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VARIANTAS  ‎ACT7 considers‎

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「2183年3月、終戦間際の、私がまだ人間と戦争をしていた頃だ。私の指揮していた機甲軍団右翼が、敵の猛攻にあい、防衛線が壊乱。結果、右翼第2軍と左翼第4軍との間に、東西40kmにも及ぶ空隙が生じ、そこに敵機甲軍団がなだれ込んできた。これを憂慮した私は、当時少佐だったミラーズの指揮する部隊に、護衛の傭兵部隊を付け、前線の強行偵察を命じた。彼等にとって、酷な任務だったと思うが、敵にとっては非情なまでに不運だった。ミラーズは、強行偵察を行うまでもなく、的確に前線の状態を把握しきっていた。そして彼等は、この空隙を自分達で防衛する事を決意した。しかし、対する敵は、二個大隊もの機甲戦力を当てており、彼等は成す術もなく壊滅するかの様に思われた。しかし彼等は、友軍が戦力を立て直すまで、実に3日間もの間、敵を阻止し続けた。彼と傭兵部隊の長は、凄まじいまでの戦闘力を発揮し、結果、友軍の増援部隊が到着し、敵の進撃は頓挫する事となる。何より敵は、狭い区域に戦力を当て過ぎていた。ミラーズの指揮する部隊は、その驚異的な戦闘能力のせいで、大隊規模の戦力と誤認されていたからだ。だが、実際はミラーズ…いや、ヘルファイヤーグラムの指揮する部隊の戦力は、僅かHMA9機のみだった。部隊の名は、『ナインテールフォックス』、傭兵の名は、『ヘルゲートビンセント』と称されるビンセント=キングストン…彼等は後も、前線で戦い続け、敵に大量の出血を強いた」
 ガルスは、マグカップを揺らしながら、遠い目で天井を見る。
「だが、この奇跡には、悲惨な結末が待っていた。戦況が膠着状態になった時、ミラーズの部隊に、撤収命令が下された。すでに英雄視されていたミラーズの戦死を、異常なまでに危惧した軍上層部が、彼等に転戦を命じたからだ。…この時、最終命令を下したのは、私だ。結果、彼等は、この戦線を離れる事となった。しかしそれは、軍上層部が、敵の再進攻を事前に察知していたからだ」
「傭兵達を捨て駒にした…?」
「そうだ。結果、戦力を立て直した敵軍が突如として強襲し、残された傭兵部隊は、壊滅した…」
 言葉を交わさぬまま、暫く沈黙するガルスとレイラ。
「…なぜ、彼でなければならないのです?」
「ビンセントは事実を知らぬまま、私ではなく、ミラーズを恨んでいる。仲間を多く失った彼は、事実を知る権利がある」
 それを聞いたレイラは、俯き、苦悩の表情を見せた。
「余計…賛成できません…。もし、そうすれば、彼は司令の事を憎むかもしれません…司令は、命令に従っただけなのに…」
「レイラ…」
「は…い…?」
「お互い、憎んでいようと無かろうと、彼等は無二の戦友だ…ビンセントは、グラムの事を心から憎みきれていない。彼はどうしたらいいか解らないのだ。それに…」
 ガルスは言葉を詰まらせた。
「司令…?」
「…私は、憎まれても当然な事をした。これも私の責務ならば、私は甘んじて受けるつもりだ。若者は生き、老人は姿を消す。この世の摂理だ。彼等に罪はない。罪人は私だ」
「だめです」
「レイラ君?」
 レイラが、優しくも悲しそうな顔でガルスに言う。
「いつも、そうやってご自分のせいにして、全部背負って…そんなの、だめです。何でもおっしゃって下さい…私が出来る事なら、なんでも力になりますから…私じゃ駄目ですか…?」
 ガルスは彼女から目を逸らし、椅子から立つと、後ろを向いて窓から外を見た。
「君のコーヒーは、幾ら飲んでも飽きないな…」
 微笑むレイラ。
「おかわりしますか?」
「うむ…」
 くるりと向きを変えるレイラ。
「レイラ君…」
「はい?」
「ありがとう」
 レイラは嬉しそうな笑顔をしてから、部屋を出た。




