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VARIANTAS  ‎ACT7 considers‎

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 グラムの言葉を聞いて、ビンセントは不適な笑顔をしてから言い返した。
「へっ!俺も立派になったもんだな…なぁグラムよ」
「やけに冷静だな…」
「こんな稼業をしてるとな…『死ぬ』っちゅう事を考えなくなっちまう…。敵に捕まって殺されるか…戦場で死ぬか…。そんな事どうでもよくなっちまうもんなんだよ」
 彼はグラムにそう言うと、天井を仰ぐ。
「で、ミラーズ大佐さんよ…俺をどうする気だい? どうせ、治安局に引き渡すんだろうけどよ…?」
「いや、引渡しはしない」
「何?」
 思わず、グラムの目を見るビンセント。
「治安局には引き渡さない」
「…俺を、取引き材料にしようってか? 俺ほどにもなれば、大層な取引きができそうだな?」
 突然グラムは、眉を吊り上げて声を荒げた。
「自惚れるんじゃない、ビンセント! お前がやってきた事など、糞の足しにもならん唯の犯罪行為だ!」
 この言葉を聞いて激昂するビンセント。
「糞の足しにもならねぇだと? ふざけんな! なんで俺がこんな事してるか、てめぇは分かってんのか!?」
 グラムは、冷静に言い返す。
「知らん。知りたくもない!」
「いや、聞け! そして知るんだ!」
 ビンセントは、上がった息を落ち着かせてから、言い聞かせるように、グラムに語り始めた。
「まだ大戦中の、俺達がアフリカ戦線にいた時だ。俺達は伸びきった補給線と、前線で敵を叩き続けて、辺り一帯がノーマンズランドになって、戦況が膠着状態になった。俺は言ったせ?『今、増援を要請して、俺と、てめぇの部隊で突撃をかければ、ヤれる』ってな…。だが、増援も突撃も無かった。その三日後だ。いきなりお前の部隊が撤収する事になったのは…。撤退の理由を聞いても、てめぇも、誰も答えなかった。正規軍じゃねぇ俺達には、てめぇらを引き止める事なんてできねぇ…。おめぇらはコンテナ2つ分の弾薬だけを残して行っちまった…。そして、その後すぐだ…いきなり敵の猛攻があった…。戦力を立て直した敵軍は、俺達の左翼と右翼から、機甲部隊を3個中隊も当ててきやがった…。俺達は必死に戦ったんだぜ?それでも、敵の大戦力に敵う訳がなかった…。前線は総崩れ…防衛線の切れ目からなだれ込んだ敵に、仲間は次々にやられていったよ…。俺達は、お前達に救援を求めた…何度も…何度も…。救援は…結局来なかった…。部隊の仲間は殆ど全員死んだよ…。俺も、死にかけた…」
 二人の間に流れる、長い沈黙の時間。
「………」
 ただ、沈黙するだけのグラム。
「俺が、ヤバイ橋を渡ってでもこの仕事を続けてんのは、その時死んだ奴らの女房や、ガキ達を食わしてやる為に、やってんだよ…。解るか?グラム…俺の言っている意味が…!」
 ビンセントは、グラムを強い眼差しで睨んだ。
「言いたいのは…それだけか?」
 全く意に介さないかのような表情でビンセントを見つめるグラムを見たビンセントは、諦めるかの様な表情で溜め息をついた。
「ふ…こんだけ言っても無駄か…」
 ビンセントは崩れる様に、背もたれに寄り掛かる。
「ビンセント、一つだけ聞きたい事が有る」
「何だ…?」
「クライアントは、キクチ金属工業か?」
「違う、菊池は関係ない」
「…お前は…何の為に、闘っているんだ?」
「過去を精算するためだ。金の為だけじゃない…自分の過去を、自分の命と、戦いで精算し続ける為に闘ってんだ。それ以上でも、以下でもねぇ」
 グラムとビンセントは、お互いの顔を見合った。
 長い沈黙。
 グラムが、ビンセントに言った。
「過去など、無価値だ…」
「悪い事も、良い事も…過去の自分が、今の自分を創っているんだ…無価値なんかじゃねぇよ」
「死ぬ時は、全て無に帰るんだぞ?」
「その時ゃ、良い事だけ思い出して、ニッコリ笑って死ぬさ…」
「笑って死ぬ…か…。しかしな、ビンセント。お前は既に死んでいる」
「は? 何!?」
 ビンセントは目を見開いた。
「お前は既に、死んだ事になっている。統治局にも、治安局にも、お前の名前は無い。もちろん、お前の自治区にも、通知が行っている」
「そ、それじゃあみんなはどうなるんだ!!」
 グラムは威圧的な態度で、ビンセントに言った。
「お前に残された道は二つ。我々に協力するか、しないかだ」
「しない場合は?」
「その場合は、一生幽閉される事になる」
「どっちにしてもゴキゲンだな…」
 そう言って不敵に微笑むビンセントに、グラムがリモコンを向けた。
 高い電子音が鳴り、音を立てて床に落ちる手錠。
「どうゆうつもりだ?」
「よく考えろ…お前自身の為にも、そしてお前の『家族』の為にも…。どっちが最善かをな…」
 グラムは、ビンセントに背を向け、部屋から出て行った。
 ビンセントは、グラムの背中を見ながらそのまま部屋に残り、腰をかがめたまま目をつぶり、過去を回想する。
 ビンセントの脳裏に響く、『過去』の声。
『ビンセント!救援は!?』
『さっきからコールしてる!』
『このままじゃ全滅しちまう!』
『くそ!こっちも、弾が尽きた!』
『終わりか…』
『まだだ!おめぇら諦めんじゃねぇ!』
『じゃあな…ビンセント…』

 瞼を閉じれば、その時の場景が今も甦る。
 この声を聞く度に、彼の心は激しく疼いた。
 廊下から聞こえる喧騒。
 突然、何者かを制止する兵士の声が聞こえ、ビンセントは顔を起こした。
「困ります!エステルさん!」
「少しでいいの。少し話ができれば」
「しかし…!」
「大丈夫。大佐には許可をもらっているから」
「……本当に少しですよ?」
「ありがと」
 話声が止むと、今度は女性物の、靴の足音が聞こえた。
 足音が止まり、扉が開く。
「少し…お話しません?」





Captur 3

 レイラが、ガルスのデスクにコーヒーの入ったカップを置いた。
「すまん…」
「司令…もう5杯目ですよ?」
「うむ…どうも落ち着かなくてな…」
「彼等の件ですか…?」
「むう…」
「私が意見するのは僭越ですが…」
 レイラは、心配そうな表情で、トレーを持つ手に力を込める。
「私は、彼を部隊に迎え入れる事は反対です…彼の様な『傭兵』を迎えるのは、部隊の威信に関わります…」
「レイラ君、それは奴が、信用出来る人間ではないと言いたいのかね?」
「はい…」
 ガルスは椅子の背もたれに寄り掛かり、一つ、そして深く溜め息をついた。
「レイラ君…君は『九尾の狐』を知っているか?」
「はい。知っています」
「事実を…知ってはいないだろう?」
「事実…ですか?」
「そうだ…消された事実だ」
 ガルスは、コーヒーを一口呑み、ゆっくり語り始めた。