算室!」
「今、何の研究してんの?」
 ビンセントは愛想よく爽やかな表情をした。
「研究って程の物じゃないんですけど…」
 グレンは手元のファイルを見せながら説明。
「機体とイクサミコのマッチングチェックです。イクサミコをそのままに機体を換えると、イクサミコに過負荷がかかるんです。それで、イクサミコの換装無しでどうにかならないかって言われて…」
「へー…あれ? 君、物理学者じゃなかったっけ?」
 よく考えれば、グレンは『物理学者』だ。
 『電子工学』を任ずるのは少々無理がある。
 ビンセントの疑問を他所に、グレンは笑顔で答えた。
「最近は先攻だけじゃなくて、色んな方面も勉強する事にしたんです。これでも、HMAいじれるんですよっ?」
「君はすごいなぁ」
 ビンセントが何かに気付いた。
「(電子系?負担?機体変更?)」
 閃き、一瞬。
「あ…そうか…。お嬢さん。ありがとう!」
「え? え? え?」
 何が何か分からないグレン。
「こらぁっ! この野郎! 電算室に居ねぇから、どこほっつき歩いてんのかと思えば、ナンパか、この馬鹿野郎!」
 ビンセントを見つけた術長が目を吊り上げて声を張り上げた。
「バカ! ちげぇよ! 話してただけだ!」
「術長さん!?」
 術長はビンセントの首根っこを腕で絞める。
「このスケコマシがぁぁぁぁ!」
「うごーー!」
 強烈なチョークスリーパー。
「嬢ちゃんも、用事は済んだのかい!?」
「ご、ごめんなさい! まだです!」
 『しゅん』とするグレン。
 突然、ビンセントが叫んだ。
「で!で!電装系!(鼻声)」
「何!?『変態系』?」
 ビンセントは鼻のティッシュを取った。
 今度ははっきりした発音で。
「電装系!」
 術長が動きを止めた。
「電装系のチューニングとグレードアップをしてなかった!」
 暫くの沈黙後、術長が言う。
「…上出来だ」
 ビンセントを離す。
「修理、させてくれんだろうな…?」
「あれはもう、ゲージにはねぇ」
「まさか、処分したんじゃねぇだろうな!?」
「ちげぇ、バカ。3番ドックに移しといた。言っただろ?そん時ゃ手伝ってやるってな」
 意外な言葉にビンセントの表情が明るくなる。
「ほれ、行くぞ」
 術長はそう言って、ビンセントを残したまま、ドックに向かった。
 後を追うビンセント。
 一旦、足を止める。
「そういや、君、名前は?」
「あ、はい! グレン。グレン=ヴェジエです。あなたは?」
「俺は、ビン…」
 ビンセントの襟首を掴む術長。
「いつまで、くっちゃべってんだ! バカ」
 引いて行かれるビンセント。
 術長の力は、かなり強力だ。
「だっ! だっ! ちょっ! ま、待て! あー! またね~!」
 ひらひらと、手を振るビンセント。
 グレンも手を振って答える。
 やがてビンセントは、曲がり角を曲がり、姿を消した。
「面白い人っ」
 グレンは『くすっ』と笑った。




************




 かくして、ビンセントは本格的にロンギマヌスの修理を始めた。
 無論、術長のバックアップ有っての事だが…