************




「それでよ…俺にどうしろって言うんだい?」
 ビンセントは鋭い目付きで、エステルを睨んだ。
「私は、話をしに来ただけです。どうするかは貴方が決めてください。『人間』には、『自由意思』があるのでしょう?」
「お前さん、『イクサミコ』か!?」
 エステルはビンセントに背を向けた。
「それと…大佐は亡くなった傭兵の方々の名前を、全員覚えてらっしゃいたした。その名は今も、中央広場にある戦没者名碑に刻まれてますよ…」
 エステルはそのまま部屋を出た。
 無言のまま見送るビンセント。
 扉が、重い音を出して閉まる。
「くそ!」
 彼は椅子から立ち上がり、壁を拳でおもいっきり殴り付けた。
 皮膚が裂け、血が床に落ちた。

『大佐は何度も、貴方達の救援に行かして欲しいと、求めたそうです。でも、上層部が許可しなかった…。大佐は貴方から貰ったお酒を、一口も飲まずに今も大事に取ってあるんです。大佐は私に言いました。『これは大事な友人の為に取ってある酒なんだ』って…。『いつかまた何処かで再会した時に飲む』って…。彼は、貴方が必ず生きていると信じていましたよ?』

 ビンセントの心に、エステルの言葉がこだました。
 彼は、血の滲んだ拳をさすりながらつぶやく。
「ちくしょう…利き手で殴れなくなっちまった…」
 ビンセントは扉に近付き大声で叫んだ。
「看守さんよぅ!」
「なんだ?」
「死ぬ前に、外の空気吸いたいんだけど」
 彼は電子ロックの手錠と拘束衣を付け、外に出た。




Captur 4

 彼が外に出た頃には、街は既に夜中だった。
 人の替わりに、街灯が立ち並び、道を照らしている。
 涼しい風が、彼の頬を撫でた。
 手錠と拘束衣が無ければ最高の夜だ。
 背伸びが出来ないから、深く深呼吸。
 澄んだ空気で肺を満たす。
「中央広場まで案内してくんない?」
 ビンセントは、武装した3人組の監視員の一人に言った。
 三人は顔を見合わせ、そのうちの一人が、『付いて来い』と、顎で合図。
 監視員は、ライフルのグリップをハイマウントで持ち、一人が前に、残りの二人がビンセントの後ろに立ち、中央広場まで案内して行った。

 『中央広場』は、サンヘドリン施設の近く、ドーム都市の調度ど真ん中にある公共広場だ。
 地面に人造大理石を敷き詰めた豪華な造りで、広場の真ん中には大きな噴水がある。
 バロック式の芸術的な物で、大昔の有名な彫刻家の作品を模したものらしい。
 夜にはライトアップされ、幻想的な雰囲気と、美しい光を発する。
 そして、ホログラフで作り出された無数の書き板が、その周囲を周回している。
 数多の人名が刻まれたそれは、第四次大戦勃発以後、戦闘で命を落とした兵士の名前が刻まれている。
 だが、民間人や、正規軍以外の戦闘員が、ここに名が刻まれる事は本来無い。
 彼はその噴水の前に立ち、そのホログラフに眼を留め、その中から、かつての戦友達の名を探そうとした。
 透明のホログラフ画面に、白色で刻まれた見ず知らずの名前を、眼で追いながら。
 だが、彼は途中で探すのを止めた。
 『どうせ嘘かも知れない』と、思ったのも理由の一つたが、他にもう一つ大きな理由があった。

 無数の書き板に記された膨大な数の名は、百年と言う異常な長さの戦争の中で死んでいった人々が、どれほど多いかを嫌でも分からせてくれる物だった。