VARIANTAS ACT7 considers
ほんの一瞬でも、戦友達の死が、その異常な戦争の中では小さな物と思ってしまった彼は、自責の念に駆られ、彼らの名前を探すことを止めた。
彼はベンチに座り、空を見た。
雲ひとつ無い夜空だった。
ビンセントは、一つため息をついてから、ゆっくり立ち上がった。
周囲を見回すビンセント。
すると、噴水の向こう側に人影が見えた。
そこにはグラムの姿が。
彼はゆっくりベンチに歩み寄った。
ビンセントに銃を向ける監視員。
「よせ」
グラムの一声で銃を下ろす監視員。
グラムの横に座るビンセント。
その他人行儀な表情のグラムを見て、彼は言った。
「ケジメ…つけようじゃねぇか…」
暫くの沈黙。
「何で、俺達を見捨てた?」
彼は躊躇うことなく、グラムに問い質した。
無言のグラム。
そんな彼に、ビンセントは言った。
「うちに居たダッジは、かみさん貰って、ガキが生まれたばっかだった…リコは10歳になる妹がいた…アルバは…」
「…帰ったら、結婚する恋人がいた…」
グラムが、相槌を打つ様に言った。
一瞬ため息をつくビンセント。
「おめぇが死なせたのは、そう言う連中だ…」
ビンセントはグラムにそう言うと、大きく空を仰いだ。
「…何で、こうなったかも分かんねぇままな…」
無言のグラム。
「また、だんまりか…」
そう言うとビンセントも、空を仰いだまま沈黙し、そのまま時間だけが流れた。
長い時間をはさんで、ビンセントがグラムに言う。
「何で、本当の事を言おうとしねぇんだ?」
グラムを睨むビンセント。
「銀髪の女の子に、聞いたぜ? 一部始終全部な…」
「(余計な事を…)」
グラムは俯いた。
「前から思ってたんだけどよ…お前、マゾの気でもあんのか?」
ビンセントは、素っ頓狂な質問を真面目な顔でグラムに問い質した。
「何を言い出すんだ…?」
「おめぇ、他人にどんなに悪く言われても、悪い噂が立ってても、反論どころか、否定さえしねぇ…一体なんなんだ?」
答えるグラム。
「他人がどう思っているかなど、関係ない」
言葉の通り、何処か他人行儀なグラムを見て、ビンセントは言った。
「おめぇ…友達いないだろ?」
グラムの口の中に広がる、苦い感覚。
「それが一体どうした?」
彼は踵を返す様に言った。
「おめぇは、何の為に戦ってんだ?」
グラムは堰を切ったかの様に語り始める。
「ただ漠然と存在する記憶と、選択の無い道筋…私に与えられたのは唯それだけだ。私に与えられたのは、兵器の部品となって戦うこと…それしか知らない」
答えるビンセント。
「銀髪の子は、俺にこう言ったんだ…『人には、自由意思が有る』ってな…だからせめて、今は自分の為に戦ったらどうだ?大義名分なんか、後から考えりゃいい」
「ビンセント…お前の自由意思は何だ?」
「戦ってやるよ。何より自分の為にな…」
彼はそう言うと、ベンチから立ち上がった。
「そうだ、煙草くんない?」
「煙草は吸わん」
「うん、知ってる」
「……?」
「変わってねぇな…お前…」
ビンセントはそう言い残し、監視員に連れて行かれた。
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「それで、彼は何と?」
夜更けにも関わらず、エステルはグラムの部屋で、彼の話を聞いていた。
すべてを話すグラム。
そして一応に聞き終えると、彼女は言った。
「グラム…私がしたことは、余計だったかしら?」
グラムは首を横に振った。
「そう…よかった…」
椅子から立ち、ドアに向かうエステル。
「エステル…」
その時グラムは彼女を呼び止め、彼女が振り返るより早く、後ろから抱きしめた。
「…どうしたの?」
「すまん…少しだけ、こういさせてくれ…」
何処か悲しそうなグラムの顔を見て、彼女は何も言わずに、グラムの腕に手を重ねた。
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その頃ビンセントは、看守に引かれながら一つのことを思い出した。
「ん…? 何か忘れてるような…?」
[サンヘドリン拘留所」
「旦那~…俺はどーなるんっすか~?おーい…旦那~?…寒い……」
[ACT 7]終
作品名:VARIANTAS ACT7 considers 作家名:機動電介